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「プルースト現象」
会社の入ったビルを出て曲がり角を曲がると甘い香りがすることがある。先輩や上司となんかいいよねと話し、上司が「プルースト現象」について教えてくれた。
匂いによって嗅いだときの思い出や感情が蘇ることらしい。
人間は感覚を受け取るとき、視覚情報からが8割、嗅覚情報は1割にも満たない。それなのに匂いは一番記憶に残りやすい。
何故か。
気になって調べてみると、嗅覚の脳(海馬)への刺激は他の五感刺激よりも最短で早くたどりくため脳に焼き付きやすいんだとか。
人間って面白いなぁと、つくづく思う。

「反出生主義」
最初にこの考えになったのは確か小学校に上がってすぐのころだったと思う。自分の存在意義について疑問に思っていること自体が異質でいけない思考だと思っていたが、長年の考え方に名前があったと知って幾分か安心することができた。

日々、たくさんの「新しい」ことに向き合っている。上京するまえの自分なら音を上げていたようなことにも思いの外うまいことやり過ごしていて「私」という人間らしい適応能力に驚かされている。

そんな私だから初めての給料は好きな音楽を聞ける”こと”にお金をかけることにした。形あるものはいつか壊れるが、一番慣れに苦しんだ一ヶ月を称えるにはものではなくて体験に充てたかった。一日かけて好きな音楽を浴びている間、不思議と下手なことを考えなくても良くなった。やはり音楽は私にとって救いのような気がする。頭を空っぽにしたいとき、自分の世界に入り込んで集中したいときなんかはよく音楽を聞く。一般論のようでいて、聞き慣れた、好きな、心地の良い音楽は変わらずそこにいてくれる。恒常的でいつもそばにいてくれる。

音楽の詩でもメロディーでもリズムでもいいけど、そのときに感じたことをちゃんと覚えていてくれるのである種、私にとってのプルースト効果のようなものだ。辛かったときに聞いたものはちゃんと辛いし、幸せなときに聞いた音楽はちゃんと幸せに聞ける。でも記憶の、感情の上書きはいつだってできる。辛かった記憶をちゃんと受け入れられるようにもなったし存在意義についてはクヨクヨ悩むことも減った。全くの未知から多少は知っていることが増えたから恐怖が薄れてきたんだとも教えてくれた。そんな存在が新天地・東京にはできた。そして、ものを作り続けられる今の環境なら少しは反出生主義から抜け出せるのかもしれないと淡く期待を持てるようになったことで「大人になれたんだな」と思えた。つまるところ、いつかワインよりビールのほうが好きな私になる可能性だってあるってことだ。

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