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ひゅう、ひゅるり。

 幻想は追いかけないほうがいい。追いかけてしまうとロクなことがない。ホストに2000万円もつぎ込んだのよ、と叫んでいた女が逮捕された。幻想を追いかけた末の、掛かった▼▼▼▼と勘違いした梯子の掛け違い。幻想を追いかけ過ぎると、どこで足を踏み外すかわからない。傍観して笑っていたのは、逮捕される前の女もきっと同じ。渦中に踏み入ると、恋に陥ち、盲目に突っ走る。
「世の中にはバカもいるものね」
 笑う他人は、女にとって今日の我が身だった。
 そこを行くあなた。あなただって明日は当事者になっているかもしれないよ。

 ホストにアイドル追っかけ、欲しいものだって金出しゃ買える資本主義、稼ぎがなくてもローンは組める、金は天からのまわりものだから、使いたい時に使わにゃそんそん、好きに生きた者が勝ち、今おもしろおかしく生きないでなんとする⁉︎ な生き方もなくはない。多様性を謳う現代だもの、『おはらしょうすけさん』の生き方だって認めれなければその時点で自己矛盾。

 でもね、踊らされちゃいけないと思うんだ。所詮、夢見心地の男と女、食いつかせるために垂らされた糸には毒牙が仕込まれている。いっときの空腹を満たす快楽に、まぐわう悦楽に、染まってみたいと幻想を抱いたら最後、蟻地獄の罠が口を開けて待っている。藁をも掴もうと伸ばした手には容赦のない足蹴が待っている。残された道は、溺れ、沈んでいくことのみ。

 恋に生きられるなら本望さ、と心の迷いなどかなぐり捨てて女に走っても(女なら男に走っても)、恋の瞳が見つめるのは痘痕あばたえくぼ。厚化粧を拭い取った本当の素顔なんかは見すえちゃいない。熱々が美味しいラザニアだって時間が経てば冷めるんだぜぃ。浦島太郎みたいにさ、夢見心地の愉楽の時間は、過ぎてしまえば露と消える。

 1年先まで予約で埋まってた、超人気のイタリア料理。やっとその日がやってきて、今さっき食べ終えたところなんだよね。満足感はある。でもどこかお祭りが終わったあとに感じる虚無感と同じものを抱えてる。
 人は追いかけていた幻影に追いついた時、夢から見放されるものなのかな。

 ひゅう、ひゅるり。すきま風。



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