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妊娠と甲状腺

妊娠中の経過で甲状腺の異常を指摘される方は意外と多い。

甲状腺は私が普段から診療している専門分野の一つであり、クリニックから紹介される方も多く、産休に入るまでも結構診療してきた。

妊娠中はいろいろなことに敏感になり不安にもなる。
自分も含めて、妊娠するまで病院にお世話になったことすらない方も多いと思う。
それなのに妊娠して検査に異常値があると言われ不安にならないママはいないだろう。

自分ができることとして、自分の専門分野で、
一般の方向けに医療情報を提供できたらと思う。
あくまでも一般の方向けなのであえて簡単な言い方をしていたり、曖昧なところもあるかもしれないが、そこはご了承いただきたい。

今回は妊娠中に初めて甲状腺異常を指摘された方へ、
甲状腺がどういった臓器か、
異常があるとどうなるのかについて触れつつ、
実際に検査異常を指摘された後、どういう風に診察・治療を進めていくかについて簡単に説明したい。


甲状腺とは

まず、甲状腺とは何か。
甲状腺は首にある、蝶々の形をした臓器で、
人間の代謝を司る」臓器だ。

次に、甲状腺機能が異常をきたすとどうなるか。

甲状腺ホルモン過剰→代謝up
=動悸、体重減少、手の震え、暑がり、下痢…
甲状腺ホルモン不足→代謝down
=浮腫、体重増加、脱毛、寒がり、便秘…

とイメージしてもらうといいかと思う。

これらはホルモンによってコントロールされている。

実際に代謝に影響を与える実働部隊
=甲状腺ホルモン(FT3、FT4)

甲状腺ホルモンを調整している上司
甲状腺刺激ホルモン(TSH)

と呼ばれている。
FT3/FT4、TSHの動き方の組み合わせを見て、私たちはいろんな疾患を想定する。

上の甲状腺異常の場合、一般的にこれらのホルモンがどうなるかというと、  

甲状腺ホルモン過剰:
FT3/FT4は上昇、TSHは低下
甲状腺ホルモン不足:
FT3/FT4は低下、TSHは上昇

とFT3/FT4、TSHの動きは逆になる

もちろん、100%このようになるわけではなく、
実際にはTSHのみ動くことも多い
潜在的に甲状腺異常をきたしている状態だ。
そのためTSHのみ動く場合でも、何かしらの甲状腺異常がないか確認する必要がある。

また、自覚症状がない場合もあるので、
私たち医師は、検査結果をみて判断し、追加検査を行なっていく。

甲状腺の数値に異常があれば、病気なのか

上記のアンサーは必ずしもYESではない。
妊娠中のホルモンの変化によって、甲状腺ホルモンが動く場合がある。

この写真は私が妊娠10週で受けた検査結果だ。
TSHがかなり低いと思う。
でもこれは治療する必要がない変化だ。

さぁ、それでは実際に私が検査結果を見て診断を進めていくやり方で、実際の病気と治療について説明していこう。

診察の流れ

まずは受け取った検査結果から、
TSHが高ければ、甲状腺ホルモン不足、
TSHが低ければ、甲状腺ホルモン過剰、
に大別する。

追加の検査としては、
採血に加えて、甲状腺エコーを行う。

①甲状腺ホルモン不足の場合

疾患としては、橋本病の頻度が多い。

橋本病は自己免疫によっておこる甲状腺の慢性の炎症で、進行すると甲状腺機能は低下し(生涯正常な例もある)、臨床所見の有無や、検査所見によって甲状腺ホルモンの補充が治療となる。

診断
診断には抗サイログロブリン抗体(TgAb)抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)のいずれかが陽性であることを確認する。

治療
非妊娠時であれば、上記のように補充する条件は人によってさまざま。
TSHの軽度の上昇のみ(5~10 µU/mL程度)なら補充しないこともある。

一方、妊娠時にはTSHの基準が異なる。

*妊娠時の橋本病

まず、どうして妊娠中に甲状腺機能を確認するかについて、甲状腺疾患診療パーフェクトガイドでは以下のように記載されている。

妊娠初期の母体に顕性甲状腺機能低下症があると、流産や早期産、妊娠高血圧腎症、低出生体重児、死産、児の知能や精神運動に対する悪影響など様々な障害が起こる。さらに、潜在性甲状腺機能低下症であっても児の知能や精神運動に対する同様の影響の可能性に加えて、妊娠合併症が増えたり、妊娠の転帰に問題があることがわかってきた。
*顕性=TSHもFT3/FT4も異常 
潜在性=TSHのみ異常

甲状腺疾患診療パーフェクトガイド 改訂第3版より

妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が1.3倍~1.5倍に増加し、元々治療している人では妊娠がわかったらすぐに甲状腺ホルモンの補充量を増やす。

妊娠して初めて甲状腺機能異常を指摘された方だと、TSHの値によって治療を開始するかどうかを決める。

下の図を見てほしい。
妊娠週数によって若干異なるものの、基本的にはTSH 2.5µU/mLを超えたら私は補充するようにし、妊娠経過中TSH 2.5µU/mL以下になるように基本的に補充量を調整する。
非妊娠時よりも厳しくなるのがポイントだ。
診療の流れを以下に載せてみる。

②甲状腺ホルモン過剰の場合

妊娠中に甲状腺ホルモン過剰を見た場合、
バセドウ病妊娠性一過性甲状腺機能亢進症を鑑別する必要がある。
前者は一般的に治療が必要であり、後者は不要なことがほとんどだ。
*甲状腺ホルモン過剰をきたす疾患として、甲状腺が破壊されることで過剰となる亜急性甲状腺炎などもあるが、ここでは割愛する。

*妊娠性一過性甲状腺機能亢進症

妊娠性一過性甲状腺機能亢進症はhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン:妊娠中にのみ、測定可能量が著しく産生されるホルモン)の甲状腺刺激作用によるもので、妊娠8~13週(初期)に多くみられ、妊娠悪阻の強い症例に起こりやすい傾向がある。

治療は不要で、hCGの低下とともに改善する。
バセドウ病で陽性となるTRAbは陰性
基本的には自覚症状はないことが多い。
私自身も追加検査はしていないが、この状態であったと思われる。

*バセドウ病

一方、バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に産生され、甲状腺機能亢進による症状と眼球突出などの眼症状がみられる疾患で治療が必要だ。

診断
TSH受容体抗体(TRAb) 陽性の確認が重要。
*甲状腺刺激抗体(TSAb)が陽性となる場合もあるが、こちらは妊娠性一過性甲状腺機能亢進症でも陽性となることがあるので、鑑別に使用するのが少し難しい。
他、エコーにて甲状腺が全体的に腫大し、血流が豊富になるのも参考になる。

治療
妊婦の場合の治療はプロピオチオウラシル(PTU)の内服で甲状腺機能を正常域にコントロールする。

両者の鑑別ポイント

甲状腺疾患診療パーフェクトガイドでは、以下のように書かれている。

以下の所見があれば、バセドウ病による甲状腺機能亢進症の可能性が高い。
①典型的な眼症(目が飛び出したような)
②妊娠中期以降に発見
③TRAbが陽性
④TSAb中等度以上の陽性
⑤hCG値が60000 IU/L以上
⑥4週後の観察でFT4に目立った下降なし

甲状腺疾患診療パーフェクトガイド 改訂第3版より

まとめ:もし甲状腺機能異常を指摘されたら 

かかりつけの産婦人科から、内分泌内科を紹介されることがほとんどだ。
内分泌内科においては追加検査として、改めて採血、必要に応じて甲状腺エコーを追加されると思うので念頭においておくとよいと思う。
また甲状腺採血は一般的な採血より結果が出るので時間がかかるので注意。

症状がある場合は早めの受診を推奨する。
甲状腺機能亢進症:動悸、発汗、体重減少、眼球突出、手の震え、下痢、暑がり、筋力低下など
↓ 内分泌学会のHP

甲状腺機能低下症:徐脈、寒がり、脱毛、体重増加、浮腫、認知機能低下、皮膚乾燥、便秘など
↓ 内分泌学会のHP


妊娠期の甲状腺疾患についての簡単な説明でした。
書き出すと、本当に長くなりすぎそうだったので、いろいろ端折っているところはあります。お許しを。
それでは~




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