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妊娠と甲状腺 続編

こちらの記事は以下の記事の続編。

前回は妊娠中に初めて甲状腺異常を指摘された方向けに書いたが、
今回は妊娠前から甲状腺異常を指摘・診断されており、すでに治療されている方向けに書いていきたいと思う。

こちらに書くことは一般的な内容であり、
一人ひとり病態が異なるため、
ここに書いてあることが全ての人に当てはまるわけではない。

気になることがあれば自身の主治医に確認していただきたい。

治療は甲状腺機能が「低下する」のか「亢進する」のかで異なる。

甲状腺機能が低下する病気

一番多いのが「橋本病」と思う。
他、バセドウ病の治療後(手術やアイソトープ)、悪性腫瘍の手術後などでも甲状腺機能は低下する。
これらの甲状腺ホルモンが足りない方では、甲状腺ホルモン(チラーヂン)を補充する治療をしていく。

非妊娠時であれば甲状腺機能が正常であれば補充は不要で、潜在性甲状腺機能低下症(TSHのみ上昇し、特に10μU/mLを超える場合)や高コレステロール血症などを伴う場合は補充を行う。

ここでは、すでに補充されている方(あるいは橋本病の診断がついているものの、甲状腺機能は正常でまだ補充をしていない方)で話をしよう。
すでに甲状腺ホルモンが補充されている方においては、
妊娠を希望した時点で、甲状腺機能が正常であっても、
TSHが2.5μU/mLを超えている場合は補充を開始すべきとされている。
このように妊娠前から調整しておくことが多い。

さらに甲状腺機能低下症の方では、
妊娠したらすぐに病院を受診してもらい、
甲状腺機能を確認し、
チラーヂンの補充量を1.3~1.5倍に増量する。
これは以前の記事でも書いたが、
妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が増加するためだ。

その後については、以前の記事に書いた通り、
20週までは4週おき、26~32週で1回甲状腺機能を確認し、
出産までTSHを2.5μU/mL未満になるように調整していく。

産後は妊娠前の補充量にいったん戻し、
産後6週で受診し、甲状腺機能をチェックする。

甲状腺が亢進する病気

こちらの代表的なものとしては、バセドウ病がメインになってくる。

バセドウ病では甲状腺機能を抑える薬を使用する。
主に使用されるのが抗甲状腺薬であるチアマゾール(MMI)プロピルチオウラシル(PTU)だ。
症状が軽度ならばこれらのいずれかのみを使って治療を開始する。

しかし、バセドウ病では最初動悸や体重減少など、結構症状がひどくなってから受診する人も多い。これを放っておくと「クリーゼ」といって心不全を起こしたり重篤な状態になりかねない。
こういう中等度以上の人であれば、私の場合は抗甲状腺薬に加えて、ヨード剤であるヨウ化カリウム(KI)を治療のスタートに用いる。

まとめると、
・軽症→抗甲状腺薬(MMIかPTU)のみ
・中等症以上→KI+抗甲状腺薬(+症状を緩和する薬)
といった感じだ。

抗甲状腺薬のMMIとPTUの使い分けについてであるが、基本的に挙児希望がある方、妊娠中の方であればPTUを用いる。妊娠以前にMMIを使用していた方は、挙児希望となった時点で、あるいは妊娠した時点でPTUに変更する。
PTUを用いる理由としては、MMIには内服した患者の子供に後鼻孔閉鎖症、食道閉鎖症、気道食道婁、頭皮欠損などの特殊な奇形がみられた報告があるためだ(明確な証拠はないが)

妊娠前で未治療の場合はPTUを開始し、甲状腺機能のコントロールが良好になった時点で妊娠の許可を出す。

PTUに副作用(重症肝障害や血管炎)があるなどの理由でMMIしか使えない場合は、少量のMMIでコントロールできている患者については使用を漸減中止して妊娠を計画する。
そうでない場合はMMIが1日1錠前後ならば一時的にMMIを休薬する方法で奇形のリスクを最小限にすることは可能だ(奇形が発生するのは妊娠4~7週末までと考えられている)

一般に妊娠中は甲状腺機能のコントロールに必要な抗甲状腺役の必要量は非妊娠時よりも少なくなることが多い(甲状腺ホルモンの需要が増えるので)が、妊娠初期にはhCGによる一過性甲状腺機能亢進症が加わる場合があり(前回の記事参照)、この場合は抗甲状腺薬を増量する。

投与の仕方は、妊娠20週までは非妊娠時と同様、正常を目標にコントロールする。妊娠20週を過ぎたら母体のFT4を正常範囲上限に保つように抗甲状腺薬を調整する(胎児甲状腺機能を正常にすることを優先)

産後、授乳中は原則としてPTUで治療を行う。

まとめ

以上、簡単にざっくりとではあるが、妊娠前から甲状腺機能異常のある場合の治療について説明した。
こちらに記載した状態に当てはまらない症例も多々あるので、基本的に治療方針等は主治医に確認いただくのが一番ではあるが、なんとなく方針だけでもお伝えできていたら幸いである。

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