「いじられキャラ」という呪縛

小学校低学年の時、漠然と虐められた記憶がある。「誰に何をされた」とかではなく、ただぼんやりと、虐められていたような記憶があり、不思議なことに鮮明に思い出せない。




ただ、『その後』については詳細に、覚えている。そして私はずっと、『その後』から抜け出そうとしている。





小学校高学年になるかならないかくらいの時から、いじられキャラになった。明確に宣言された訳ではないけど、気づいたらハブられるとか陰口を言われるとかじゃなくなっていて。ただストレートに「デブ」とか「ブス」を言われる。それに対して私は
「悪口に面白い返事を笑いながら返す係」になった。



具体的には、あだ名が「トラック」になったりした。重量級ってことか。令和ロマンよりも先にくるまとして扱われていたようだ、実質M-1チャンピオンで、申し訳ない。





中学校に入ると、それまで仲の良かった子達は全員中学受験で別れてしまった。でも別にそれで何か変わったりしない。

なぜなら小学校が同じ子達にとって私はもう

″そういう存在″

なのである。
そして中学校で出会った子たちは

″そういう存在″

の私を見て「あっ、この子は

″そういう存在″

なんだ!」と思う。それがぷよぷよみたいに連鎖して、気づいたら歯止めの効かないところまでいってしまっていた。





不幸中の幸いなのだが、私は日本人の平均よりブスな代わりに平均よりも面白かった。
なので当時の私は、自分にはこの立場がお似合いだと思っていた。
実際周りの子達は可愛いし、太っているのも顔がブスなのも事実だし、友達がいない訳でもないし、何なら周りが優しいとまで思っていた。






『私は本来虐められる人間なんだ。けどみんなが優しいからこうして役割をくれている。頑張ってそれに応えるべきだ。』

とか思ってた。何というプロ意識だ。

こんな考えをする人間は当然自分のことが嫌いなので、当時の私は自分のことがとにかく嫌いで仕方がなかった。
希死念慮とかそういうものではなく、単純な嫌悪感。





それで演劇を始めた。


何か役に入り込むことが出来たら、その瞬間だけでも自分が消せる、という考えだった。




そして演劇をするために高校に入学する。
地元から離れた学校なので、過去の自分を知る者は誰もいない。







さて、みんなならどうする?
A.はっちゃけ高校デビュー!
B.いじられキャラ続行!


シンキング★タイム





はい、最初私が選んだのは「B」でした。
いやわかりますわかります皆さんの気持ち
ここまで読んでる人(いるのかな)は
「いや普通Aやろ!気が狂ったんか!」と
叫んでいることでしょう。

違うんですよ


この時の私はまだ自分がどれだけ狂気的な常識に晒されていたのか、わかっていなかったんです


「これしか生きる道ない」と思ってたので




でも高校の子達はものすごく優しくて、私が自虐ネタをしたりするよりも、私自身の話で笑ってくれました。

男の子も女の子も誰も私に「ブス」とか「デブ」とか言いません。というかみんな人の容姿についてとやかく言わないんです。高校に入ってから私は人生で初めて人から嫌味やネタ、悪ふざけや軽蔑ではない「可愛い」を言われました。みんなのおかげで最高級のぬるま湯のような日々を送りました。

「初めて人権が貰えた」
そう思いました。








高校一年生の時に、久しぶりに友達のやっているインスタライブに入ったらその子の高校(慶應)の同級生たちに「ブス」とか「消えろ」とか書かれたことがありました。会ったこともないのに、衝撃でした。しかも普通に久しぶりにその友達と喋りたかっただけなのに。でもその友達も私がいじられキャラだったのを知っていたので、そんなにしっかりは止めず、「まぁ許してやってよ〜」という態度でした。


きっと、中学校の時の私ならものすごく上手に対処ができたと思います。






ぬるま湯を味わっていた私はその日の夜、身体中の水という水が無くなるまで泣きました。

その涙は、決壊でした。

昔から薄々自分を騙し騙しこのキャラクターとして生きていることは気づいていました。今まで押さえつけていた感情が溢れ出して、止められなくなりました。

女子からの「女捨ててるな、こいつ」の視線が辛い

男子からの顔面至上主義の悪口が辛い

人格否定されても
場を盛り上げなければいけないのが辛い

どれだけ自分が場を盛り上げても
自分は評価されないのが辛い

何を言ってもいいと思われているのが辛い

サンドバッグだと思われているのが辛い

痩せたところで何も変わらなそうなのが辛い

こんなに顔も可愛くない状態で生きるのが辛い

「消費物」として扱われるのが辛い






高校の時間を経てから、「いじられキャラ」は
「過去の呪縛」へと姿を変えました。

いまだに、女の子から言われる「可愛い」が、お世辞だとしても本気で怖いし、本気で嬉しいです
いまだに、女の子と目を合わせられません(自分が合わせていい存在だと思っていないから)
いまだに、容姿が原因で本気の希死念慮を抱きます
いまだに、男性に女性扱いされることに慣れません
いまだに、辛い時でも愛想笑いする癖が抜けません

高校生活が楽しくて、記憶が薄れた頃に
地元の友達と会ったり、夢に出てきたりして
呪縛が離れることはありませんでした








あれから約三年の月日が流れました。
私は高校三年生になりました。


私は舞台芸術を学んで、芸術全般が好きになりました。


芸術を学ぶと、より一層あの日々が馬鹿らしく思えます。

高校に入ってからは垢抜けたと思います。
見た目じゃなくて、考え方が。






時々、私の過去の中の世界に未だに囚われている人がいます。
きっとずっとそのままなんだと思います。可哀想に。
そう思えるようになっただけいいんです。

私は、雑に扱っていいような人間じゃないです。
人間なので、私には優しくしてください。

〜おしまい〜

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