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父の尊厳

突然一郎さん(父 87歳)から「もう、君に頼らない生活にしたいと思う。話し合いも参加しないから」と語気も荒く電話がかかってきて「えっ!?」と言う間もなく携帯は切られました。

たぶん、ここ何回か家族で話している、親が残してくれた現金や不動産を【家族信託】しようという話に対して、納得いかぬ、と突然そんな感情が沸いてきたのだと思います。

前回、話した時には一郎さんから「認知になるのが一番迷惑をかけるからそんな新しい制度があるならぜひ」と言ってたくらいだから、何かでキモチが変わって来たのでしょう。

最初私は「理不尽だ」と怒りが沸き、その後、ここに来るまでの苦労や努力を思うとむなしさというか「やっとここまで来たのに、なぜ?」という気持ちがあふれてきました。

いろんなプロの人に相談しスケジュールも合わせ、私も何とか実家に帰る時間を作り、家族の未来に良かれと思いやった事なのに・・・。

ただ、親との話し合いではこういうことも多くて、私も少しばかり経験を積んできていました。こういう時はちょっと俯瞰で物事をみることが大切で、そんな時に役に立つのは「気軽な男友人」(笑。

どう思うか聞いてみよ~、と思いたちました。特別な感情移入もなく、深刻にならない、第三者にはどう見えるのだろうか?

「親に、君には頼りたくないと言われたの」

「おもろい。でも偉いな~、まだプライドをもってるんだな~」

「なるほど、面白いか、プライドは偉いか。困ったなぁと思ってた」

「プライドはありすぎても困るけど(笑 老人は赤ちゃん扱いしたらあかんよ。老人の自尊心は生きる源やからね」

そうか。そうか。良い事いうじゃん。

わたしはオトハルの活動で、親とはどう付き合えばよいのか、どんな準備をしたら良いのかをかなり学んでいました。それを実践する中でいつの間にか私の中で「損をしない」「面倒な事はしない」ことに躍起になって、一郎さん本人が大切にしようとしているものを蔑ろにしていたかもしれないと、ハタと気が付きました。

もしも、今、一郎さんが自分のプライドを一番大切にしているなら、そのために何かを取りやめて困ったことが起こっても「父を一番大切な事を選んだ」と思えば自分もかなり納得できる。そっちを選ぼう、と思ったのです。

だから、今はことを動かすのを諦めよう、でも、予定通り、実家には帰り、「家族信託」のかの字も話題にせず、実家の家事の日々を過ごしていました。

その中で「もう、君たちに頼らない生活にしたいと思う。話し合いも参加しないから」と言われたのは娘の私だけで、弟には何も言ってないこと。プロの方々も集めた話し合いの日はキャンセルしていないことなどを知りました。

なんだ、なんだ、じゃあどうするんだろう?と思っていたら、一郎さんは話し合いの日の朝から私を呼び、自分の持つ資産について一緒にまとめようと、と言い始めたのです。

ひとつひとつの通帳をカクニンしながら、一郎さんがどんなに頑張ってきたか、それでも、残したお金が少ないことに申し訳ないと思っていること、残した不動産も、負の遺産と思っていて、子供たちには残すと面倒をかけるから処分したいことなどが分かってきました。

親のココロ、子知らず。

家族信託を選ぶ前にやることがいっぱいあったなあ。あ~~。

プロの方々にもそのお話をして、まずは、遺言の作成と不動産の売買依頼から始まりました。

これからも一郎さんの尊厳が何かをカクニンしながら、事を進めていきたいです。

なあ、お父ちゃん。

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