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日本の憑きもの―俗信は今も生きている


日本の憑きもの―俗信は今も生きている

 日本の憑きものについての、古典的名著です。
 日本の憑きものを調べるにあたって、本書を抜きにすることは、考えられません。決して欠かせない基礎文書です。

 本書を読めば、日本の憑きものについて、基本的な知識は、押さえたことになります。
 ただし、内容がぎっしりなので、読み通すには、時間がかかります。

 狐憑き、犬神憑き、蛇憑きなど、憑きものには、いろいろな種類があります。
 本書では、それぞれの種類について、解説されています。日本の主な憑きもので、載っていないものは、ありません。
 ただし、河童憑きのように、解説が手薄な憑きものもあります。

 憑きものは、差別問題と直結しています。ある特定の家の人が、「憑きものを憑けることができる」という信仰があるのですね。地方によっては、「憑きもの筋」とされた家の人が、結婚などに際して、差別されることが、つい最近まで、続きました。

 このため、憑きものの調査には、非常な困難がともないます。
 本書のように、包括的な憑きものの解説書が出たのは、奇跡的なことだと思います。それだけで、評価は、文句なしに五つ星です。

 本書は、決して、オカルト的な意味で、憑きものが実在すると言っているのではありません。
 社会的な意味で、「憑きものが実在すると信じられている」ことを、扱っています。
 憑きものにどんな種類があるとか、どこの家が憑きもの筋であるとか、憑きものが憑くとどんな状態になるのかといったことは、すべて、「そう信じられている」だけのものです。

 本書が最初に世に出たのは、昭和三十年代半ば(一九六〇年前後)です。二〇一四年現在からは、五十年以上も前です。
 本書が世に出た当時よりは、憑きものに関わる差別問題は、改善されているでしょう。本書にあるほどの憑きもの信仰は、もはや、存在しないのではないかと思います。
 しかし、それだけに、本書には、二〇一四年現在ではなし得ない、憑きものの調査報告が載っています。

 以下に、本書の目次を書いておきますね。

一 憑きもの梗概
 1 課題と研究の立場
 2 種類と分布
  A おさき
  B くだ
  C いづな
  D 人狐
  E 外道【げどう】
  F とうびょう
  G 犬神
  H やこ
  I その他の動物霊
  J とりつきすじ
  K イチジャマとクチ

二 憑きもの筋の残留
 1 少数地帯と多数地帯
 2 多数地帯の実態
  A 島根県出雲地方の実態
  B 島根県隠岐【おき】島前【どうぜん】地方の実態
  C 大分県南部Y村の実態
  D 高知県西南部T村の実態
 3 多数地帯の成立

三 憑きものによる社会緊張
 1 憑きもの筋自身の態度
 2 非憑きもの筋側の態度
 3 婚姻統計に現われた社会緊張

四 憑きもの及び憑きもの筋の特徴
 1 憑依動物の特徴
 2 憑依症状の特徴
 3 憑きもの筋の特徴
  A 島根県東部N部落の場合
  B 島根県半島部D浦の場合
  C 大分県南部O浦の場合
  D 高知県西南部G部落の場合

五 憑きものと行者
 1 憑きもの落としとその方法 その一
  A 憑きものの予防法
  B 狐憑き発見法
  C 薬物鍼灸【しんきゅう】療法
 2 憑きもの落としとその方法 その二
  A 神道加持
  B 日蓮宗中山派の加持
  C 修験加持
  D 巫女の祈祷
 3 憑きもの使いの問題 その一
  A 憑きもの使いの存在
  B 文献に現われた憑きもの使い
  C 大陸の蠱道【こどう】
 4 憑きもの使いの問題 その二
  A 飯綱【いづな】と荼吉尼【だきに】
  B 荼吉尼信仰の本山
  C 外法【げほう】・式神・護法
 5 日本蠱道史上の問題点

六 憑きものと家の神
 1 守護神としての動物霊
 2 動物霊の勧請【かんじょう】
  A 狐託宣・蛇託宣
  B 動物の予兆力
  C 動物霊勧請の次第
 3 家の神の司祭者

七 憑きものと社会倫理

あとがき



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