「あの子ではないかな」

例の彼から一方的な別れで終わった10月から3ヶ月が経った。

その間、怒りや悲しみや諦め…様々な感情が津波の様に押し寄せた。

それでも、「もう元に戻る事はない」と自分に言い聞かせながら生きて来た3ヶ月。
有り難い事に、仕事が忙しくて感傷に浸る暇がなかった。

色々書きたい事はあっても、中々公開する程の事ではない内容の記事が下書きで10件以上。
大体が彼との楽しかった思い出ばかりだった。


喧嘩をしたのが10月、1ヶ月後に私から折れる形で連絡を入れた。
私が予想していた以上にあっけらかんとした様子で返事が来た。

「最初から怒ってないけど。笑」


絶対に嘘。
もう彼の事が分からなくなった。
彼女が出来た予感はしていたので、もう前みたいに会う事はないと覚悟した。
程の良い理由を付けて私から距離を置きたいのは明らかだった。
せめて喧嘩別れで終わらせない様に、最後に好きだった事や出会えた事への感謝を伝えたいと思った。
11年大事にしていた気持ちを大切に葬りたかった。
彼に手紙を書こうと、綺麗なキラキラしたグレーの封筒とネイビーのペンを買った。
彼に好きだった気持ちと感謝とお別れの手紙を書こう、と思った。
そんな私の気持ちとは裏腹に、彼は私と会う日を中々決めてくれない。

喧嘩から2ヶ月近く経った頃、彼から出張で忙しいと言われたLINEに
「いつ東京に帰って来るの?」
と問うた私のLINEに既読無視のまま返事がなかった。
まだ地方にいるのかな?と、軽い気持ちで捉えていた。



12月15日

この日はnoterさんの微熱ちゃんと初めて会う日になっていた。
微熱ちゃんが行きたいと言ったカフェは、偶然にも彼が毎朝通うカフェだった。
私は「そこは彼と会ってしまう可能性があるから別の場所にしよう」と言うべきだった。
彼がまだ地方に出張中だと信じていた私は、敢えてその事には触れなかった。
今から考えたらなんて愚かな考えなんだと自分を呪う。

待ち合わせの当日、微熱ちゃんが待つカフェへと足速に向かう。
その日の午後に地元に帰ってしまう彼女と会える時間は限られている。
少しでも早く会えたらと思い早歩きでカフェへ向かった。
曲がり角に差し掛かった時、ふと嫌な予感がした。
「彼と鉢合わせるとか、そんなハプニングはあるだろうか。いや、彼はまだ長崎にいるから有り得ない…」
そう思い、早歩きだった足を止めてゆっくりと覗き込む様にして曲がり角を曲がった。

そこには、黒い犬と知らない女の子がテラスにいた。
程なくして、見覚えのある後ろ姿がコーヒーを持ってその席に歩み寄った。
彼女の為に椅子を引いてあげていた。
私には見せない素振りと表情で、席に座りコーヒーを飲みながら犬にバナナを与えていた。

心臓が止まりそうになり、その後すぐに心臓が口から飛び出しそうになった。
一番見てはいけないシーンを目の当たりにしてしまった。
それでも、彼を忘れなくてはと思う本能が働き、2人の写真を撮った。
この先、彼の事を恋しく思うたびにこの写真を見て自分を諌めようと決意した。

彼女が出来たかもしれない、他の女の子がいるかもしれない…と、気配だけで感じているのと、実際に目の当たりにするのでは全くダメージが違う。
知らない女の子に椅子を引き、知らない女の子に優しい眼差しで話し掛ける彼の姿を見たら、もう勝ち目がない事は明らかだった。

「東京にいるならそう言ってよ…」と、凄く小さな文句を心の中で呟いた。

一人ではなく誰かが隣にいる事で、震える手を抑えながら現実に向き合える事が出来た。
あの時ひとりぼっちだったら、私は私が何をしていたか自信がない位、やばい状況だったと思う。

その日の夜、私は40度の発熱をした。
結果、例のウィルスでも風邪でもなかった。
失恋で高熱が出る事を初めて知った。



そこから1ヶ月が経ち、悲しみだった感情が怒りに変わり、現在は悔しさに変化した。

彼との共通の友人と食事をする事になった。
友人の名前はジョージ。
ロサンゼルスに住んでいる。
ジョージとは3年前に知り合い、彼との片思いの話を聞いて貰っていた。
3年前、ジョージに「幸せになれないって分かっていて、好きでいるのってどうなんだろう。」と愚痴っていた夜、酔った勢いでジョージからキスをされたのを覚えている。
何となく気まずくて、覚えていないフリをした。

彼との喧嘩の話をLINEでする事をきっかけに、1月に一時帰国をしているジョージと食事をする事になった。

私自身、もう傷も癒えただろうと思い「左耳事件」の話を面白半分でジョージに話した。
ジョージは心地良いタイミングで笑ってくれた。

私が「もう吹っ切れている」と痩せ我慢をすると、それを信じたジョージが彼の話をし始めた。

やはり、彼女が出来たのは間違いない事。
その彼女とは昨年の4月には付き合っていた事。
そして、私の事に関しては「あの子ではないかな」と発言していた事。

分かっていても、具体的な言葉を聞くと悲しいものである。
私が好きで好きで仕方なかった人から「あの子ではないかな」と言う評価を頂いていたのだ。
もう、早く言ってよと思った。

私が11年間大事にしていた恋心は、鼻をかんだティッシュの様にぐちゃぐちゃに丸められて捨てられた。
ゴミ箱に捨ててくれるならまだましで、それはポイと投げ捨てられてゴミ箱にも入らなかった。
そんな気分だ。

もう吹っ切れたなんて嘘だった。
涙目で我慢をする私の頭をジョージは優しく撫でてくれた。

こんなに優しい人がいるのに、クズみたいな人間にまだ未練がある私は駄目な人間なのだと思う。



見出し画像はアリエルさんからお借りしました。
検索してたまたま良いなと思った画像が、大好きなアリエルさんだった。
それだけで私は幸せです。

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