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恋のリハビリ(年下の男の子)

長年拗らせた不幸な恋に終止符を打った一昨年の冬。
その時私は「もう恋なんてしない」とは思わなかったものの、「彼よりも好きな人がら現れる日が来るのだろうか」と自分のポテンシャルを疑う日々が続いていた。

もう37歳でマッチングアプリなんてやっても、どうせ50代60代からしかアプローチはないだろう。

合コンと言っても、自分にそんなツテはなく、仲が良かった飲み友達は皆んな結婚して子供がいる。

こうなったらあらゆる誘いや出会いに積極的になり、小さなきっかけも大きな出会いへ繋げて行くしかないと決心した。


年下の男の子

謎の決心から程なく経った2023年の2月、私は友人の山田と品川で飲んでいた。
山田は当時同じチームだった会社の同僚である。
彼女は仕事では涼しい顔で働いているが、大食い大酒飲みで酔うとめっぽう子供っぽくなり破天荒な言動が多くなる。
その日はビールで乾杯した後に2人でワインを1本半ほど飲んでおり、そろそろお店の閉店時間となる頃に私は化粧室へ立った。
化粧室から帰ると山田は酔って近くの
テーブルの男性グループに声を掛けていた。
山田はいつも酔うと逆ナンをする。
その下心は「イケメンと仲良くなりたい」と言うよりは「仲良くなってあわよくば奢ってもらいたい」の方が強い気がする。
相手グループは3人組で、40代後半の男性と20代中盤の男性2人だった。
話を聞くと、40代の男性は職場の上司で青年2人は教え子(トレーニー)との事だった。
そこから話が盛り上がったがお店の閉店時間となった為、2軒目に移動する事となる。

品川のレストランや居酒屋は意外とラストオーダーが早く、最終的に私達はハイボールバーに辿り着いた。
山田は酔えば酔うほどテンションが高くなり、ハイボールバーのメニューの中でも高額なウィスキーを湯水の如く飲み干していた。
私は高級なウィスキーも好きだが、もう酔ってる自覚があった為安いブラックニッカハイボールをひたすら飲んでいた。
20代の内山くんも同じ様にブラックニッカを飲んでいた。
「ウィスキー詳しいんですか?」
と聞かれ、
「普段はピートが効いたウィスキーをロックで飲んだりするけど、今日はもう酔っちゃったから安くて薄いハイボールがちょうど良いかな。」
と答えると
「良いっすね」
と細い目を更に細くして微笑んだ。
鈴木亮平を若くした様な、長身の青年だった。

更に勢いを増した山田が「カラオケに行きたい」と言い出した。
私達はいつもカラオケでオールをする仲だったので、それをしたくなったのだろう。
正直男性陣のうち上司にあたる人は乗り気ではなさそうだったが、勢いのある山田と面倒見の良い内山くんを中心に、ハイボールバーの隣にあるビッグエコーに行く事となった。
この時既に時刻は12時を過ぎており、殆どのメンバーが終電を逃していた。

カラオケに行くと大体その人の世代が分かる。
それを元にメンバーを整理しよう。

私   (37歳)
山田(32歳)
内山くん(推定27〜29歳)
内山くんの同期 千田くん(推定26〜28歳)
青年達の上司(推定47〜50歳)

途中酔い過ぎた山田がビールジョッキを派手に倒して上司のスーツにぶちまけた。
千田くんは明らかに飽きていたので、途中「何か歌いたい曲ある?」とデンモク片手にたまにご機嫌を取ってあげた。
内山くんが好きな曲を皆んなで歌いたいと言い出し、山下達郎を皆んなで肩を組んで熱唱した。

私としては程良い年齢層ではなかった。
若過ぎるか、上過ぎる。
けれど朝まで盛り上がるくらいの楽しい空間ではあった。

朝の5時を迎え、さすがに解散となった。
電車で帰る人もいればタクシーで帰る人もいた。
偶然にも私と内山くんは歩いて5分の距離に住んでいた為、一緒にタクシーで帰る事になった。

タクシーの中で「眠いよ〜」と甘えながら内山くんは私の手を握った。
私も酔っていたのと眠いのもあり、拒否せずにそのまま40分ほどタクシーに揺られていた。

もう空が明るくなり始めていた冬の朝、私は内山くんのマンション前でタクシーを一緒に降りた。
内山くんはそのまま無言で私の手を引いてエントランスに入ろうとした。
「え、待って待って。おうちには入らないよ。」
私は前日の4時からフライトをしてそのドロドロの身体で何か事が起きるのが心底嫌だった。
「えー…いーじゃん、一緒に寝ようよ。」
年下の甘えに弱い人はここで負けてしまうのかもしれない。
元に無邪気な柴犬の様でとても可愛らしかった。
けれど年下好きでない私からしたら、温かいシャワーと清潔な身体より魅力的とは思えなかった。

「わかった!別の日にデートしよ。ご飯行って、お互いの話して、そしたら一緒に寝ようよ。ね?」

何とか説得してその場から帰った。
自宅に帰りシャワーを浴び、鏡に映る自分の裸体を見ながら「20代とセックスするチャンスだったかも?」と冗談混じりに考えた。
そんなリハビリも必要だったかも、惜しい事をしたなと思いながら眠りについた。


年齢の壁

その日から1週間ほど経った夕方、急遽内山くんとビールを飲みに行く事になった。
カラオケに行った日から毎日くだらない内容のLINEが続いていた。
その流れで近所のおすすめの居酒屋の話になり「今から一緒に飲みに行こう」となった。
内山くんは夜に弟と食事に行く予定があるので2時間ほど軽く飲むだけだ。
これはデートではなく、何となくだけれどお互いの探り合いの2時間だった。

内山くんの印象は、とても丁寧に育てられた子という雰囲気だった。
愛媛出身の27歳。
長身で笑った時のタレ目が可愛い。
足が長いのでジーンズにユニクロのセーターだけでも決まって見える。
おしぼりの袋を綺麗に開けて手を拭き、綺麗に畳んで袋に載せて端に寄せた。
縦に豪快に開けた自分が恥ずかしくなった。

彼は私の年齢を詳しくは聞いて来ない。
けれど山田よりも年上という事は把握出来た様で、私に対してタメ口ながらも「色々教えて欲しいです」と何度か行って来た。
その言葉は明らかにお世辞であり、私の年齢を探る様な会話の後はあまり恋愛系の話は盛り上がらなくなった。

彼の気持ちが盛り下がったのと同時に、私にも同じ現象が起きていた。
27歳という年齢は大して気にはならなかったが、かなり早い段階で「早く結婚したい」「早く子供が欲しい」「自分が3人兄弟だから子供は3人欲しい」と言い出した。

私はと言うと、バツイチで失恋後まだ恋愛のリハビリ中。
今すぐ妊娠しても38歳の高齢出産、産めても年子で2人が限界だ。
田舎生まれ田舎育ちの子は結婚も出産も早いと言うが、まさに絵に描いたような田舎出の考えだった。

私は彼の夢を叶えてあげられないし、仕事の話を聞く限りこれから沢山稼いでモテるタイプの子だった。
将来有望の青年をこんな所で寄り道させる訳には行かないなと思った。
そうなると、どうやら私の態度にも出てしまった様で先輩と後輩の様なやり取りにいつからかなってしまった。

それから数日、間隔を徐々に開きながらも続いていたLINEは彼の未読無視で途絶えた。

これはこうなるべきしてなったのだなと納得した。
ふといつも思うのは、どうせならあの朝方に柴犬の様に甘えたあの子に抱かれておけば良かったなという事。

恋のリハビリはまだまだ続く。

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