恋愛に必要なアメとムチ
大好きな彼(付き合っていない)が、奇跡的に誕生日にお祝いをしてくれると言った。
厳密に言うと、無理矢理会う約束を取り付けた。
いつも誕生日直前にその話を振ると「もうその日は予定で埋まってる。」と振られてしまい、去年なんかは1ヶ月後に誕生日デートをやっとして貰えたくらい。
今年は少し早目に約束を取り付けなくてはと、3週間前に話題に出した。
「ねえねえ、9月25日は何してる?」
「ん?笑 忙しい。笑」
「ちょっとなんでよ」
「何かあるの?その日。笑」
「誕生日だよ!」
「誰の?笑」
「もう!分かってるくせに何でいつも意地悪するの?!」
いつもの様に意地悪な返しをされて、昭和の漫画の様にポカポカとぐーで彼を叩きながらふざけ合う。
けれどこればかりは譲れない。
どうにかして彼と過ごしたい。
彼の愛犬と私の誕生日が偶然にも同じなのだ。
私もその犬が大好きだし、運命を感じているのでお祝いしてあげたかった。
愛犬の誕生日を一緒にお祝いしたいと言って何とか会う約束を取り付けた。
自分の36歳になる誕生日を祝って貰う為にこんなに労力を使う物なのだろうか。
それから1週間後、つまり誕生日の2週間前、彼に無性に会いたくなった。
けれど頻繁に会うのを彼は嫌うので、様子を伺う事にした。
「先週会ったばかりだから、月末までデートは我慢かな?」
「そだね」
私達のLINEはいつも短い。
デートのお誘いは秒で却下された。
分かっている、これはアメとムチであり、謂わばプレイの様な物なのだ。
誕生日当日、夕方に彼の家に行く。
1時間位ダラダラ過ごしている時に、台所にいた彼が背中を向けながら言った。
「誕生日おめでとう。」
いつもこうなのだ。
忘れているとか、照れ隠しとかではなく、私が欲しがっている言葉を分かっていてわざと与えない。
こちらが油断している時に投下して来る。
こう言う時は素直に喜ぶべきと判断して返事をする。
「ありがと。〇〇(犬の名前)もおめでとね。」
肝心の私が照れて犬と遊ぶ事に逃げてしまう。
またアメとムチを与えられて不覚にも喜んでしまった。
その日は犬に犬用ケーキをあげて、友達のやっているバーに犬を預けて、2人で夜ご飯を食べに行った。
ご飯の後はバーに戻って少し飲んでから帰ろうとなった。
バーに戻ると、看板犬であるその犬は常連さんに囲まれて沢山お祝いして貰っていた。
その日2個目の犬用ケーキにおやつ、新しいおもちゃや手作りの首輪飾りと、沢山プレゼントも貰っていた。
私よりも盛大だ。
「お前今日だけだからなー。」
と彼は優しく犬に向かって言う。
私にも言われている様な気がしながら、喜ぶ犬を微笑ましく眺める。
犬を友達に預けてその日の夜は2人だけで過ごさせて貰った。
「一応今日〇〇ホテル取ったけどさ、今から行ってやる事ないよね?」
と彼は言う。
「えっ?ホテル?ありがとう。やる事いっぱいあるじゃん。」
「何?」
「お風呂一緒に…」
「入らないよ。笑」
「何でよ。」
「まぁ誕生日だから良いけど。笑」
そんなやり取りをしながらチェックインを済ませて部屋に入る。
彼の中でお風呂に一緒に入る=お風呂でセックスをすると解釈している様で、セックスはベッドでしたいからお風呂は一緒に入りたくないと言っていつも拒否されるのだ。
広いバスタブにワクワクしながらお湯を張り、寝ている彼を無理矢理起こしてお風呂に一緒に入る。
いつも殆ど前戯をしない彼がこの日は前戯もしてくれた。
誕生日って素晴らしいな。と心の中で呟き、さっきの犬もこんな感情を抱いていたのかな?と思いながらセックスをした。
ちなみに彼のセックスは異様に短い。(前戯もなくて短いセックスなんて、何が良いんだと思われるが、彼が好き過ぎてそれが堪らなくなってしまっている。)
終わった後、一緒に湯船に浸かりながら彼が言う
「2回するよ」
「えー嘘だよ。笑 いつもしてくれないじゃん。笑」
「今日はするの。笑」
誕生日って何でもして貰えるのかと驚きながらシャワーを浴びて髪を乾かしてベッドに戻ると、彼はいびきをかいて寝ていた。
ほらやっぱりしないじゃん、と思いながら、いつもの様に彼の大きな背中を後ろから抱き締めて眠りにつく。
とても幸せな誕生日だった。
ちなみに翌朝、2回目をねだると
「もう誕生日は終わり。」
と、ばっさり断られた。
その日、愛犬もまた美味しいケーキが貰えるかもと目を輝かせて興奮するたびに
「もう誕生日は終わり。」
と叱られていた。
「誕生日終わっちゃって寂しいね。」
と言って犬といじけながら翌日を過ごした。
でも、アメとムチがあるからこそ彼と過ごす日々は毎回新鮮でときめく物になるんだろうなと思った。
そうでなければ10年も好きでいられない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?