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「することができる」は「できる」の冗長表現?~知っておくと文章がちょっとよくなる日本語雑学

突然ですが、ばぶの弟はつい最近まで中国の大学で日本語を教えていた日本語教師。

そんな弟が、最近、SEO記事を眺めては「ちょっと気にすると、ちょっとだけ言葉の使い分けがおもしろくなるポイントがある」とたまうので、上手く録音できた回だけまとめてみようと思います。

というわけで今回は、Webコンテンツでは冗長表現として修正されがちな「することができる」という表現。

弟曰く、「できる」と「することができる」は別物だそうで。

以下、弟のノンストップトークをご覧ください。

「することができる」の方が実は古い言葉だった!

お前が言っていた「Webでは冗長表現として丸められることが多いが、正直、言葉のニュアンスや比重が違うので修正されたくない」という話だが、今回は可能動詞「~られる」を例にしよう。

可能動詞というのは中世に四段動詞未然形「れる」から派生した用法であり、一方で「~ことができる」の方は古代日本語の「出くる」が変化したものなのでより古いことがわかる。

そうすると本来ならば「~ことができる」の方がより文章語として正式なものとみなせるが、現代においてはなぜか冗長に感じる人が多い。
これは単純に文字数が多いだけではなく、「~こと」で一旦名詞化してしまっているために、動作そのものの同時性、現実味というものが失われるように感じられるためだ。

一方で、見える・見られるのように可能動詞と動詞の可能形が存在するような動作の場合、本来これらは、それぞれに細かいニュアンスの違いを持っている。
しかし、意志を持って見るか、状況によって見ることができるかというニュアンスを無視して、まとめて「~ことができる」で表せてしまうため、そこに書き手の手抜きを感じる人が現われる。

有効に使う「ことができる」で読者の思考と視界をハックする…ことができる

「冗長表現」としてWebのコンテンツで忌み嫌われがちな「~ことができる」だが、使い方次第では有能な存在だ。
書き手が意図してニュアンスをぼかすことで、別の部分にハイライトを当てたいと考えている場合、「~ことができる」は文章中でも有効な単語となりうる。

文章の中で相手の共感や同時性を得たいのであれば、「~を~られる」。
逆に客観性を重視するなら「~が~られる」。
あえて注目を浴びないように突き放した言い方なら「~を~ことができる」を使い分けるのが有効だろう。

ただし、「あえて注目を浴びない書き方」は文豪がよく使うが、普通の文章ではあえて意図することは少ないから、使い間違えると俯瞰視点なのに一人称視点の文章になってしまって、読んでいると気持ち悪いなんてことも起こり得る。

逆にわざと「ことができる」をぶち込むことで、読者の違和感を誘ってそこに注目させる技法もある。
一例だと、シグルイの最後の場面で「隻腕の剣士の刃は骨を断つことができるのか?」というモノローグだ。

「断てるのか?」だと臨場感が強くなるところを、あえて「断つことができるのか?」とすることで、事件を相対化しつつ突き放し、読者は観客に過ぎないことを強烈に刷り込む表現になっている。

さらに最後に「できる、できるのだ」で締めることで、読者は一気に場面に引き戻されて、その場の一瞬の勢いを感じることができるような仕掛けになっている。

この手の言葉のテクニックは、日本の漫画の強さの一つであり、日本語の表現力の豊かさとも言える。

他に有名な例を挙げると、小説雪国の冒頭の一文、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」だ。
ここで使われる格助詞「と」は発見の意味をあらわすが、通常は発見という主観的表現を文章表現では使用しない。
それをあえて小説の冒頭に持ってくることで、わずか一文にして読者をトンネルの闇から抜けた先に広がる雪景色という、作品世界に引きずり込むことに成功している。

「ことができる」と「できる」は意志の重心が違うので使い分けるといいらしい

ちなみに動詞の可能形は敬語の「~らる」から変化したものだから、偉い人に命じられて実行させられる→できるよね?的な流れで生まれたといわれている。なので、敬語と受け身と可能が全部同じ形になっている。

そのせいでどういう意味と意図を持った「~らる」なのかわかりづらい。

そこで現代の口頭で「~ことができる」をあえて使うのは、相手への気遣いともいえる。

「~ことができる」の語源は「出て来る」なので、本人が望んでるかどうかにかかわらず勝手に成立するイメージが基礎になっているのだよ。

以上、弟の日本語雑学トークでした。どっとはらい。
というわけで、よかったら弟に缶コーヒー一本分の投げ銭でもおねがいします。有料部分にはお礼以外なにもないです。

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