見出し画像

コンサルと施工屋のバトル

お気に入りのカレー屋さんにお昼ご飯を食べに行った時の話。

行列ができる人気店で、その日も少し並んで入った。

いつものように季節のメニューで2辛(MAXで3辛)でオーダーして待っていた。周りは1人でもくもくと食べてる人がほとんどで、いくつかのテーブル席では、それぞれ話が盛り上がっていた。

私は窓側の席で店内に背を向けて座り、真後ろはママ友2人組が保育園の話をし、その向こうは、仕事の同僚2人組という感じだった。待ってる時間は暇なのでなんとなくまわりの話が耳に入ってくる。

しばらくするとカレーが届き、はふはふしながら食べていたが、店内の話し声に異質な空気が混ざり始めた。

遠くの席にいたコンサルと施工屋っぽい2人組の言い合いが始まったようだった。
声の感じから想像するに、コンサルは気の強そうな日本語の上手い外国人女性(カイヤさんを思い浮かべてください)で、施工屋はちょっと怖そうな口調の、なんなら若干巻き舌の男性のよう。
施工屋の言い分は、原価も工賃も分かんねぇ何も物作んねぇやつが制作に口出すな!ということだった。

まあ物を作ってたら、そういう気持ちになる事もあるよなぁとか思いながら聞き流していた。

ところが、施工屋は段々と口調が荒くなりコンサルをディスり始めた。
店内は静まり返り、両隣の客もチラチラとそちらを気にする空気が漂った。
私もちょっとやだなあと思いながら、黙々とカレーを食べていた。
周囲の嫌がる空気をよそに、施工屋はヒートアップしてさらに荒々しい口調でコンサルという職能をディスり、コンサルも負けじと言い返していた。

ひとり、またひとりと、ランチ時のたのしいおしゃべりが消えていった。
おそらく真後ろのママ友たちも同僚たちも帰り、店員はコンサルと施工屋を避けて席を案内しているのだろう。

差別的な表現で一線をこえてしまった後は、もはや議論として成り立っておらず、お互いを罵り合っていた。聞きたくもないが耳に入ってくるので周囲には苛立ちや、嫌悪の空気が立ちこめ、両隣の人たちは何度もそちらを振り返ったり、足を鳴らしたりしていた。
私も気分が悪くなってきたし、その空気に耐えれなくなった。

よし、声をかけてみよう。
一回頭の中で練習して、私は振り返って彼らに声をかけた。

「すみません、すみません!すみませーん!」

中々聞いてもらえず、三度もすみませんと言ったし、3回目なんかは手まで降振った。
振り返った施工屋は浅黒く、センター分けにした短髪でグレーのジャンパーを着ていた。コンサルの女性は長い黒髪をかき上げて頭にサングラスをのせていた。
コンサルの方は自分たち以外の他人の存在を認識して、少し慌てるような恥いるような気まずさを見せたが、施工屋は虚な三白眼でこちらを睨んできた。

しまったなと思った。

帰ったと思ってたママ友たちも同僚たちもみんないた。
みんなただ、異様な空気に声を潜めていただけで満席のままだった。

声をかける前に振り返って確認すべきだった。
みんながこれは注意できんなと判断し声を潜めるようなやつだったら、私だって声をあげなかった。完全にミスった。

店内いっぱいの大勢の大人たちが声を潜め、誰も何も言えなかったのに、声をあげて手まで振っためちゃくちゃ勇気ある人みたいになってしまった。

コンサルと施工屋には、聞き違いにできないくらい、しっかりとこちらに注意を向けてしまったし、まわりの人間たちの不安そうな視線も集めてしまったので、何か言うしかなかった。

さっき頭の中で練習したのに、全然そのシナリオじゃ通用しない状況に成り果てた。

混乱の末ついて出た言葉は、

「けんかしないで」

だった。

自分でもびっくりした。絶対よくないって分かった。

施工屋はすぐさま「おい、何がだよ!なあ!」とブチギレ、コンサルはすぐさま「ちょっと声が大きかったって!少し静かにしましょう?」となだめはじめた。

わざわざ言葉を言い換えたところにコンサルは施工屋のことをなだめ慣れているような感じがしたのと、コンサルがそれを引き受けた様子だったので、私は体の向きを変え、施工屋の罵りを無視した。
しばらく何か言っていたが、私に言っているのかコンサルに言っているのかわからなかったのでそのまま無視を続けた。
というより、何をどうやっても火に油を注ぐ結果にしかならなそうで、そうするしかなかった。

ほどなくして店員さんが退店するよう促し、施工屋は暴言を吐きながら、コンサルは軽く謝りながら2人は帰って行った。録音はした。

隣の席のそわそわチラチラしていたMAX3辛お姉さんからは、私は言えなかった勇気があったありがとうと感謝され、お店の方からは謝られた。


「外にいたらどうしよう?」と言葉を漏らすと、3辛姉さんは私の目をしっかりと見つめ、今にも手を握ってきそうな熱量で、

「大丈夫、私がいる!」と答えた。

何が大丈夫なのだ。

3辛姉さんは華奢で小さく、力では絶対に勝ち目がない。しかし姉さんの落ち着いた声質と選んだワードのセンスには凄まじい安心感があった。頼もしすぎワロタと思った。頼もしすぎて、本当に大丈夫な気持ちになった。

ほんの一瞬で様々な感情が去来した私は「あっ、スゥー……アリガトゴザイマス」とぼそぼそと答えるだけだった。



カレーを食べ終え会計を済ませ、外へ出るとマジで2人がいた。

あ、本当にこういうことってあるんやなと思った。

すぐさま道路の反対側へ渡り距離を取って歩いたが、施工屋はこちらを挑発するような言葉でダル絡みしてきた。
声のかけ方というか発音がすごかった。

「オェイ!ババァ!ナェア!アヤマレヤコルルルルルラ!」

テキストで表現するのは非常に難しいが、ヤンキー?みたいな発音で直接自分に話しかけられる体験は初めてだった。
コンサルが施工屋の腕を掴んで「〇〇!もうやめましょう!」と引き止めていたのが視界に入ったので、私は一度もそちらを見ず無視して帰った。

あれは何だったんだろうなと考えた。

なんというか自我がない感じがした。

私は他人から声をかけられたら、「あ、気付かなくてすみません、静かにしますね」ってなると思ってた。自分たちの罵り合いのせいで、同じ空間にいる他人を嫌な気持ちにさせてる、迷惑な行為をしている、やめなきゃ、ってなると思ってた。

けど全然違った。他人が嫌な気持ちになっている状況や、そうさせている自分、迷惑をかけている自分が認識できていないような感じがした。

あの様子だと、お店を追い出される経験は今回が初めてではないだろう。
はらぺこだったのに、カレーを食べられなかったんだよなと思うと、悲しくなったし、申し訳ないことをしたかもしれないと思った。

とにかく、早くお店の人に対処してほしかったし、私もお店の人言えばよかったなと勉強になった。

……いや、やっぱあんだけ差別的な表現でBGMよりでかい声で罵り合ってたんやからお店側がさっさと対処してくれや!まじで!

今度からは、自分からアクションを起こすかどうかは、ちゃんとまわりと相手を見てから判断しようと思った。

おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?