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いつかヨットで暮らしてみたいと思っていた

コミュニティは、人生をより豊かにする居場所となるー。
「偏愛物語」とは、オシロ代表の杉山博一が「偏愛」を紐解く連載企画。
今回は、ヨットから学んだ、経営のヒントについて綴る。

物心がついたころから、いつかヨットで暮らしてみたいと思っていた。
理由はわからないが、なぜかヨットという乗り物に惹かれていたのだ。
あの佇まいも好きだし、自由な感じも魅力に感じていた。

そして2012年、知り合った方がヨットを7隻も所有するほどヨットを偏愛されていた。
その方に生まれて初めてのセーリングに誘っていただき、念願のヨットに乗る機会をいただいた。7隻のうちの1隻は世界一美しいと言われているヨットで、なんとそれに乗せてもらうことになった。

とにかく、すべてが美しかった。
ヨットを構成する一つひとつの部品の造形美、ヨット自体が美しいのはもちろんのこと、ロープワークなど一連の所作までもが美しく、「ヨットってなんて美しいのだろう」と胸を打たれたと同時に、とても興奮した。

その日は神奈川県の三浦から横浜まで5時間ほどかけてセーリングを体験した。
海と空の色、風を切る感覚、そして風の力だけで進むことが何より素晴らしいと思えた。まるで鳥になったような気分だった。いまでも、あのときの感覚は忘れられない。

自然のなかで過ごす週末

その後「OSIRO」の開発がはじまり、早朝から夜遅くまで、土日も休まず仕事をする日々が5年ほど続いた。

開発に没頭するあまり、渋谷にあるオフィスの近くに住み、オフィスと家の往復をするだけで毎日が終わる。そんな日々を繰り返すうちに、ニュージーランドで過ごしていたときのように、たまには自然のなかに身を置きたいと思うようになった。

そこで先のヨット偏愛の方を師匠として弟子入りをさせてもらうように頼み込んだ。そうして週末は、海へ行き、ヨットを教えてもらうことになったのだ。

師匠は大学のヨット部でも教えていたので、時折学生に混ざって学ばせてもらうこともあった。(学生たちからは「この物覚えの悪いおじさん誰?」と思われていたかもしれない…)

現在も週末は三浦に通ってセーリングを練習したり、ヨットレースを経験したり、ほかにもカヌーや魚釣り、山登りなど、自然のなかに身を置いて過ごしている。

カヌーは6人乗りのアウトリガーカヌー

そこは森のなかにある湾で、都会の騒音とは無縁のとても静かなところ。鳥や虫、リスの声しか聞こえない。昼はトンビや、カワセミ、サギが飛び交い、夜は満天の星空で、天の川が見えることも。

そう言うと聞こえはいいが、実際には面倒なことばかりだ。
毎週、渋谷から車で片道1時間以上かけて移動し、岸からヨットまでは手漕ぎボートで渡る。毎回飲料水など重い荷物を運ぶのも重労働。夏はものすごく暑いし、冬はものすごく寒い。それに狭い。

なんでこんなに面倒臭くて大変なことをしているんだろう…と自分でも思うが、面倒だと思われるオフグリッドな環境は、すべては自然の中で過ごすため。好きじゃないと続けられない。不便を楽しみながら、不便の代償で得られる豊かさを味わっている。
豊かさは面倒臭くさとのトレードオフだと思っているし、自分ではまったくもって自然体なのだ。

静かな森の中にある湾

ヨットとビジネスの共通点

ヨットを教えてもらうようになって、仕事と重なる部分が多いことに気がついた。

たとえば、ヨットは体力的にも精神的にも過酷だ。
海では何があるか分からない。出航したときは死と背中合わせだと感じるし、帰ってきたときは安堵する。これはスタートアップを起業して、ヒリヒリと緊張しているのと同じだ。

また、運航しているときはほかの船や障害物とぶつからないように、操船する人と見張りの人は「2時の方向500メーター先、漁船あり」「2時の方向500メーター先、漁船あり、了解」といったようにお互いに声を掛け合うのだが、これも日々の業務と同じだと感じた。

「◯◯お願いします」と言っただけでは、相手にちゃんと伝わっていない可能性がある。「◯◯ですね、わかりました」としっかり答えてもらうことで、ミスコミュニケーションが起きないように心がけるなど、仕事でも掛け声文化を根付かせたいと思っている。

それから、組織づくり。
出港時、湾を出るまでエンジンを使うが、そのあとは帆を張り、風に合わせて調整しながら進んでいく。

これはビジネスで言うと、帆は社員、風は市場。風がある場所を見極め社員たちが風を一番受けるようにすることで、パフォーマンスを最大限出せるように調整することが大切だ。

そして社長は船長と同じように、全体を把握し、市場を見極め、クルーの動きを正しく指示する必要がある。セーリングをしながら自分自身に置き換えて、最適な組織、適材適所や方向性をしっかりと見ていきたいと思っている。

ほかにも、ヨットはチームビルディングのアクティビティとしても最適で、海外の企業ではチームビルディングに使われている。

みんなで協力し、コミュニケーションをとらないと命に関わるので、普段は一切話をしない関係だったとしても、海上では強制的に共同作業、つまりコミュニケーションを取る必要がある。
こうして、力を合わせながらA地点からB地点まで移動する工程の中で、チームビルディングされていくのだ。

実際、ぼくも社員たちと一緒にセーリングすることもあり、チーム力が上がってさらに絆が深まっているように感じる。

こんなふうに、ヨットとビジネスには共通点があり、学べることは多い。

ぼくの偏愛はヨット、コミュニティ、そしてもうひとつ。

子どもの頃、なんとなく「ヨットで暮らしてみたい」と思っていた夢が、第5回でも書いたようにニュージーランドの海辺でキャンピングカーで暮らすことで現実味を増した。

そして引き寄せられたようにヨットの師匠と出逢い、弟子入りする機会をいただいて、今ではヨットと経営を結びつけて考えられる視点まで持つことができるようになった。

そうか、ぼくはヨットが好きなんだ。
人よりちょっと気持ちが入るだけでも、その少しの違いが、続けられるかどうかを決めているのかもしれないし、大きな差を生むのかもしれない。

ちなみに、ぼくの偏愛はヨットだけではない。
やはり一番は、オシロに偏愛し続けている。コミュニティに偏愛しているとも言える。コミュニティの持つ力は偉大なのだ。

OSIROは必ず世界を変えるサービスになる。確信している。
その日を迎えるためにも、日々のパフォーマンスアップを目指して、ぼくは健康オタクでもある。

確信しているから、日頃の習慣にも表れ、続けられている。
偏愛する仕事に自分の全てを注ぎ込み、自分のパフォーマンスを最大限発揮できるよう、毎日意識して取り組んでいる「習慣」がある。
今までは気づいていなかったが、もしかしたらこれも偏愛の一つ、アイデンティティなのかもしれない。

せっかくなので、次回はぼくの偏った習慣をお伝えしたいと思う。

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