SaaSプロダクトは一刻も早くCXOを迎え入れるべきだ 〜Release電子契約の事例
GOGEN株式会社CXOの金子剛です。
こちらの記事はSaaS Design Conferenceで登壇した内容をまとめたものです。
SaaSプロダクトは一刻も早くCXOを迎え入れるべきだ
近年デザインエグゼクティブを迎え入れたいと考えている企業は引き続き増加しています。
今回は特に「SaaSプロダクト」のスタートアップ初期にCXOがいるとこんなレバレッジが効くよ!という話をさせていただきます。
プロダクトの根幹となる「体験の幹」の設計を初期から行うことができる
ひとつ注目するべきは、一本の筋が通った"体験の幹"を初期に作ることの大切さです。
多くのSaaSの初期は残念ながら「体験」を考えられないまま、機能要件のみが先行して実装される傾向があります、そしてバラバラになった機能群の山を振り返ってふと「あれ、これって使いにくくないか?」と気づくのです。
多くの場合はこのタイミングで体験の責任者が呼ばれることが多いのですがすでに出来上がったものを再整理するのとても難しいです。
幹の設計は最初が肝心です、上モノが積まれるほど幹の設計の作り直しは後々コストが掛かります。
初期よりCXOのいるプロダクトは将来に置いて払うコストが安くなるので、そうでないプロダクトと比較して高い成長性を示すことができます。
CXOがいると数歩先の未来が議論できるから「太く真っ直ぐな幹」を作りやすい
CXOの大事な仕事として「未来のイメージを具体的にする」というものがあります。
多くの現場では長期の「抽象的で大きなビジョン」、と「今作らなければいけないもの」の間に大きなギャップがあることが多いです。
この長期と短期のギャップを埋めるために数歩先の未来を具体のアウトプットで埋めていくことができます。
またこの数歩先の未来を先行して販売する"商品"とすることもできます。
常に先行して具体的なプロトタイプでテストセールスが行えることによって、売り物にならないものを作ってしまうリスクを減らすことができます。
この様に社内としての連続性のあるプロダクト開発、商品としての不確実性の削減を同時に行うことができ、プロダクトに太い幹を提供することができます。
何も無い創業初期、あるのは輝くアイデアだけ
いま所属するGOGENのCXOとしての初期プロダクトは、不動産電子契約サービスの開発でした。
スタートアップの創業初期を経験したことがある人ならうなずいてくれると思うのですが、このタイミングではリソースもチームもドメイン知識もオフィスですらも満足にない中の開発でしたし、私も当時はまだ副業での参画でした。
そこにひとつだけあったのは創業メンバーの光り輝くアイデアでした。
一つだけ大切にしたのは体験の幹
プロダクトの要となる体験の幹とは、理想的な一本のユーザージャーニーによって定義されると考えています。
もちろんユーザービリティや整合性のあるUIも大切ではありますが、この何もないタイミングで一つだけ重視したのは体験の幹でした。
(※創業2年が立った今は内製チームも立ち上がり、これらをシビアに無視する必要もなくなっています、ここあたりの話はまた別途!)
たとえば現在はXにリブランディングされた元Twitterですが、2008年の日本語版がリリースされた当時からその体験の幹は変わっていません。
短い簡単な文章を投稿する、タイムラインで自身や周囲の投稿を見る、タイムラインを見ながらより興味あるフォロワーを増やす。フォロワーが増えるとコミュニティも拡大してく…といった具合です。
今見るとUIの洗礼されてなさは感じてしまいますが、優れたサービスは体験の幹がしっかりとしているので、数々の機能追加やリブランディングでもその存在感を維持し続けています。
プロダクトは、アイデアの段階ではバラバラになった要求が無数に存在しています。これを開発可能にするために構造的な整理を行っていくのですが、ここで体験的な整理、つまりは理想的な一本のユーザージャーニーを磨き込むことを多くのSaaSはおろそかにしていると感じます。
それぞれのページがどんな順番で閲覧され、それに対して顧客がどんな感情の変遷を描いていくのか?を磨き込んでいくことで、体験に整合性を持たせて行きます。
このときは、プロダクトに触れる人間の感情という一種の非合理なものも含めて整理していくことが肝要となります。
プロダクトにおいては、どうしても「作りやすい構造」というものが存在します、内部の開発者としてはその美しさを大事にしたいのでついうっかりと構造的な美しさを顧客に押し付けてしまうことがあります。
こんなSaaSプロダクト(特にtoB)を目にしたことはありませんか?
階層はMECEになっているようだが、なぜかやりたい操作を見つけられない…
データと操作が連動していないので、自分が作ったはずのデータをいつも見失う…
一連の業務なのになぜか何度もTOPを経由して様々なページを横断させられる…
長期的にプロダクトを開発していくと、いつのまにかこの体験整合性が合わなくなってきて、結果的に構造の整理すらも破壊されてしまう結果となります。
この構造の整理にプラスして、体験の目線でも整理することが初期のプロダクトづくりでは肝要です。
あらためてSaaSデザインとは何であるか?
SaaSとはSoftware as a Serviceの略あることを思い出してください。
従来であれば「as a Service」はソフトウェアが動作する環境がインターネット上にあることを示す言葉でした。
しかしas a Serviceという言葉を単体で見ると別のビジネス的な側面を意味しています。モノ消費からの体験消費へのシフトです。
そこで大事になってくるのが「サービスデザイン」です。
サービスデザインとは、顧客にとって対価を支払うに値する「良い体験」をどうしたら提供できるか?という考え方です。
まさにこの「良い体験」を定義するのが理想的な一本のユーザージャーニー、つまりはこの記事で伝えたい「体験の幹」となります。
ウェブ上でメンテナンスされたソフトウェア自体のアクセス権を販売するという考え方から1段目線を上げ。
このSaaSはどのようなサービスデザインを提供し対価をもらっているのだろうか?という思考をもってプロダクトを作っていくことが求められているのではないでしょうか?
どの様にas a Serviceをデザインしていくのか?
まずお伝えしておきたいのが、サービスの定義をあとづけするのは難しいということです。
モノやコト、つまり機能群やコンテンツが生まれた後にそれら全体をサービスとして辻褄を合わせることはできなくはないですが、本質的ではありません。
むしろサービスとしてどうありたいか?どんな理想的な体験を提供したいのか?からモノやコトを生み出せる状況にこそ価値があります。
だからこそCXOは早期に参画させる必要があると考えます。
1)ビジョンが実現した世界を絵にしよう
抽象的な話を現実的にするために、そのプロダクトがある世界はどんなものなのか?シーンを想像させるようなアウトプットを作る。
2)AS-ISとTO-BEを可視化しよう
今とプロダクトがある未来にどんな差分があるのか?を言語化してみる。
3)未来に作るであろうプロダクトを今見せよう
少し先の未来から、プロダクトの姿をタイムトラベルさせよう。
言葉では伝わらない感動を呼ぶようなプロトタイプを作ろう。
未来を目に見える形にすることに意味がある
まだないもの、感じたことのない価値は誰しもが同じ様に捉えることができない、これは社内だけではなく、これから販売しようとしている顧客に対してであればよりその印象はズレてしまうでしょう。
顧客の期待値とプロダクトの形を揃えるために、早期から目に見えるデモンストレーションをこまめに用意していくことが、結果ビジネスのスピードを早めることにも繋がります。
過去ではなく、未来のプロダクトについてアプローチをしていく
前述したように、モノやコトが無数に生まれたあとにサービスを定義することは困難です、どうしてもその結果矛盾が生まれてしまいます。
多くの企業は表層的な体験の改善が内部的なねじれ・コストを蓄積させることに気づいていません。
体験とは常に未来へのアプローチであることが最大効率なのです。
顧客体験の向上はARRの根源
SaaSの最も重要な指標としてMRRやARR(月や年ごとの経常収益)がよく挙げられます。
当たり前ですが、「実際に使ってくれること」「使い続けてくれること」がなければこれらの経常収益には繋がりません。
「良い体験が継続できている」からこそ、顧客は継続的な対価を払ってくださいます。
今回の電子契約サービスにおいては、導入してから95%の企業様がそのまま実際にご利用してくださっています。
これはとても喜ぶべき結果です。
登壇スライド
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