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デザイナーはコストセンターか。 組織とキャリアから考える

デザイナーは、利益を生み出すプロフィットセンターなのか。もしくは、収益に貢献しないコストセンターなのか。

デザイナー個人にとっても、デザイン組織にとっても、重要な問いです。


プロフィットセンターとコストセンター

デザイナーが売上や利益に対する責任を持ち、定量的な数字目標を掲げている。自身の評価にも数字が絡んでくる。これは、プロフィットセンターとしてデザイナーが活動しているケースです。

事業会社のデザイナーであれば、営業など他部署と同じ目線とリスク感覚で成長を目指しているような状況。デザインエージェンシーであれば、制作業務だけでなく、クライアントに提供するサービス全体に対してデザイナーがコミットしているような図です。

一方で、コストセンターとしてデザイナーが動いているのはどのようなものか。例えば、喫緊で利益が出ない研究開発業務にデザイナーが従事している場合。次年度以降に利益が出るような事業を開発していたり、技術開発や調査研究活動に取り組んでいる場合。単年の利益には貢献しないが、企業の長期的成長には関与しているようなケースです。このような環境では、数字ではなく、その組織のミッションを果たしているかどうかがデザイナーの貢献ポイントとなります。

デザイナーがPRや広報部門として位置づけられる場合も、一般的にはコストセンターと言えるでしょう。顧客だけでなく、従業員や求職者、株主やパートナーなど多方面のステークホルダーとの認知形成や関係性構築をミッションとするものなので、単年の利益とは距離がある存在です。コストセンターだからこそ、短期利益から離れた自由な表現や価値創出に向けて動くことができるとも言えます。

役割が曖昧であることの課題

プロフィットセンターなのか、コストセンターなのか。明確に線引きができず、解釈が曖昧な場合もあります。実はこのケースがデザイナーにとっての課題であり、この記事の本題にあたる部分です。

典型的なのは、デザイナーやデザイン組織自身はプロフィットセンターとして意識し事業の成長に当たっているものの経営サイドは自覚的なのか無自覚的なのかコストセンターとして捉えているようなケースです。

コストセンターは文字どおり「コストとなる部門」です。想定成果に対してコストは必要最小限であることが正義です。つまり、デザイナーは事業の成長段階やその時の業績に対して、ミニマムな状態であることを暗に求められてしまう。なるべく少なく、なるべく安くといった圧力にさらされます。

デザイナーが「仕事が多すぎて忙しすぎる」と経営に訴えたとしても、それが業績から見てコスト最適な状態ならば、経営者の視点では「100%稼働していて業務とバランスできている状態」と判断されることもあります。その場合、業績が上向けばデザイナーが増員されますが、その逆であれば逆の事が起こりえます。

利益貢献を前提とするプロフィットセンターの人材であれば人を増やしたらその分だけ売上が上がる構造なので、経営者も採用に意欲的になります。人材の補強や部署の拡大が、事業成長への投資であるという期待値の中で、積極的な意思決定がされることも多いものです。

利益貢献を前提としないコストセンターの人材であれば経営的には投資ではなく固定費を増やす感覚になる。極端には「組織が成長したら人を増やそう」「退職者が出たので人を入れよう」という事後的な判断しか起こり得ないものです。

事業に伴走するプロフィットセンター的な動きをしているにもかかわらず、コストセンター的に観られてしまっている場合。デザインへの要望が多く集まるにも関わらず、人員は最小限であることがベストであるため、稼働が逼迫しやすい。デザイナーは学習や研究のための時間を確保しづらい。自身や組織を戦略的に成長させるための手段を講じようにも常に身動きが取れない。そのようなことにもなりかねません。

成果指標と時間軸

私はこの状況を、解決すべき重要な問題だと捉えています。プロフィットセンターとコストセンターそのものに優劣はありません。が、このようなギャップがある場合、デザインの貢献に対して機会損失が生じてしまう。デザインは価値と利益を創造する源泉です。先行的に育成や投資をすべき存在と考えています。

この問題を解決する道筋は、経営側のアプローチと、現場側のアプローチの2つが存在します。

まずは、経営側のアプローチ。それは、デザイン組織やデザイナーをプロフィットセンターとして明確に扱う方法です。ただし、この方法にも課題はあります。

一つはデザインの成果指標の設定に関して。全社の業績数字に対して、デザインの貢献を関係づける指標を設定することです。デザイナーの努力によってその指標を向上させれば、おのずと業績も良くなるというような構図を作り上げることです。

デザインの価値をそのまま金額換算することは難しいもの。デザインの成果に関する一般論的な解を、そのまま自社に適応するのもナンセンスです。企業ごとに、その事業、そのサービスに対するデザインの価値を言語化し指標化する必要があります。その時の事業の成功要因を突くような指標設定が望ましいものです。

指標設定に対して、デザイナーがデザインの価値をデザイン起点で原理主義的に考えていく姿勢では、内部の反発や衝突を招くこともあります。業務がまわり事業が成長すること人が育ち組織が強くなること公平であり皆が納得できるもの最低限このような機能を持ち得る指標をハンドメイドで考え連携と調整を繰り返して設定することが重要です

デザイナーをプロフィットセンターとして扱うにあたって、もう一つの課題は時間軸です。単年の利益を見すぎることでユーザーや生活者の長期的利益を毀損しないようにすることです。ミッションの持ち方や部門間の調整にも工夫が必要になります。デザインの影響は目の前の顧客だけでなく社会全体に向けられるもの。そういった視点を持ち、行動を引き起こすための組織的なしくみが必要になります。

デザイナーの「待ち」の構造

デザイナーが不本意にコストセンター化してしまう問題。経営側のアプローチについて述べましたが、ここからは現場からのアプローチについて。デザイナー自身が行動を変えていくものです。

デザイナーを不本意にコストセンターとして見てしまう最大の要因は、デザイナーの待ちの姿勢」にあります。デザイナーの業務が、他者からの依頼をきっかけにしかスタートしない。デザイナーは利益創出の起点にならず、常にその後方支援にまわっている構図です。

経営者の本音は「デザイナーを増やした分だけ売上が上がるのか」という点に尽きるもの。しかしながら、「待ちの姿勢のデザイナーをいくら増やしても売上は上がらない。残念ながら、これは事実です。

「待ちの姿勢」が前提となるデザイン組織では、デザイナーが増えたとしても、デザインと協働し成果を上げられる依頼者がその分だけ増えないと、全体の活動の量は増えていかない。依頼者の存在がボトルネックになる待ちの姿勢のデザイナーが過剰リソース化してしまうのです。これは、過大な固定費として企業経営のリスクを高めるだけの存在になるということです。

デザイナーを受け身にする背景

私は、デザイン業界や教育の慣習が、デザインを「待ちの姿勢」にさせているのではないかと感じています。

例えばデザイン系の教育機関では、「デザインのやり方」についてはしっかり指導するものの、「デザインプロジェクトの作り方」については深くは教育しない印象です。自らの問題意識に対して他者を巻き込むような企画の立て方や、解決のためのプロセスを設計するような技術を学ぶ機会が少ないのです。

ブルーノ・ムナーリやエンツォ・マーリといった、イタリアデザインの巨匠達は、現代で言うところのデザイナーを「プロジェッティスタ=プロジェクト全体を遂行する者」と認識していました。

しかしながら、デザインは垂直分業化していき、「プロジェクトをつくる仕事、「営業プロデュースといったデザインでないものに分化させていってしまった。おそらくこれは、経済成長を背景とした分業による産業効率化の観点であったり、広告業界に観られるような商流の固定化が招いたものであると推測されます。

デザイナーの仕事が、常に他者からの依頼によってスタートする。こういった背景で育ったデザイナーは、自分が問題解決や価値創造の「起点」になることに対して当事者意識を薄めてしまっている。

広く世間に知られることになった「デザイン思考」は、そのプロセスのスタートを、ユーザーへの「共感(Empathize)」と表現しています。デザイン自体のスタートはもっと手前の「プロジェクトを起案すること」にありますが、「デザイン思考」により、その後段の「共感」フェーズがデザイナーの仕事のスタートと、一般に受け取られるようになった背景もあるのかもしれません。

デザイナーを起点とする仕事のプロセス

このような、不本意にコストセンター化しがちな状況を変えるには、デザイナーを価値創出や利益拡大の起点としても活躍できるように業務を整える必要があります。デザイナーが利益を作り出す起点となれば、「デザイナーが増えれば売上も上がる」「依頼がなくてもデザイナーが自走し利益創出する」風景を作りだすことができるからです。

極論、デザインが業績に貢献する指標化がされていなかったとしても、経営者の視点からは、デザインを経営に活かす手応えをしっかりと得られるようになるはずです。

デザイナーが価値創出や利益拡大の「起点」となるような業務プロセスは下記のようなものです。

4段階の業務プロセスを表している図。1つ目は企画。企画立案やプロジェクト計画、調達や資源獲得が含まれる。4段階の2つめは定義。調査分析や問題定義、提案価値定義が含まれる。4段階の3つめは開発。アイディエーション、体験設計、開発実装が含まれる。4段階の4つめは成長。プロトタイピングや分析検証、事業方針への反映が含まれる。図では1つめ段階の企画がハイライトされ、その点が重要であると示している。

おそらく、「定義」「開発」「成長」に関しては説明不要でしょう。多くのデザイナーが、自分の仕事として当事者意識を持って動いているプロセスです。

「企画」は、プロジェクトを企画すること。自分の内発性や課題意識から他部門に起案することです。事業をさらに成長させるためのアイデアを自分で出し提案すること。予算や人員やスケジュールを設計し、経営者や事業オーナーに企画として示し、組織を動かすことです。

デザインエージェンシーであれば、クライアントや見込み顧客の課題を捉え、解決の手段を提案するような行為がそれに当たります。企業によってはその仕事を「営業」と呼ぶかもしれませんが、その区別をし、デザイナーを関与させないでいると、どんどん「待ちの姿勢」化が進行します。

企画はパワフルで創造的な行為です。何を課題とすべきか、どこを利益創出のポイントとして突くかは、柔軟かつ広範な知識が必要になります。予算や人員やスケジュールの設計は、プロジェクトを成功させるための最重要な検討です。デザインに対する見識がないと、リソース傾斜であったり、成果と費用がバランスするポイントを見いだせません。

組織として考えた時、デザイナーの何割かは「企画」業務ができないと、不本意なコストセンター化が進みます。全員が「企画」を実行できることがベストではありますが、感覚的には3割ほどを維持できれば、組織の自立性を確保し続けられるものと思います。

企画業務は別部署が行っているかもしれません。しかしながら、デザインの視点で考える企画はデザイナーでしか立てられません。ユーザーの視点、社会の視点から企画を立案する責務をデザイナーは負っているという価値観を持つことが必要です。

個人として考えるならば、「企画」もできるようになることが、キャリアの自立性や持続可能性を高める有効な手段となります。「結局は仕事をつくれる人が最強」とはビジネスの一般論ですが、これはデザイナーにも部分的に当てはまるものです。「依頼待ちのデザイナーでいると市況や業績に依存することになり、自分自身を不安定にしてしまいます。

「企画」を実行するには、その事業や業務に対する理解が基本になります。その事業の利益の源泉や競争優位がどこにあるのか。事業を構成する業務がどう流れているか。事業を市場にフィットさせるにはどう業務を変更すればよいかなど。事業や業務に当事者意識と内発性を持って、接し続ける姿勢が重要です。

では、どうすれば「企画」を具体的に実行するか。これについてはまたの別のnote記事にて紹介できればと思います。


Photo by Tamanna Rumee on Unsplash


※今回は、デザイナーがプロジェクトの企画部分を担当しないことで、意図せずにコストセンター化してしまうという指摘をしました。下記の記事では「分業を軸にしたデザインの成果や経済性人材育成のあり方について説明しています。合わせてご覧いただけますと嬉しいです。

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