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私にロービジョンケアを教えてくれた、一人の患者さんとの出会い

「あなたのおかげで人生が変わったよ。本当にありがとう」

この言葉は、私が視能訓練士になって一番嬉しかった言葉です。

以前のnoteで

を書きました。

そのことを教えてくれた、ある一人の患者さんとの出会いをお話しします。その出会いは…最悪なものでした。


かなり癖のあるKさんとの出会い

10年ほど前に初めて出会ったKさん。

私がGPのバイトにいっていたクリニックの患者さんです。Kさん、いわゆる癖のある患者さんで、スタッフの皆さんは検査をしたがらない。

緑内障で両眼視野は10度以内、片眼はほとんど見えていなかったように記憶しています。

クリニックに通院して10年以上で、カルテはものすごく厚かったです。

Kさんは検査中

「どうせ見えんのやけ検査してもしょうがないやん」
「レンズとか交換せんでいいけ、さっさとして」

と、毎回小言と言われながら検査していました。

あの頃の自分は、正直にいって「ちょっと面倒だから、あまり検査したくないな」そんな気持ちを抱いていました。そんなあるとき、Kさんが

「いつまで待たせるんか。帰れんくなるやろうが」

と怒り始め、私が「どうして帰れなくなるんですか?」と尋ねると

「暗くなると道がわからんのじゃ、そんなこともわからんのか」

まだ16時くらい、日も沈んでない時間でした。

「なんでまだ明るいのに道がわからなくなるの?」

Kさんの言葉が気になっていた私。先生に頼んで次回のGP枠の1つをKさんと話しをさせてもらえませんか?とお願いしました。

Kさんの本当の気持ちを何もわかっていなかった

先生から了承をもらった私は、Kさんには検査の予約と嘘?(検査もするので嘘ではない)をつき、詳しい現状の話を聴くことができました。

最初は話したがらなかったKさんですが、だんだんと口を開いてくれ、私は衝撃の事実を耳にすることに。

《Kさんが話してくれた言葉》
・1人暮らしで普段家にいて、家からでることはほとんどない
・犬(盲導犬ではない)がいないと、外に出られない
・病院までは道を覚えているから、なんとか来ることができる
そして
ラジオを聴くだけで、他に生きがいなんかないよ

この言葉を聞いたとき、Kさんのことを全然わかっていなかった。ただやっかいな患者さんとしか思ってなかった自分が情けなくなりました。

Kさんは誰にも相談できず一人で苦しみをずっと抱えてきていたんです。

なんとかしてあげたい、でもどうしてあげたらよいかわからない。藁にもすがる思いで、以前勉強会で知り合っていた歩行訓練士のTさんに相談しました。

私とKさんを救ってくれた歩行訓練士のTさん


歩行訓練士のTさんに、Kさんのことを相談すると

「とりあえず、私のところに連れておいで」と。

行っても意味ない、見えるようになるわけやないと嫌がるKさんを説得してTさんの元へ。

そして数ケ月後。再びGPのバイトでKさんに会って一言目に言われたセリフがこちらです。

「なんでもっと早く教えてくれんかったんか!!」

俺は怒っとるんやぞって笑顔で。Kさんの表情はとても明るく、よく見ると白杖を片手にもっていました。そしてこう言ってくれたのです。

✅「白杖で歩行も自分でできるようになったし、今はパソコンを覚えるために頑張ってるよ」
✅「生きがいが見つかったよ。本当にありがとう」

私が情報提供を第一に考える理由

私がいつもロービジョンケアの話をするときには、Kさんとの出会いの話をします。

私が視能訓練士になって一番嬉しかった言葉は、自分が行った検査でも訓練でもなく情報を提供したこと。

以前の記事でも書いた

✅「必要な情報を必要とされる患者さんに届けてあげること」

それができるかできないかで、極端な言い方をすれば、

生きがいが見つかる患者さんもいれば、不幸になる患者さんもいる

ということです。

ロービジョンケアを極める(詳しくなる)のは、たしかに難しいです。ですが、患者さんに情報提供することは、自分から動けばそこまで難しいことではないでしょう。

必要な情報を必要と思われる患者さんに、ぜひ届けてあげて下さい。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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