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姫様はご乱心になられたのかえ?

これは遠い遠い昔のこと

遠方の地に日ノ本という島がございました
日ノ本では長い間戦乱が続き、はたまた異国から開国を迫られました
しかしある武人が破竹の勢いで日ノ本を平定、異国とも無事条約を結び開国をしたのでございました

そしてそれから100年の歳月が経ち、戦のない平和な世の中になった今日(こんにち)
そこからお話が始まるのでございます…


「姫…姫…」
「……」
「そろそろご機嫌を良くしてくだいませ」
「……うるさ」

姫は私の方に背を向け一向にこっちを向いてくれない

姫の教育係、そして御中臈(ごちゅうろう)という将軍様や姫様のお世話をする役職
それが私なのだが…

「姫…先程謝ったではないですか」
「遅刻は遅刻、許すわけないじゃん」
「遅刻と申されても…」
「へぇ〜いつもは5分前には来るのに今日は2分前…遅刻だよ」
「いや…あの…今日は会合がございました故…それに時間前には…」
「言い訳すんな!」

…姫は毎日このようなお姿なのだ
落ち込んだりちょっとのことで機嫌を悪くしたり怒ったり…
しかも私にだけこれだから始末が悪い

日ノ本の幕府第三代将軍様の御息女…

由依姫様

…これからの世に必要なお方なのだが…

由依 ねえ…○○
○○ はっ…なんでしょう
由依 今日は私が寝るまでここにいなよ
○○ ね、寝るまでで…ございますか…
由依 は?嫌なの?そうだよね…どうせ私なんてつまらないわがまま女だからね…
○○ い、いやそういうことではなく…
由依 いいよ、私はさ暗いし何もできないし…

また始まった…自分を否定しがちになる
しかし…今日は…

○○ 姫、わかりました、○○姫が寝るまでお傍にいます
由依 …本当に?
○○ はい、ただ御年寄様とお会いにならないといけません。なのでその時間だけ暇(いとま)をください
由依 御年寄とか…それなら仕方ないけど…

「…早く帰ってきてよね」

じっと私を見つめ寂しさが混じる表情を見せる
あんな顔されては…約束は守らないと

御年寄様との面会の時間になり姫の部屋を出ようと
するが

由依 …本当に行くの?
○○ 申し訳ございません、お約束してるもので…
由依 いつ帰ってくる?
○○ すぐ帰りますので
由依 すぐっていつ?

とにかくなかなか離してくれない…
何とか諌めて抜け出したがあの寂しそうな顔…
…今は急がねば


「それは大変でしたわね…○○さん」

上品にお茶をすする
品があり完璧な振る舞いをするこのお方

御年寄  菅井友香様

姫様お付き衆きっての権力者
姫様お付衆の一切を取り仕切り、将軍様の正室、側室の選定にも関与なされてる、この方がいなければ将軍家が滅ぶと言っても過言ではない

○○ はぁ…これが毎日でして…
友香 まあ…
○○ 私は姫様に何かしたのでしょうか…
友香 私が見る限り、あなたはよく働いてますよ
何の落ち度もありません
○○ ではなぜでしょう…
友香 そうね…あなたにだけそんな態度に出るのは…

「メンヘラね」

○○ は?今なんと?
友香:メンヘラです、西洋の言葉ね
○○:めんへら…それはどういう意味でございましょう?
友香:そうね…簡単にいうと感情の浮き沈みが激しく、心が不安定な状態で自己肯定感が低いため、常に不安な気持ちを抱えている…そんな感じかしら
○○:……心の病なのでしょうか?
友香:まあそうなりますね、心の病の一種でしょう
○○:まったくわかりませんでした…
友香:なかなか気づかない、もしくはそういう性格だと思いますからね、しかたありません
それにまだ我が日ノ本では心の病を治す医者や薬はありませんし

…病と聞いて合点はあった、姫の言動
医者や薬がないとしたら…

○○:…姫はずっとあのままなのですか?
友香:方法はありますが治すというより対処法ならありますよ?
○○:なんと…ぜひ教えてください

友香: 丁寧に優しく対応すること、 メンヘラな人は一度傷つくと感情的になって収拾がつかなくなることもあるからそうならないよう丁寧に優しく接することを心がけるといいわね

○○:なるほど…
友香: 反対意見も我慢せずに伝える、これも大事なこと…あとは相手の感情に振り回されない、○○さんはいつも姫様に振り回されてるからどっしりとね
○○:…かしこまりました…対処いたします

友香様の部屋を出た
…色々ご意見、御指南を受けたが私にできるだろうか?…めんへらという心の病を抱えているなら私でおすくいできるのだろうか?

姫の部屋の前に来た

○○:姫様…○○でございます…失礼…
○○:?!

部屋の襖を開け目の前に見えたのは…

鋭利な薙刀の刃

私の鼻先にほぼくっつき薄く鼻の皮が切れている

動けない…

由依:…遅い

もちろん薙刀を突きつけてるのは姫様

由依:早く帰ってきてって言ったよね?1時間と30分すぎてるんだけど?私より友香が大事なんだ?へぇー?私より大人で美人だもんね

明らかに感情が乱れている
怒気がはらんでる

…冷静になれ、友香様が御指南された通りに…

○○:姫、申し訳ありません…御年寄様に相談をしており長引いてしまいました
由依:へぇー…友香には相談ね…私にはしないくせにさ…頼りないか…私は
○○:違いますよ、姫のことで相談してたのです
由依:……私の事?

意外な答えだったのだろう
構えてた薙刀を下ろす

私は御指南通り、感情的にならず優しく問いかけていた

由依:…何の相談よ
○○:姫の事をもっと知るにはどうしたらいいかと友香様にお尋ねしておりました、男子故、女子(おなご)の気持ちがわかりませんで…
由依:…○○は私のこと知りたいんだ
○○:はい、もちろんです、お傍にいるのですから姫を知らないといけません
由依:ふ〜ん、そうなんだ

返事は素っ気ないが顔がニヤけてる

喜んでくれたのはいいが気になることがあった

○○:…姫、そのお姿はどうなされました?
由依:ん?○○が全然帰ってこないからむしゃくしゃして薙刀の練習しての
○○:いや…なぜ肌を露出して…待ってください、腕に切り傷が…こんなに…どの者がこんなことを、処罰せねば…
由依:待って、その者は悪くないから
○○:いやしかし…
由依:私が命令したんだよ
○○:命令?
由依:そう…

「○○帰ってこないから全身切られて楽になりたかったの」

笑顔でそういう姫
姫の無数の刀傷がありところどころ、赤いものが流れている

友香様が最後に言った言葉を思い出した

「自傷行為に走る傾向があるからきをつけて」

まさしくそうだった


姫様の手当は私がやった
処置をして包帯を巻く

由依:…変だよね私
○○:なにがですか?
由依:…○○のことになると感情がおさえられなくなる…不安な気持ちになるし…私がだめな女だから…
○○:姫は素敵なお方です、決してだめではありません
由依:…ほんとに言ってる?周りには私より綺麗な子いっぱいいるじゃん…友香とかあんたの部下の保乃とかさ…
○○:だからなんですか?
由依:え?
○○:私は…由依様しか見てません…お役目でお傍にいますが由依様しか見てません

こんなことはご法度だ
それはわかってる
だが…誠心誠意本心を語らねば

○○:私は姫様だけです
由依:ほんとに…?
○○:はい、もちろんです
由依:…私と一緒に死んでと言ったら死ぬる?私の○○だけになれる?
○○:…姫が望むなら

死という言葉に私は由依様の寂しさ、孤独さ、独占欲の強さを垣間見た
私は武人だ
忠義を尽くすなら死をも恐れない

それだけ…由依様を好きなんだろう

禁断の愛…

その夜は二人共にした
まさしく愛し合った
姫様の寂しさは深かった
何度も何度も求め、泣いていた



私は終始優しく対応した

その事で姫は変化していく


数ヶ月後
御年寄菅井友香様から姫と婚姻を結ぶよう言われる
いわゆる正室に…

そう…この日ノ本の将軍は皆女子なのだ

姫は私と婚姻したことで3代目の将軍様が隠居し
由依様が4代目将軍様となった

○○:上様おめでとうございます
由依:ねえ、2人きりの時は由依って言ってって言ったでしょ
○○:しかし…
由依:…また首絞めるよ?
○○:…勘弁してください…
由依:じゃあ言って?
○○:…由依
由依:よろしい…○○
○○:はい?

「将軍になってもあなたがいればなにもいらない…」
「…○○を傷つける奴は絶対許さない」

「…だから死ぬまで私を見てね?浮気したら…」

「…わかってるよね?…ふふ」


【完】


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