農業における虫の話。「それ以外」の虫とキトサン。

農業の話をすると、「虫」の話が出てくることが多いと思います。
「虫」と言っても、話題の中心となるのは、「害虫」という、野菜たちを食べる虫たちのことではないかと思います。一方で、その害虫たちを食べてくれる「益虫」の話も出てくると思います。

害虫も様々ですし、益虫も様々です。これについて述べている人は山ほどいると思うのですが、最近私は別の視点から、「それ以外の虫」が意外と重要なのではないか、と仮説を持っています。

私は有機農業をしているので、畑には実に大量の虫がいます。畑を歩けば、一歩進むごとに、無数の虫がぴょんぴょん跳ねるのが見えるくらいにいます。見えないところにももっといると思います。
この大半の虫はとくだん、野菜には何もしない虫です。野菜を食べたりもしないし、悪さもしないし、かといって害虫を食べたりするわけでもありません。けれども、この虫たちがひょっとしたら、土づくりや作物の栄養補給については重要な役割を果たしているのではなかろうか、という仮説を最近持ちました。

何かというと、「キトサン補給」という観点です。「キトサン補給」という点を考えたとき、この無数の虫たちが「畑という生態系」で果たす役割が実はかなり大きいのでは、ということに気付いたのです。

そもそも「キトサン」が何かというと、作物の成長を促進させる栄養素の一つとして最近注目されている栄養素のひとつです。キトサンには植物の病気を防いだり、蔓延を防いだりする効果があることが認められているそうです。
また、土壌中で良い働きをする微生物の一種である放線菌が好物としているらしい、という話もあり、入れておきたい肥料のひとつでもあります。
最近は、「キトサンなんとか」みたいな野菜向けの肥料や栄養剤みたいなものがずいぶん増えました。
また、キトサンの基になるキチンが豊富に含まれているカニガラを肥料として使う人も最近多いようです。

私も「キトサンなんとか」とかカニガラを使いたいなあと思っていろいろ調べたのですが、なんせ高級食材のカニが原料ですから、なかなか高額です。しかも「キトサンなんとか」みたいなのは有機JAS認証を取っているものがあまり無かったので、使用は断念しました。

で、虫の話に戻ります。
虫の身体が何でできているのか。カニガラと同じく、「キチン」でできています。つまり、カニガラみたいなものなのです。
虫の死体=カニガラなのです。巡り巡って、彼らも畑の肥料になるのです。

今となっては、畑に無数にいるダンゴムシやアリを見るたびに、「こいつら実質キトサンなんだよな」という言葉が脳裏を巡るくらいになりました。
害虫のカメムシやコガネムシなどを手で捕殺する時も、「これで今日もキトサン補給できたな」と思うくらいになってきました。

でも、虫は畑で育っているわけだし、畑にもともとあるキチンを補給して生きてるんじゃないの?と思う人もいるかもしれませんが、虫は体内の代謝機能で、キチン以外の物質を摂取しながら、キチンを生み出しているそうです。
なので、畑の虫が増えれば増えるほど、畑のキチンは増える一方、というわけです。で、そのキチンがキトサンになり、私の作物たちが栄えていくわけです。
なので、畑の雑草をある程度残しておいて、そこに虫の居所を作っておくことは意外と大事なのではないか、と、最近思う次第です。

私が今使っている畑は、10年以上は耕作放棄されていて、その前の10~20年くらいは牧草地として使っていた畑です。なので、あまり良い状態なわけは無いのですが、意外といいものが取れていますし、アスパラガスの生育も順調です。
それが何故なのか。
私のウデが良いからだと己惚れてもいいのですが。そうではなくて、なんとなくこの辺りのキトサン循環の話であったり、耕作放棄地ではあっても年に1~2回は草刈りはしていたことに理由があるのではないのかなと思っています。
牧草地だったので、表面の草は刈っても、根っこは残っているので、その分の有機物は補給されていたと思いますし、牧草の間に虫もいろいろ住んでいたと思うので、その虫の大量の死体から、キトサンもしっかり補給されていたのではないのかなと思うのです。

なので、耕作放棄地を畑に使うと、1年目はいいものが取れるけど2年目以降イマイチになる、というのも意外とこの辺りに理由のひとつがありそうだなあと思う次第です。
有機農業であれ、慣行農業であれ、ふつうは畑の中に雑草をなるべく生やさないようにして、虫の居所を減らしていくものです。しかも、殺虫剤を使えば虫はだいぶ死んでしまいますし、化学肥料中心の栽培では虫のエサになる有機物も畑の中に多くは存在しなくなります。
畑のキチンは虫がいないと自然には補給できないので、高いキトサン肥料を買うしかなくなるわけです。
キトサン肥料は必ずしも必須の栄養素ではないのですが、いれた方が良いらしい、となってきているものです。それが放っておいても補給されるのだったら、なかなかいい話ではあります。

巡り巡って、ただの虫たちが畑の肥やしになって、野菜になるのだなあと思うと、なんだかちょっと、ロマンを感じます。私だけかもしれませんが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?