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奥さま、幼なじみに焼きもちをやく

夫の実家への帰省で、楽しみにしていることがある。
それは夫の幼なじみのタケちゃん(仮名)と会うこと。

タケちゃんと夫は、同い年。お互いの家まで歩いて1分もかからなくて、小さなころから家族ぐるみの付き合いだという。

夫と話していると、事あるごとにタケちゃんの話題になる。
素潜りが得意で、潜るとなかなか上がってこないこと。手先が器用なこと、絵が上手なこと。まるで自分のことのように聞かされるから、結婚前に初めてタケちゃんに会ったとき、古くからの知り合いのような気がした。

そしてタケちゃんといる夫はとても穏やかで、いい顔をして笑うので、驚いた。わがままで、俺様タイプで、ピリピリ細かい夫がご機嫌だから。

タケちゃんがほんとに好きなんだな。
わたしには入りこめないふたりの時間があって、わたしの知らない夫を知るタケちゃんに、かすかにやきもちを焼いた。

でも、わたしもすぐにタケちゃんが好きになった。タケちゃんは物腰がやわらかく、誰に対しても礼儀正しい。のんびりとした口調でおもしろいことを言うから、人見知りのわたしでも不思議と「話しかけたくなる」ひとだった。

帰省するたびに3人でよく遊んだ。わたしが「2人で遊んでおいでよ」と遠慮しても「一緒に行こう。」となるのだ。

水着のまま家から歩いて海へ行く。浮き輪で波に揺られたり、きれいな黄色の魚が泳ぐのを覗いたりする。タケちゃんは漁業権を持っているので深いところまで潜りサザエを獲る。潜るとなかなか海面へ戻ってこなくて、ハラハラする。
ほかにも一緒に栃木の山を登ったり、自転車で走ったりした。

タケちゃんはいま地元を離れているが、わたしたちが帰省した日に会うことができた。

「おう、お久しぶりです」4年ぶりに会った彼は、変わらず若々しかった。「○○行ってみる?」「いいね」近況報告をしながら地元の神社や新しくできたスポットをめぐる。

相変わらずふたりは仲がよくて、久しぶりに穏やかな夫の姿を見た。

ふーん、そんなふうに笑うんだ。そんなふうに優しいんだ。
おかしいな、付き合いたてのころはわたしにもそんな顔をして、いつだってお姫さま扱いしてたのに。

わたしといるときと、タケちゃんといるときの、夫のこの違いはなんだろう。むくむくと興味がわいて、ふたりの様子をこっそり観察した。


タケちゃんはわたしがお城の撮影をしていると、はぐれないように振り返って待ってくれる。ちなみに夫はずんずん進む。

それに助手席に乗って夫の運転をさりげなくサポートする。
ルートを迷っていると「道路状況を見てみようか。」とさりげなくチェック。「〇〇まで混んでるけど、そのあとは空いてるみたい。」「じゃあこのまま行こう。」

その動作の、なんとスマートなこと。
機械音痴で気の利かないわたしは、こういうときモタモタしてしまう。

「早く調べて!」「まって、今調べてるから」「あーあ、もう通り過ぎちゃったよ。」「何のためにタブレット持ってるの?」「…じゃあもう、タブレットいらない!」
恥ずかしい話だが、かーっとムキになる自分の姿が目に浮かぶ。

なるほど。相手の気持ちをつねに先回りして行動する。ちょっとした気遣いが大事なんだよなあ。結婚して11年。子どももおらず、ふたりきりで長く過ごし、あまりに近すぎて、見えなくなっているものがあるらしい。


タケちゃんといるときの夫はうれしそうで、ぜんぶ信頼してるって感じで、その姿が悔しいけれど、好きだ。

ああタケちゃんに完敗、乾杯。

でもね。わたしも。
いいヒントをいただいたと、タケちゃんに感謝している。

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