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Commonplace(30首)


揺れながら手垢まみれにされていく沿線を眺めていると着く



上体を下手に起こしてつまらない夢の続きもあきらめている



忘れない朝にまばらなホームから繋がった居酒屋のWi-Fiよ



ブラウスが風のかたちへ戻される一瞬をともなってあなたに



重力に押しつぶされるようにして建つビルだから信頼できる



いたるところ同じ苗字の一帯をすこし外れて市バスは動く



右肩にまどろんでいるあなたから彼方へ工場群ゆるやかに



さんずいを含む地名がそうさせるやや錆びついたかもめのオブジェ



窮屈な道をこぼれる野良猫にありふれた二人を見てもらう



奥行きのひとつひとつが海になるあいだ言葉は裏拍みたい



近づけばいっそう遠くなる春の波はひなたの残像だから



振り向いて自然に写るいくつかの過去にあなたの名前をつける



いつまでも昭和のままで強そうな子の絵と子供飛び出し注意



よろこんで駆けていく子らいっしんに先へ先へと影を伸ばして



見切られた都市計画の片隅を脈打つドバト・キジバト・ドバト



就活に終活もある公共団地こうだんの掲示もちろん終活の勝ち



死ぬまでにひらかれていく距離としてさわるイチリンソウの花びら



ほんのりと日暮れを告げるメロディが最後まで半音ずれていた



対岸をはるかに灯す街並みのどの家が消えてもわからない



ありがとう降りだしてから思い出す昼のあなたが持ってきた傘



はるさめの束を分ければ東から西へひとしく降る春の雨



ほら 簡単に永遠とか言うから 湯どうふ浮かび始めちゃった



鳴るまでは光の時間、こくこくと注がれていくジンジャーエール



女の子が女の子みたいに話す古くて新しい街 映画の



くろぐろと揺れる緑地をどこまでもどこまでも追いかけて白い月



空論のない砂上には楼閣がふらついてそれはそれで危ない



かけ違うボタンを胸に残しつつ握る手は姉妹都市のちからで



受け入れるためのからだを横たえて二基のテトラポットは静か



そこにいるはずのあなたも隠されてしまう通りを降る花の名に





しゃぼん玉とんだ その日いくつもの目がそれを見て順番に忘れた

/暇野鈴「Commonplace」


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