省略した話①息子の預け先

 ここnoteに何度か書いているように、私には重度知的障害のある息子がいる。弟が自死してしまった際、最も大変だったことはこの息子の預け先を確保することであった。結論から申し上げると、葬儀の日、預け先の確保はできなかった。

 夫は非常に忙しい職業に従事している。具体的には申し上げないが、平日はもちろん土日祝も関係なく働き、全く仕事のない日は月1~2回といったところだ。慢性的な人手不足が生じている職種でもあるので、なかなか休めない。私と息子が新型コロナウィルスに感染した際、年度末だったということもあり、(もちろん私や息子の心配もしてくれたが)自宅待機しつつ非常に仕事のことを心配していた。
 そんな激務な夫が最も忙しいのは年度末そして、10・11月である。(特に11月は毎週末毎に出張が入っていた)

 そして、私の弟が亡くなってしまったのも11月である。

 当初、弟の葬儀は金曜日に執り行われる予定だったが、日曜日に延びてしまった。その理由は、火葬場が混んでいたからである。
 車中で自死してしまった弟の遺体は検案を受けなければならず、検案後に発行される死体検案書というものがなくては火葬場の予約ができない。その検案書発行前に葬儀屋さんから火葬場が金曜日に取れそうだと言われたため、私はすっかり金曜日に葬儀ができると思ってしまったのだ。
(よかった、日曜日の出張と重ならない)
と安心したのは事実だ。
 しかし、いざ死体検案書が発行され、火葬場を抑えようとしたところ、すでに金曜日は埋まってしまい、日曜日にならということになった。

 (日曜日は夫の出張がある……どうしよう……)
 と困った私は、3か所の福祉施設に息子を預かってくれないかと連絡をしたものの、2か所からは11月は混んでいる時期で埋まっていると断られてしまった。残りの1か所からは、強い口調でこのように言われてしまった。
「お父さんに頑張って頂きたいんですけど!!!」
 
いきなり電話を受け、困っているから息子を預かって欲しいと言われ、施設側も困惑したことだろう。しかし、私の息子はこの施設の一時ケアはもう10回程度は利用しているし、一時ケアの担当職員さんは障害児者親の会にかつて所属していた人なので分かってくれるものと思い込んでしまっていた。一応、障害児の一時ケアは行政の制度なのだが、人様を当てにした自分が馬鹿だった……とこの時は深く反省した。

 預かり先が見つからなかった私は、葬儀に息子も連れて行くことを夫に話した。息子は衝動性が強く、超がつく多動、それに加えて重度知的障害があるので、できれば弟とゆっくりお別れをしたい私としては連れて行きたくなかったのだが、仕方ない。
 結局、夫が職場の管理職に相談し、別の職員が出張に行くということになり、葬儀には息子を連れて行かずに済んだ。葬儀後、出張を代わってくれた職員へお礼として地元のお土産を買い、クタクタで夫と息子の待つ自宅へと帰宅した。

 葬儀に出席するということさえ、障害のある子をもつ親にとっては困難なことだ。今8歳になる息子は、いざという時に備えてショートステイを経験し始めたところだ。
 生きている限り、誰かとお別れするという場面は避けて通れない。近い将来とは思いたくないが、今回の教訓を生かして、次回はもっと慌てずに誰かを送る準備をしたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?