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「好き」が重なり合う空間~ジャニーズ大好き女子がサポーターになるまで~

「けんちゃんって本当にサッカー好きだよね」

彼女が呆れたような顔と諦めたような口調で言う。

今でこそぼくと一緒にNACK5スタジアム大宮の手すりをつかみながらぴょんぴょんと飛び跳ねている彼女だが、付き合い始めた頃は全くサッカーに興味がなかった。

週末のデート先にスタジアムを提示し続けるぼく。せっかく週末に彼女の家に行ってもDAZNと2時間にらめっこし、ときたま奇声を上げるぼく。彼女の心がぼくから離れ始めていることをはっきりと感じ始めていた、付き合い始めて最初の春。

とはいえ、アルディージャは大事だ。ぼくは物心ついた頃から20年来のアルディージャサポーター。ホームもアウェイも行ける限りは現地に足を運び応援し続けてきた。

彼女に「私とアルディージャ、どっちが大事なの?」と聞かれていたら、間違いなく答えに窮してしまったことだろう。

アルディージャも大好き。彼女も大好き。どちらか一方が欠けてもこの先のぼくの人生はひどく退屈なものになってしまう。選べるわけなんてないじゃないか。

とはいえ、このままでは彼女の心は冷めきってしまう。さてどうしたものだろう。

ぼくが悩みぬいた末に導き出した最適解は

「彼女をサッカー沼に引きずりこむ」

であった。

そんな彼女がサッカーにハマっていく過程は書籍『~サッカー旅を食べ尽くせ~すたすたぐるぐる埼玉編』に詳しく書かせていただいた。

今回の記事は、言うなれば『すたすたぐるぐる』のエピソード0。どうやってサッカーに興味がなかった彼女に「スタジアムに行ってみたい」と言わしめたか。そのことについて書いてみた。

既に『すたすたぐるぐる』をお読みいただいた皆さんは、なぜかエピソード4から公開された映画『スター・ウォーズ』シリーズのように楽しんでもらえればと思う。

まだお読みいただいていない皆さんは、この記事を読んだうえで書籍の記事をお読みいただきたい。きっとJリーグサポーターであることがこのうえなく誇らしくなってくるはずだ。

そうは言ったものの、どうアプローチすればよいのだろうか。

ぼくは自分と彼女が共通して好きなものを思い浮かべた。グルメ、お酒、野球、ファッション、音楽、旅行......

いろいろなものが浮かんだが、そのうちの一つが「ジャニーズ」であった。

ぼくも彼女もジャニーズは大好き。振り返ってみれば、最初に仲良くなったきっかけも共通の知人がセットした飲み会でジャニーズについて熱く語り合ったことだった。

それぞれ特に好きなグループやそれぞれのグループでの担当は異なっていたものの、ジャニーズ好きが高じてそれぞれが好きなグループのライブや大みそかに行われるジャニーズカウントダウンに二人で行くなどしていた。

これだ!

ぼくは前々から、ジャニーズファンとJリーグサポーターには少なからず重なり合う部分があると感じていた。

三度の飯とシーソーゲームを演じられるくらいジャニーズが大好きな彼女をサッカー沼に引きずり込むためには、このジャニーズファンとJリーグサポーターの共通点を言語化してアプローチするのが良い。ぼくはそう考えた。

共通点①さまざまな推し方がある

「Jリーグサポーター」と一口に言っても、クラブ全体が好きな人もいれば、特定の選手を追いかけているような人もいる。また、特定の贔屓クラブを持たずにさまざまなチームを見ているという人もいる。

ぼくの知り合いのアルディージャサポーターで、現在はVファーレン長崎に期限付き移籍している笠原昂史選手の大ファンだという女性がいる。

笠原選手は2018年に水戸ホーリーホックから加入。しばらくは正ゴールキーパーとして試合に出続けていたが、2020年の途中に怪我をしてしまったことをきっかけに、レギュラーの座を失ってしまった。

「クリャイッチはあそこですぐにパンチングしてしまうのがダメなのよ。笠原さんならきっと......」

試合終わりに飲みに行くと必ず、笠原選手に代わって出場機会を得たフィリップ・クリャイッチのプレーについて指摘する女性。

どう考えても敗因はゴールキーパーではないだろうという日でも、必ずクリャイッチ選手の課題を発見し指摘する様はもはや愛ゆえに厳しく接する名GKコーチのようだった。

同じようにアルディージャを応援し、同じ空間で同じ試合を観ていたとしても、その見え方は人それぞれなのだ。

チームの勝敗と同じかそれ以上に、贔屓にしている選手の活躍を願っているサポーターもいる。サポーターの世界は複雑怪奇である。

そして、これはジャニーズファンも全く同じなのだ。「箱推し」といってグループ全体を応援する人もいれば、特定の一人だけを応援する「単推し」もいる。

そもそもこの「箱推し」「単推し」という言葉。今でこそJリーグサポーターも一般的に使用しているが、これを一番最初に使いだしたのはジャニーズファンの界隈だ。

ちなみにぼくはサッカーに関してはどちらかというと「箱推し」、ジャニーズに関しては「単推し」に近いスタンスだと自覚している。

ぼくはアルディージャの選手の中でも背番号24番のDF西村慧祐選手を特に応援している。そんなことは考えたくもないが、西村選手が他のクラブに移籍したとしても彼のことは追いかけ続けるだろう。(赤き血のイレブンにでもなろうものなら流石に考えさせてもらいたいが)

実際アルディージャ在籍中に特に応援していた、ジュビロ磐田の黒川淳史選手や名古屋グランパスの河面旺成選手のことは元彼の如く今でも気にかけているし、特に出場機会を多く得ている黒川選手のジュビロの試合は毎週のようにDAZNで視聴している。

とはいえ、ぼくがジュビロやグランパスのサポーターになることはない。アルディージャがジュビロやグランパスと試合をすることがあれば、迷わずアルディージャを応援する。将来西村が敵としてアルディージャに立ち向かうことになったとしたら、試合の前後に拍手は送りつつも試合中はアルディージャを全力でサポートする。そういう意味では「西村担のアルディージャ推し」というのが正確な立ち位置なのだろう。

一方でジャニーズに関してはグループ全体を丸ごと推すという感覚はあまり持ち合わせていない。

好きなアイドルがいて、それを目当てに番組を見たり配信を見たりライブに行ったりすることはある。しかしそれはあくまでもその個人を応援する目的であり、グループそのものに対して愛着を持つという感覚は今一つピンとこない。

一方で、グループそれ自体に愛着を持ち応援する「箱推し」のジャニーズファンも決して少なくはない。

そうした人たちに話を聞くと、グループのコンセプトやメンバー全体の統率されたダンス、メンバー同士の絡みに魅力を感じているようだ。

サポーターの世界と同様に、ジャニーズファンの世界にも絶対的な正解などない。たった一人だけを推そうが、クラブ(グループ)全体を推そうが、複数のクラブ(グループ)を推そうが、それは個人の権利。

自分とは違う楽しみ方をしている人を批判するような人もいるが、他人にとやかく言われる筋合いの話ではないのだ。

ジャニーズと一緒で、サッカーにもいろいろな楽しみ方があるんだよ。ぼくだってオフサイドの定義すら正確に理解していないけど、それでもこうやって毎週末スタジアムに足を運んで楽しめてる。だから一度行ってみようよ。

彼女がサッカー沼に第一歩を踏み入れたのがハッキリと見えた。

共通点②表情が似ている

ぼくがJリーグサポーターとジャニーズファンは似ていると最初に感じたのは、スタジアムにいる人々とライブ会場にいる人々の表情がよく似ていると思ったからだ。

彼女と一緒にスタジアムに通うようになってしばらく経ち「スタジアムにいるときのけんちゃんは普段よりも良い顔をしている」と言われたことがある。

最初はピンと来なかったが、褒められて悪い気持ちはしない。その言葉がやけに脳裏にこびりつき、しばらくそれについて考えていた。

数日考えてようやく合点がいった。なんだ、当たり前の話じゃないか。サッカーのスタジアムもジャニーズのライブ会場も、そこにはいくつもの「好き」が重なり合っている。

大好きな人と一緒に入場し、グッズやグルメを買い求める。会場内を歩くと自分たち以外にも同じ「好き」を持った仲間がたくさんいて、試合やライブが始まると目の前にいる推しに向かって思い思いに声援を送る。

胸がときめかないはずがない。人間は嬉しければ嬉しいほど、表情が活き活きとする生き物だ。そして活き活きとした表情の人々は例外なく魅力的だ。

こうした人々に出会うことができ、また自分自身もそうした表情になれる場所。みんなの「好き」が重なり合う場所こそがスタジアムであり、ライブ会場なのだ。

家と職場・学校を往復しているだけではこうした表情の人にはほとんど出会えない。Jリーグサポーターもジャニーズファンも単なる観客ではなく、場の魅力を構成する大事な一員なのだ。

ぼくはスタジアムやライブ会場で出会った見ず知らずの人と雑談するのが好きだ。彼女も元来そういうのは嫌いではないはずなのだが、なにかと人見知りをする部分があるのでぼくが声をかけてこちらに引き込むような形になることが多い。

同じ「好き」で繋がった者同士の会話ほどしていて楽しいものはない。他の人が「好き」について語っている様子はとても微笑ましいし、自分自身の「好き」について良さを共有できる人に披露するほど至福の時もなかなかない。

そんな相手と出会えることは人生において本当に貴重で素晴らしいことだ。そしてぼくの経験上、同じ「好き」で繋がった人とは大抵馬が合う。

もちろん思想信条や宗教観について話したら、全く反りが合わない可能性も十分に考えられる。しかし、わざわざそんな話をする必要なんてない。お互いの「好き」がとめどなく溢れ出てくるのだから。

スタジアムやライブ会場に行けば、きっとそうした人たちと出会うことができる。生涯の友を見つけられるかもしれない。だからスタジアムに行ってみようよ。

彼女はもう両足どっぷりサッカー沼に浸かっていた。

最後に

誰かを「好き」になる行為は、日々の生活に活力を与えてくれる。

サッカー選手やアイドルだけにとどまらない。隣にいるパートナーや気の合う友人だってそうだ。将来こどもを授かることができれば、当然こどもも「好き」の対象になるだろう。

そして「好き」になられた側も、人から好かれることが人生の支えとなる。ぼくも彼女や両親、地域の先輩方や気の合う仲間がぼくのことを「好き」でいてくれて応援してくれるから、つらいときも苦しいときも頑張ることができている。

そういう意味では、やはりJリーグのサポーターとして活動することとジャニーズのファンとして活動することは、非常に親和性が高いのではないかと思う。

是非この文章を最後までお読みいただいたJリーグサポーターの方々は、ジャニーズにも興味を持ってみてほしい。また、周囲にジャニーズファンがいればこの記事を見せてスタジアムに誘い出してみてほしい。

ぼくが彼女をサッカー沼に引きずりこんだように。

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