見出し画像

自民党員じゃないけど、総裁選について考えた

自民党総裁選がいよいよ告示となった。河野太郎氏、岸田文雄氏、高市早苗氏、野田聖子氏の4人が立候補している。

僕は自民党員ではないし、特定の候補を積極的に応援しているわけでもない。とはいえ事実上我が国の総理大臣を決める選挙。当然のことながら一国民として関心はある。今回は地方政治に携わろうとする若者の視点から、それぞれの候補者の発信している政策を見比べていきたい。総裁選について考察したうえで日本政治の今後についても展望してみた。お読みいただいている中で投票資格をお持ちの方がどれほどいらっしゃるか分からないが、自民党員でない方も総裁選に関する報道などを見る際の一つの参考になれば幸いである。

過剰な対立候補叩きはマイナスでしかない

まず大前提として申し上げておきたいのは、誰になろうと良くも悪くもドラスティックな変革は起こりえないということだ。誰が当選者となろうと組閣や党人事、国会人事は同じメンバーリストの中からしか選べないし、霞が関の官僚がガラッと入れ替わるわけでもないからだ。また、自民党は部会、政調会、総務会と手続きを踏まなければ党としての正式決定にはならない仕組みになっており、総裁が言ったからといってそれがそのまま実現されるわけではない。どの候補者を応援するのも批判するのも自由だが、この前提はしっかりと共有しておくべきだ。

様々な論点で非常にレベルの高い論戦が行われているが、特に明確な違いが見られるのはエネルギーと年金についてだと感じている。各種世論調査によればコロナ対策や経済対策についての議論を期待している国民が多いようであるが、あまりその議論が盛り上がっているようには見えない。やはりそこで違いを見せるのは難しいのだろう。誰がやってもおおよそ同じ解が導き出されるテーマだ。これは賢明な選択だと思う。

エネルギー政策

河野氏が「核燃料サイクル」の見直しを打ち出したのは驚いた。核燃料サイクルとは、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再び原発の燃料とする政策である。

いまだにこれをやっているのは中国、ロシア、インドくらいのもので、アメリカをはじめとする大半の先進国は既にこれを見直している。日本でも高速増殖炉もんじゅが事故を連発し廃止されるなどしているなかで、もはや核燃料サイクルにこだわる必要はないと僕は思っている。

しかし岸田氏は維持しなければならないと明言。高市氏も小型炉や核融合炉の開発推進を掲げているのでおそらく維持すべきとの考えだろう。所管の経産省も推進の姿勢を崩していない。役所というのは一度決めた方針を抜本的に見直すことができない。巨額の予算をすでに投じてしまっている案件ならなおさらだ。これを軌道修正できるのはやはり政治しかない。そういう意味でも政権与党である自民党の総裁を決める過程で核燃料サイクルが議題となることはものすごく大きな意義がある。僕は見直すべきだという立場だが、どのような議論がなされるか非常に楽しみだ。

年金問題

河野氏が提起したのは核燃料サイクルだけではない。「最低保障年金」を俎上に載せたのも非常にポイントが高いと思っている。

最低保障年金とはなにか。今の日本には公的年金だけでは暮らしていくことができない高齢者が相当数存在している。自業自得だと言って切り捨てるのは簡単だが、これを放置していたら社会が根底から崩れてしまう。そこで、収入がなく保険料を払ってこなかった人でも相当額の年金を受け取れるようにしようというのが最低保障年金だ。

「老後2000万円問題」というのは皆さんも記憶に新しいだろう。95歳まで生きたければ2000万円用意しなければならないという試算を金融庁がまとめた。年金制度の欠陥を国が認めたことを意味するこの報告書だが、麻生財務大臣はこれを受け取らなかった。自ら調査を命じておきながら都合が悪い結果が出ると受け取らずに蓋をしてしまう。僕も当時この麻生氏の対応にはひどく憤った記憶がある。健康診断は身体の異常を早期に発見し治療する目的で行われる。悪い数値から目を背けていては、気づいたときには手遅れになってしまいかねない。

われわれ若年層は政府の「100年安心」という言葉を全く信用していない。確かに年金制度そのものは100年安心なのかもしれないが、いざもらう側になったときにそれだけで暮らしていけるほどの支給が受けられるのか不安だという声は同世代からも多く耳にする。いくら年金制度が100年先まで安心だと胸を張られても、年金生活者が安心でなければ公的年金はその役割を果たしているとは言えないだろう。

そんな現状を考えた時、最低保障年金は一つの突破口なのではないかと思う。もちろん実現には様々な壁がある。財源はどうするのか、不公平感はどう解消するのか。

とはいえ、2000万円問題が示すように年金の問題は今解決しなければ取り返しのつかないことになる。この河野氏の提案をきっかけにして、総裁選で踏み込んだ議論がなされることを期待したい。最低保障年金の創設に反対の候補者がいるのならば、どうやって無年金者や低年金者を救済していくのか具体的な対案を聞かせてほしい。年金問題に強い関心のある若年層はかなり多いだけに、大いに論議がなされることを期待する。

河野太郎氏が信頼に足る理由

エネルギーと年金。これまで書いてきたように今まさに重大な分岐に直面している分野だ。次の総理のかじ取りひとつで我が国の未来は大きく変わる。そのようなテーマを逃げることなくしっかりと議題にし、自らの立場を明らかにしている河野氏は信頼に足る政治家ではないかと僕は感じはじめている。その結果として他の候補者、とりわけ高市氏を支持する保守派からの攻撃対象となってしまっているが、こういう難しい問題を棚上げすることなく持ち出してくる姿勢は政治家として極めて誠実だ。自民党という政党はこうした問題を先送りにしてお茶を濁す印象が強かったので、これは自民党の党風そのものを一新してくれるのではないかと期待せずにはいられない。

エネルギーも年金も国論を二分するテーマだ。万人が納得するような答えがない分野であり、取り組めば確実に敵を増やす。しかし早晩国政の最大の課題になることは間違いないこともまた事実であり、バックキャスティング思考で未来を先取った改革を行おうとする姿は改革保守を自認する僕も非常に近しいものを感じる。

自民党の層の厚さを感じる

とはいえ、他の3候補がダメだと言いたいわけではない。冒頭で述べたように自民党は民主的な政党だ。総裁の一存ですべてが決まるわけではない。仮に河野太郎政権が誕生したとしても、他の3候補が力を発揮する場面は必ず出てくる。

まずは岸田氏であるが、岸田氏が外務大臣や政調会長を歴任して培ってきた人脈や政策力は必要不可欠なものだ。加えて岸田派に所属する議員は政策通が多い。彼らの力は政権運営に当たって欠かせない。

続いて高市氏。河野氏、岸田氏、野田氏とわりあい「リベラル」と評価されることの多い候補者の中にあって、保守のイデオロギーを体現しているのが高市氏だ。高市氏は経済安全保障やサイバーセキュリティなどの分野への理解も深い。いずれもこれから非常に大事になってくるテーマであり、高市氏の見識や氏を慕う保守系議員の協力も政権運営には欠かせないピースだろう。

そして4候補の中で最も子ども政策に力を入れているのが野田氏だろう。自民党に欠けているチルドレンファーストや多様性の尊重などといった要素の強い方。改めて自民党は懐が深い。

野党こそビジョンを示せ

こうしたハイレベルな論戦が繰り広げられている一方で野党から聞こえてくるのは、自民党総裁選ばかりを取り上げて野党の動向を報道しないメディアへの恨み節ばかり。本当に情けない。自分たちのことを取り上げてほしいのならそれに足る発信をするべきだ。メディアは良くも悪くも商売。ニュースバリューのある発信をすればメディアはしっかり取り上げる。意図的に自民党ばかり露出させているのではなく、野党の側にニュースバリューがないのだ。

野党第一党である立憲民主党の「政権とってこれをやる」という発表を見ても、先ほど述べたようなエネルギーや年金などの重要課題については全く書かれていない。本来は政権の座についていない野党こそがそうしたビジョンを示すべきなのだ。政府与党はどうしても目先の予算編成に追われて単年主義に走りがちな傾向がある。だからこそ野党が未来を見据えた壮大なビジョンを示すことで、議論を活性化させるべきなのだ。

総裁選を見ると河野氏が見事にその役割を果たしてしまっている。立憲民主党よりもよっぽど自民党政治の問題点を的確に指摘し議論をリードしている。思い返せば安倍政権の時代は石破茂氏がその役割を務めていた。民主党から自民党に政権が戻って以降の政治を見ると、もはや自民党以外の政党は必要なのかと考えてしまうことがある。

僕は絶対に必要だと思っている。日本の衆議院は小選挙区制。有権者は地元の代表を1人しか国会に送り込むことができない。そのような制度下で自民党一党独裁のようになってしまったら、選挙が意味をなさなくなってしまう。選挙が意味をなさなくなれば、自民党はどんどんと緩んでいく。河合夫妻に秋元司氏と自民党の現職国会議員が3人も逮捕されているのはその前兆だろう。野党がしっかりしている時代なら、現職代議士が3人逮捕されれば下野確定である。オセロゲームで常に下野のプレッシャーがあることによって緊張感のある政治が実現するということで導入されたのが小選挙区制だったはずだ。しかし現実を見るとむしろ小選挙区こそが政治腐敗を促進していると断じざるを得ない。

野党の中でも国民民主党や日本維新の会などはしっかりビジョンを示して政策を発信しているが、政党の規模が小さいこともあってなかなかメディアに取り上げられていない。次の総選挙ではそういった建設的な野党を伸ばすことが必要であると改めて感じる。しかし小選挙区では野党第二党以下はどうしても埋没しやすい。共産党が立憲民主党に抱きついて離れないのもそのためだ。やはり小選挙区が日本の政治を劣化させている。


一部の野党支持者は自民党が民主主義を破壊しているかの如く発信しているが、結局のところ日本の政党で党内民主主義が最も適切に働いているのは自民党なのだ。質の高い総裁選が行われ、民主的に決まった総裁のもとに一致結束をする。総裁も独裁的な党運営に走ることなく、しっかり所属議員の意見をくみ上げる。委員長が20年間変わらない政党や決まったことに従わず離合集散を繰り返す政党よりも、よっぽど民主的な政党だと思う。今回の総裁選のレベルの高さとそれを巡る野党の反応を見て、僕は改めて自民党の強さを認識した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?