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なぜさいたまダービーはここまで盛り上がるのか~その答えは市議会にあった~

さいたまダービー。それはわれわれ大宮で暮らす者にとって特別な意味を持つ。これは単なるサッカーの試合ではない。街のプライドと誇りをかけた「戦争」なのだ。

とはいえ本当に浦和の街に向けてミサイルを打ち込むわけにもいかない。浦和にも良き友人はたくさん住んでいるし、お気に入りの鰻屋もある。なにより浦和が麻痺すれば、大宮から東京に出るのに川越か春日部を経由しなければならなくなる。著しく不便だ。そして浦和の反撃によって大宮の被害も甚大になることだろう。大宮と浦和の間に位置する与野は、日清戦争時の朝鮮半島よろしく激戦地となるに違いない。与野には行きつけのラーメン屋があるので、それはなんとしても避けたい。

「スポーツと政治は切り離すべきだ」という言説をときどき耳にするが、これは建前に過ぎないと思う。もちろんヒートアップしすぎてサポーターや選手、あるいは一般市民に危害が及ぶようなことは絶対にあってはならない。一方でサッカーが国や都市、地域や階層を背負った選手同士が勝敗を争うという性質を帯びている以上、様々な対立軸の代理戦争と化してしまうことは避けがたい宿命である。

これは一方的に悪いことではない。なぜなら、対立軸が強固であればあるほどその試合が盛り上がるからだ。さいたまダービーの特徴として、普段はサッカーにあまり関心のないそれぞれの街の住民を巻き込めることが挙げられる。アルディージャやレッズには特段の思い入れがなくても、暮らしている大宮や浦和の街に対して愛着を持っている人は当然のことながら多い。アルディージャが名古屋グランパスやベガルタ仙台と試合をすると聞いて、大宮への愛や敵地への憎悪の感情を抱く住民はほとんどいないだろう。それは大宮の街が名古屋や仙台の街となんの因縁もないからだ。一方でひとたび相手が浦和レッズとなると、サッカーに関心のない人までもが一緒になって「浦和にだけは負けるな」となるのである。

どんなに低調な内容だろうと勝利すれば選手を大歓声で出迎える。どんなに内容が良くても敗れれば容赦ないブーイングや罵声が飛ぶ。浦和に勝利したら勝ち点が倍もらえるわけではない。敗れたら即刻降格となるわけでもない。それでも僕らは、浦和相手となると尋常ではない熱量でチームを鼓舞する。リーグ戦の順位でアルディージャがレッズを上回ったのはわずかに一度。大きく水をあけられている状況だが、ダービーの対戦成績に限れば大宮側から見て9勝12敗7分とかなり善戦している。僕は長年NACK5スタジアムに足を運んでいるが、ダービーのときのNACKは雰囲気がまるで違う。あの雰囲気が選手たちに伝播し力となっているのだろう。

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さいたまダービーのど真ん中という環境で育ったこともあり、ダービーはそういったものなのだと勝手に思っていた。しかし全国のダービー事情をそれぞれのサポーターに聞いてみると、どうやらそうでもないようだ。

実は大宮と浦和のように地域間対立を背景としているいわば「本物」のダービーは全国でも極めて少ない。さいたま以外でそう言えるのは、松本山雅FCとAC長野パルセイロによる信州ダービーくらいであろう。埼玉均衡を見渡してもFC東京と川崎フロンターレによる「多摩川クラシコ」や、東京ヴェルディとFC町田ゼルビアによる「東京クラシック」など様々なダービーマッチがあるが、プロモーション的な要素が強く地域間の代理戦争とは言い難い。

フロンターレがあまりにも強すぎてFC東京のサポーターが逆恨みをしている可能性はありそうだが、調布や狛江に住むFC東京サポーターが川の向こうの川崎に敵意をむき出しにしているとは考えにくい。各クラブが注目度を上げるために行っている施策を否定するつもりは毛頭ないが、それだけさいたまダービーという天然物のダービーが貴重だということである。

大宮と浦和の対立については、以前にOWL magazineでも触れたことがある。

https://note.com/orangenavy/n/n73a5ed32b87f

この記事の中にもあるように、旧浦和市長は合併時の約束を破ってさいたま市長選挙に出馬し初代さいたま市長の座についた。僕はこの相川前市長の振る舞いがさいたまダービーにおける一番の燃料になっているのではないかと思っている。有料部分ではさいたま市がいかに旧浦和市域を溺愛してきたか、全国の読者に皆様に告げ口しようと思う。

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