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【超短編小説】お返し断捨離

 またこの日が訪れた。月日を巡るのが、年を経るごとに早まっていく。等しい時間を生きているはずなのに、自分だけが他人の何倍もの速さで人生をすり減らしているようだ。

 いつか貰ったバレンタインの幸せを、僕は忘れることができない。未だ眩しさを保って、瞼の裏に投影される温もりのある日々が凍てつき荒んだ虚空の心を浸潤する。

 それはどれだけ遠く離れていこうが、記憶が薄れようが、身体が動かなくなろうが、ずっとついて離れない。だからこそ、10年前の今日の後悔も忘れられない。

 一日くらいずれたって。病室の君を忘れて仕事に行った愚かな私。弥生の青空に抱かれて逝った君の首に、お返しにと不器用ながらに編んだマフラーは巻けず、お返しにと不慣れながら書いた手紙を読むこともできなかった。

 あのホワイトデーから10年の今日。しまい込んでいたマフラーと手紙を私は抱いている。私の後悔の断捨離と、君へのお返しを渡すために、君のいた部屋に火をつけて。
(410文字)


【あとがき的な】
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