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【超短編小説】三日月ファストパス

 本を読む君の、その閉じかけた瞳にかかる黒い煌めきを遠くから眺める午後4時40分。吹奏楽部の演奏だけが反響して聞こえてくる校内。その端に追いやられた静かな図書室で一人小説を読む僕がいる。

 9月の残暑で君も僕もまだ半袖で、本をめくると同時に長い黒髪をかき上げる君の動作が小説に集中させてくれない。僕が読んでいるのは、ありきたりな恋愛小説。最近映画化したとかなんとかで人気が出ているものらしい。

 だから尚更意識してしまう。文字を追うふりして覗く君の俯き加減な黒い瞳。三日月のような美しい弧を描いた目の表情が、まさに小説のヒロインのようだった。

「私、気づいてるよ?」

声にハッとして思わず上を向くと、彼女が立っていた。本の内容に集中し始めた時のことで、全く物音が聞こえなかった。

「えっ……」
「私と同じクラスでしょ! いつもここにいるよね」
「いやぁ……」
「せっかくだしさ、一緒に帰る? あと、読み終わったらそれ、私に貸してよ」

僕は想像よりも早く、彼女に近づいた。
(426字)


【あとがき的な】
うーーーーーーーーーん……なんとかひねり出しました……
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