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【超短編小説】桜回線

 酔いしれる、桜の匂いに、ふと巡る。またこの時季が訪れた。煌めく提灯春色の、夜空にひらりと落ちていく、薄桃色が手のひらに。

 ふと見上げ、欠けた三日月から満ちた、遠くより鳴く月明り。花びらと、ぼんやりとした赤橙の、僅かな隙間より差して、再び落ちる花弁を透かす。

 広がったブルーシートの不調和が、そこら中に点在する。群雄割拠の合戦を、勝ち抜いてきた者がプカプカと、その海上で飲んだくれ。充満していた鬱憤が、火照る体から蒸発する。

 僕もまた、そのうちの一人。片手に持った缶ビール。空になった売店の焼きそばのプラが虚しくて、少しばかり俯いた。

 明日からはまた日常と、時計が見せた午後10時。そろそろお開きなんという、周りの声が続々と、僕を日々へと押し戻す。

 じゃあ、来年。そうして僕らも開けてく。桜のように散っていく。また今度と、去っていく。たった一度、この時だけに紡がれる。桜の紡ぐ回線が、明日へ明日へと解けてく。
(404文字)


【あとがき的な】
今回は5・7・5のようなリズムをとって書いてみました。
ところで、404って……
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