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【超短編小説】鏡の中のプリンセス

 僕の家には鏡がある。そしてその鏡の中にはプリンセスがいる。プリンセスと言っても、それは自分にとってのプリンセスで、きっとみんなが思っているプリンセスとはかけ離れている。だってこのプリンセスは映画で見るようなドレスは着ていない。普通の女性という感じの服装だからだ。

 プリンセスは決まって、僕が鏡の前までやってくると現れる。いつもご機嫌な顔で僕を見てくる。その度に思う。僕とは全然違う。プリンセスは髪が長くてツヤツヤしている。それから色も白くて、目鼻立ちもくっきりで、唇は艶やかだ。本当に、全然違う。

 そんなある日、いつものように鏡の前に立ったが、プリンセスは現れなかった。現れたのは僕。そのまま鏡に映った僕だった。久しぶりに映った自分の顔をまじまじと見てみる。髪はパサパサで、目は憧れられるようなものではなく、血色の悪いカサついた唇が乗っかった凹凸のある肌。

 そして比べてしまった。あのプリンセスと自分とでは全くレベルが違う。釣り合いが取れない、それどころか隣にすら並んでいてはいけないと思えてしまった。僕はどうやっても、彼女のような美しさを誰かに見せることはできないのか。

 数時間経って、僕は再び鏡の前に立った。そこにはいつも通り、プリンセスが立っていた。鏡の中でしか生きられない、もう一人の僕というプリンセスが、ジッと僕を見つめている。しかしその眼の奥には、黙ったままの、醜い僕が消えずにいた。そして虚像の姫は、静かに白い涙を流していた。


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