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大人になってからのマックグリドル

「酢豚にパイナップルはアリかナシか。」

この論争は僕が生まれる遥か前から続いている。多分。
僕のしてはナシだ。特に小さい時は大ナシだった。
それが料理のアクセントのためだろうと、おかずにフルーツを入れることは僕にとってタブーである。そのビジュアルにどうしても拒否感があり、たとえ美味しかったとしても、ビジュアルバイアスによって口に運ぶことさえ躊躇われる。口に入れたとて、昆虫食を食べさせられた時のように味わう以前に嗚咽してしまうような感じになるだろう。

パイナップル入り酢豚の歴史は長く、400年前に中国の広東で生まれたらしい。それが日本に輸入し、現在に至る。僕と同様に「料理にフルーツが入ってるのはちょっと。。」と思う日本人が多いため、日本ではパイナップル入り酢豚は減ってきているらしい。
日本の食文化ではフルーツ入り料理はあまり馴染みが無く、好き好んで食べる人は少数派なのかもしれない。

最近は街から不味い飲食店が減った。これはインターネットのおかげで美味しい店を見つけやすくなり、不味い店は避けられるようになった。
もはや飲食店は美味しいことが前提で、賛否両論を生むフルーツ入り料理が淘汰されるのは当然と言えば当然である。

そんな中、定番メニューとして未だに生き残っている奴がいる。しかもあのマクドナルドでだ。
そう、マックグリドル。
フルーツ入り料理とは違くない?と思うかもしれないが、メイプル入りパンケーキのバンズで、しょっぱウマなソーセージやエッグを挟んでいるのだ。ビジュアルだけなら、ただのハンバーガーとそこまで違いを感じないが、内訳を並べたらパイナップル入り酢豚と同類だ。
その内訳を知らずに発売当初に一度食べてしまったことがある。
興味本位か、母に注文を間違われたか忘れたが、一度食べてしまった。
そして強烈に記憶に残っている。食べ残したからだ。僕はよっぽどのことが無い限り食べ残しはしない。(食への感謝が3割、貧乏性が7割という構成で食べ残しはしないというポリシーを築いている。)特に小学生の時のマクドナルドなんてご馳走だ。ポリシーを引き裂かれ、ご馳走を台無しにされた記憶が何十年も消えずに残り続けていた。

しかし、最近そんなマックグリドルに興味が湧いてきたのだった。
それは毎週聴いているTBSラジオ「空気階段の踊り場」で鈴木もぐらさんが「マックグリドル!」と叫んでいたからだ。
ラジオ内のダイエット企画があり、そのラストスパートの時だった。もぐらさんはダイエット後に食べたい料理を呪文のように連発していて、その中に出てきた一つがマックグリドルだった。
「ダイエット後にまず食べたいものの中にマックグリドルだと?」
「そんなに美味しいのか?」
「やっぱ大人になってから食べると美味しかったりするのか?」
色んな疑問と好奇心が浮かんだ。
そこで改めてマックグリドルを食べてみたいと思った。マックグリドルがまずいのか、若さ故の舌の未熟さによるものだったのか、バイアスを超えた先に何があるのかを確かめたくなった。昔は「美味いor不味い」しか無かった価値観も今は多少拡がり、「不味いけど、前ほどでは無い」「新食感だ」「懐かしい」「いい思い出になった」など、ネガティブだけではない感想を持つことができるかもしれないし、味に対する感想に縛られない新たな発見もあるかもしれない。だから昔ほどのダメージを喰らわないだろう。再チャレンジする価値は充分にあると思った。

そんなタイミングで改装工事で一時閉店していた近所のマクドナルドが再オープンした。
改装工事中に他店舗に行くことはなく、約半年マクドナルドを食べていなかった。そんな久々のマクドナルドで定番メニューではなく、マックグリドル。こんな痺れる状況でマックグリドルには大きなプレッシャーかもしれないが、かつて裏切られた奴との再会にはぴったりなシチュエーションだ。

久々のマクドナルドで、さらに久々のマックグリドル。そこへ向かう時の心情描写こそがここに記すべきことなのかもしれないが、残念ながら特に書くことが思いつかないので、早速結論から言うと、美味しかった。
大人になった今だからこそ美味しいのかもな、とも思った。例えるならレーズンサンドと近い。昔はその美味しさがよく分からなかったが、クリームチーズにレーズンの甘味が程よくマッチしたあの感じが、今食べると死ぬほど美味しい。お酒のツマミにもなるような、いわゆる大人の味的なポジションだ。
でも朝にしてはちょっと濃いなとも思った。マフィン系のバーガーと比べて塩味の強さを感じた。恐らくメイプル入りパンケーキのバンズの甘味が他の具材の塩味を引き立て、濃く感じるのだろう。(そう思うとなぜ朝マックで長年人気なのか疑問になってくる。夜マックだろと。そして夜マックにするなら酒も出せ。マックグリドルは酒のツマミだ。)

大人になって久々に食べたマックグリドルだったが、大人になってからこそ出逢い直すべきものだった。
子供の時の経験や価値観に引きずられて、嫌いだったものをそのまま嫌いだと思い込んでしまっているものは他にもあるだろう。
歳を重ねるごとに自分のアンテナへの信頼度が強固になっていく。凝り固まっていく。だからこそ出逢い直すのは難しい。
今の流行を全て受け入れる必要はないが、自分を疑う目を常に忍ばせながら好奇心を持ち続けることで、マックグリドルのように出逢い直す機会が再び訪れるだろう。


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