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逃走劇⑤イベント出店

当日の朝、会場の下見のために7時半に会場入りした。
入ってすぐフードブースの確認をして、何が足りないかをリストアップする必要があった。
そこにあったのは炊飯器、ホットプレート、製氷器だけだった。
それ以外、何もなかった。
もちろん、冷蔵庫も。

オープン5時間前に知らされた事実。
仕込んできたものをどう保管するか、調理工程はどうするか、どのように提供するか、持ってきているものだけで勝負できるのか。

焦った。
でも、1人でやり切るしかねえ。っていうのを
直感し、一瞬で気持ちをスイッチした。
保存するためのタッパーや出店に必要なものも
もっと必要だ。
そういうのを考えていると、気づいた頃には
今まであった焦りが全部興奮に変わっていた。
これを1人でやるんだ。と、ゾクゾクした。
追い込まれるほど興奮するような性格でよかったよ、この時ばかりは。
なんだかんだ、カナダ留学でも社会人1年目も何もかも上手くやってきたじゃないかっていう経験から来る自信がそこにはあった。
ドンキホーテ、100均、慣れない街でGoogle MAPを駆使して車で走りまくった。


全部揃えた頃には残り1時間半。。
12時半オープン、間に合うんかこれ?!
みたいな。
「フードを楽しみに来るお客さんも結構いるらしい」なんて前情報ももらっていて、緊張感は最高潮。
今までの知識と経験を引き出して、頭をフルに使ってなんとか準備を間に合わせた。
多分あのときは完全にゾーンに入っていて、仕込みは3つくらいずつを並行して終わらせた記憶がある。
70人くらいの集客見込みだったから、
150食分くらいを想定して準備をしていた。


迎えた12:30、開幕。
お客さんの「もう、頼んでもいいですか?」

この一言で突然開店した。
正直、人生で1番緊張した。

1人来るとまた1人、2人と人が並び、
ふと顔を上げるとそこには長い列ができていた。
調理、提供、キャッシャーを1人でやってたもんだから、それはもうバカみたいに忙しくて…
でも同時に凄く興奮していた。
途中、前回一緒に写真に写っていた友人がキャッシャー業務を手伝ってくれて、めちゃくちゃ助かった。
彼が優秀すぎて、少し心にも余裕ができた。
そのおかげで少しイベントのパフォーマンスを見ることもできてなんとか落ち着けた。

スケジュール的には18:30 終了予定だったかな?
でもフードは18時頃に来たお客さんによって
これまた突然閉幕する。

「あと何が何食余ってるの?全部買うわ!」
このイベントで4回目の注文をしてくれたお客さんだ。
この小さいコミュニティの中で何回も頼んでくれるお客さんがたくさんいて、本当に嬉しかった。
「これ美味い!」とか
「これどこの国の料理?!」とかそーゆう言葉が飛び交っていて、それがなにより嬉しかった。

無事完売
売るものがなくなって、終わった。
本当は演者の方々皆に最後なんか作ろうと思ってたんだけど、そんなことさせてもらえなかった。
こんな終わり方は想定外だった。

ゾーンから抜けるともう、どっと疲れが来て
まさに抜け殻であった。
興奮冷め止まぬまま、ノンアルで打ち上げに参加してそのまま札幌に帰った。
そう、次の日も昼から仕事だったからだ。

500円と800円のものを売って、
当初の予定の損益分岐点30000円を超えればいいかなって思ってた。
蓋を開ければ売上83000円くらいだったかな。
レンタカー代、ガソリン代、食材原価、手伝ってもらった友だち、泊めてくれた友だちへの謝礼を引いてちょっとプラスだったはず。

お金どうこうより、他人に対して自分が作ったものを売るっていう経験をさせてくれた親友には
一生の恩がある。
手伝ってくれた友人、知らないやつを二つ返事で家に泊めてくれた友人にも本当に感謝している。
この経験が、自分で店を持っても成功するのではないかという可能性の幅を広げてくれたのである。

商売をする楽しさ、
料理を使って自分を表現する面白さ、
人を喜ばせる嬉しさ。
この感情は何にも変え難いものである。と。
これを書いている今も、当時のことを思い出して興奮している。

最高の函館遠征だった。
こうして飲食業にどっぷり浸かった25歳。


帰ってきて1ヶ月後、今度はコロナが始まった。

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