[過去原稿アーカイヴ]Vol.12 ジョン・スペンサー・インタビュー(1996年)
ジョン・スペンサー1996年のインタビュー。アルバム『Now I Got Worry』のリリース時のもの。掲載は『ミュージック・ライフ』誌。
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https://note.com/onojima/m/m1f1bcef5c6a3
君はジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの新譜を聴いたか?
本誌編集ヒグチは「今イチ、ピンとこないんですよね〜」などとボケをかましているが、俺に言わせりゃこのアルバムに狂わないヤツの方がどうかしているのだ。
ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの新作『ナウ・アイ・ガット・ワリー』は、前作『オレンジ』以上の作品であるばかりか、今年度のベスト1の有力候補をパンテラの『鎌首』と争う大傑作なのである(パンテラの代わりに、各自、今年一番好きなアルバムのタイトルに置き換えてください)。
パンクである。ブルースである。ヒップホップである。ファンクである。そしてなにより、ロックンロールである。ロックンロールの持つ危うさ、美しさ、デタラメさ、力強さ……すべてを兼ね備えているのだ。聴けば聴くほど、そのストレートなパワーとエネルギー、その都度表情を変えるカメレオンのような自在なセンスと音楽的語彙の豊穣さに、圧倒されてしまう。きっと本来ロックンロールとは、このように混沌として、しかし何かとてつもない未来を予感させてくれるものだったに違いない……と、ひとり俺は納得しているのだ。ともかく聴いてくれ。損はさせない。
●久々にロックンロールらしいアルバムを聞きましたよ。
「おお、サンキュー」
●制作にあたって、そういう意識はあったんですか。
「ああ、たぶんあったんだと思う。ふつう、俺たちは事前に考えとくみたいなことはしないんだけどさ……うん、今回は……やっぱりレコーディングに取りかかってからではあるんだけど、どこかの時点でそういう方向性が見えて、意識してたような気がするな。そこに気づいてからは、さらに強調してね。もっと生々しく、もっとロックに……てね。俺たちの場合、曲作りもレコーディングもそうなんだけど、とにかく考えるより先にやっちまえって感じなんだよ。だから大抵のことは無意識のうちにそうなってるだけでさ、あとになって振り返って“ふむ……これはけっこうロックしてるな”とかさ(笑)。ただ、今回のレコードにもっとも影響してるのは、R.L.バーンサイドというブルース・ミュージシャンとの付き合いだと思う。彼とはツアーも一緒にやったし、少しは実際に共演る機会もあった。彼や彼のバンドの演奏を見てると、すごくルーズなんたけど、めちゃくちゃロックなんだよ。その影響は実に大きかったと思うね。……ま、それもあとから気づいたことなんだけどさ」
●考えていないだけに、その時の自分がそのまま反映されてるとも言えますね。
「ああ、そうだね」
●出身地も年齢も肌の色も違う彼の、どこに共感するんですか。
「なんだろうな……エネルギーかな。ああいうプリミティヴな……ああいう人たちはさ、クダクダ言う前にとりあえず一発やっちゃうだろう。独特なビートやグルーヴがあるんだ」
●わかります。来日時のインタヴューで、「今後自分たちのサウンドは、よりシンプルになっていくだろう」と言ってましたね。
「フフフ……」
●覚えてます?
「いやあ……いつの話だったかなあ(笑)。ま、その時の俺が何を考えて何を求めていたにしろ、このアルバムを作っていた時の俺の気持ちがそれと同じとは限らないしさ。だから……どうかな。君はその言葉通りシンプルになったと思ったの?」
●そう思いますよ。あなたも、シンプルなものを追求したいという気持ちには変わりないんでしょう?
「うん……そうだね。シンプルな方がいいことは確かだ」
●シンプリシティを突き詰めていくと、最後には何が残るんでしょうか。
「たぶんリズムじゃないの? 少なくともこのバンドに関しては、ギターやら何やらいろんな音が鳴っているとはいえ、結局はどれもひとつのリズムを強調しているに過ぎない。ギターもドラムも、同じビートを刻んでるのさ」
●ふうむ。ところで、あなたはなぜギターを選んだんですか。
「しばらく別のバンドでベースを弾いてたことがあるんだけどさ……プッシー・ガロアより前の、俺の初めてのバンドなんだけどね。その一方で、また別のバンドではドラムを叩いててさ。当時の俺は60年代のガレージ・パンクにのめり込んでてさ、そのうち自分のバンドを始めたくなって……うーん……たぶんそのためにはギターが一番手っとり早いと思ったんじゃないかな。60年代のガレージ・パンクって言ったら、ほんとにプリミティヴでシンプルで飾り気がなくて……これなら俺にも出来るって思った」
●つまり、シンプルなものの凝縮がリズムであるという考えで、あなりの音楽人生は一貫してるわけですね。
「そうだね。名前は忘れたけど、ジェイムス・ブラウンのバンドのギタリストが言ってたよ。“俺はギターをドラムのように弾く”ってね。あれはクールな発言だと思ったよ。深いというか」
●あなたを音楽に向かわせる最大のモチベーションはなんです。
「うーん……」
●以前と変わってきましたか。
「いや、同じだと思う。今でこそ小金は稼げるようになったけど、別にお金が欲しいわけでもないし……結局、音楽をやっていれば幸せだし、俺は何よりプレイすることが好きだってことかな」
●キャリアを積んで、ミュージシャンとしてのスキルやセオリーを身につけても、変わらぬ気持ちで音楽に望めるもんですか。
「ああ。そりゃ、最初のバンドは10年ぐらい前の話だからさ、その時とまったく同じモチベーションってわけにはいかないけど。あの時は、ただプレイしてるだけで面白かったから。プッシー・ガロアのころは怒りとフラストレーションがモチベーションだった。そのフラストレーションは、自分のやってる音楽そのものが原因だったりしてた。でも今は音楽が楽しくて仕方ない。だから、いつでも音楽が感情の捌け口になってるって点で、昔とは全然変わりない。今度のアルバムは、これまで以上にパーソナルでエモーショナルな作品になってるかもしれないが……うん、俺はとにかく、プレイすることが何より楽しいってことだ、要は」
●でも、今のあなたは初心者じゃない。自分の感情を表現できるスキルを身につけてる。
「いや、今だって俺はギターの奏法なんてロクにわかっちゃいないさ(笑)。だけど、それがパンクの神髄なんだぜ。レッスンを受ける必要なんかない、“正しいやり方”なんていらない、好きなことを好きなようにやればいい。俺もそうやって表現の術を模索してきたからね」
●パンクの神髄のもうひとつは、オリジナルであれ、ということですね。あなた自身の言葉ですが、社会に適合しないような特異なキャラクターや、まったく突拍子もない本質を持った人間が、ロックンロールの歴史を作ってきた、と。
「ああ」
●あなた自身はどうなんですか。そういう不適合者のひとりなのか、そうありたいと願う常識人なのか。
「たまに、我なから不器用な人間だと思うことは確かにある。一般社会に馴染まない人間だと感じることもある。言葉で説明したり表現したりすることになると、特にそう思う。だから……(笑)ロックンロール・バンドでプレイするという手段があって良かったと思う。口で説明できないことも表現できるからね」
●ヒップホップについてお聞きします。あなたはパブリック・エネミーやアイス・キューブのような、ボム・スクワッドが作るヒップホップ・サウンドが好きだと言っていましたね。最近、ああいう音をぎっしりと詰め込んだようなトラックは下火で、もっとゆったりとしたロウ・ビーツが主流になってますね。
「そうだね。新しいものはあまり聴いてない。最近のヒップホップは、どうも好きになれないね。もちろ今でもラップ/ヒップホップは大好きだけど、以前ほど熱心じゃない。ランDMC、ジャングル・ブラザーズ、EPMD、NWA……俺の好きなのはいわゆるハードコアってやつでさ」
●わかります。そういうヒップホップにあなたは大きな影響を受けたわけですね。
「ああ。曲の構成なんか特にそうだよ。ギターの弾き方とかもさ。ギターがノイズを出すとこなんか、明らかにヒップホップの影響だね。レコードのミックスのやり方、プロデュース、サウンド作りのアイディアとか、とにかくいろんな面でね」
●たとえば? サンプリングのやり方とか?
「いや……俺自身はあまりサンプリングは使ってないし、使いたくもない。別にサンプリングに異論があるわけじゃないが……そうだね、たとえば、俺たちの曲は非常に繰り返しが多いだろう。つまり一種のループなんだけど、それはヒップホップの影響と言えるだろうね。もちろん、それ以前にジェイムス・ブラウンでもあるんだけど……たとえばパブリック・エネミーとか、どこにどんな音を入れてもOK、みたいな自由な構成にはすごく影響された。どこで曲を切って繋いでも流れが途絶えないというか……脈絡なくノイズやブレイクが入ってきて、それが延々とループされてさ(注・これはまさにボム・スクワッド流の音作り)。ああいう曲作りって、ブロックを積み重ねて家を作っていくような感じだろう。そういう部分には影響されたよ。“キャント・ストップでやってるような“throw your hands in the air"なんてのは、ラップ・ミュージックから来てるし" 2カインザ・ラヴ”のドラムも音もそうだ……一度ブレイクして、いったん壁にぶつかったような感じで、跳ね返ってきたものは、また別の何かに変わっているっていう……」
●よくわかりますよ。でも、あなたの一般的なイメージは、ブルースという、どうにも時代遅れな音楽を酔狂にもやっている、ということで。
「(笑)確かに」
●ところが、そういうあなたのやっている音楽が、今一番クールな音楽として持てはやされてる。
「(笑)ああ。異論はないよ。抵抗するつもりもない」
●自覚があるわけですか?
「いや……そういう状況に関心がないんだ。俺は俺で好きにやってるだけでさ、周囲のことには関心ないし。そういう意味で自分は思い悩んだことなんか一回もないよ」
●クールな存在でありたい、と思ったことはありますか。
「プッシー・ガロアはそういうとこがあったかも知れない。でも、ブルース・エクスプロージョンに関しては、新しいことをやらなければならない、とか新しいロック・ミュージックのスタイルを生み出そう、なんて全然思わない。やってて楽しいこと、それが基本だよ」
●ブルースとまったく関係ない音楽をやろうと思ったことはありますか。たとえばテクノとか……。
「……そんなことするぐらいなら、死んだ方がマシだよ(笑)」
●そりやそうですね。ところで、ルーファス・トーマスが参加してるんですね。
「そうなんだよ。“チキン・ドッグ”って曲で」
●“ウォーキング・ザ・ドッグ”と“ファンキー・チキン”を合わせたタイトルですか(注・どちらもルーファス・トーマスの代表的なヒット曲)。
「そうそう。だからルーファス・トーマスに声をかけたんだ。そしたら彼は来てくれて、歌ってくれたわけ」
●ああ、曲が先にあったんですか。
「そう」
●以前からの知り合いだったとか?
「いや全然。ルーファス・トーマスに参加してもらったことだって、別に事前に計画してたことじゃないわけ。たまたまメンフィスでレコーディングしてたもんだから。……あの曲、“チキン・ドッグ”って曲は結構古い曲でね、かれこれ1年ぐらいライヴで演奏してたかなあ。ただ、それまではインストで歌詞がついてなくてさ、タイトルだけは“チキン・ドッグ”って名をつけたから、“じゃあルーファス・トーマスを呼ぼうか”って話になって。ただの思いつきだったんだけど、メンフィスのスタジオのスタッフがめちゃいい人でさ。“ぜひ呼んだらいい”って彼の連絡先を教えてくれたんだ。ほんと、ルーファスは最高だったね。とにかく俺たちのレコーディングに来てくれただけでも最高に光栄だった。とにかく興奮したね」
●彼のレコーディング時の様子は?
「吠えたり、叫んだり。うん、好きにやってたよ。俺たちも、彼には自由にやってもらいたかったから。まぁ、それはどんなゲストを迎えても同じだけどね。こっちからは大雑把なイメージしか話しないで、あとはみんなの好き勝手にやってもらう」
●マニー・マークやAdROCKのケースも?
「そう。ビースティ・ボーイズのことはよく知ってたし、アメリカではツアーのサポートもやったことがあったから、その関係で知り合いだった。マークに関しては、彼の音楽のスタイルに俺たちもすごく感心してたし、ビースティ・ボーイズでの仕事も、ソロ・レコードもすごく気に入ってたんだ。マークの方でも俺たちに興味を持っててくれたから、この共演は両方が望んで実現したもんなんだよ」
●やはり、曲が先にあって?
「うん。ただ、マニー・マークの場合は、ルーファス・トーマスやAdROCKの時のように、突然思いたってその日に電話するみたいな、思いつきじゃない。マニー・マークだけはあらかじめ共演することを決めてた。ビースティのツアーの時から,いつか一緒にやろうって話をしてたから」
●あなたは、ただ楽しむためのバンドをやってる,ということですが、ポリティカルな発言などに関心はないんですか。
「興味ないね。もしポリティカルな曲を書いたとして、その時はリアリティがあっても、何年かしたらそんな政治問題なんか存在もしないかも知れない、と思うわけで。世の中どんどん変わってるんだよ。俺はむしろ、時代を問わない、誰にでも共感できるようなことを歌にしていきたい。恋愛でもいいし、いろんな感情とか……単純に、日々の生活でもいいよ。こんなこと言うとただのエゴイストみたいだけど、俺は結局自分のことが一番気になるんだよ。そんなにポリティカルなことに関心があるなら、政治家にでもなればいいわけでさ。バンドでプレイする目的は、また別の話だよ。どんなにポリティカルなバンドでも、ライヴともなれば観客が求めるのはロックンロール、そのクレイジーさ加減じゃないか? こないだレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンのライヴを見たけど、4千人ぐらい集まってるのに、みんな男ばかりでさ。それも20歳前後のごっつい奴ばかり。女性なんかほとんどいなかった。それが飛んだり跳ねたりモッシュしあってるだけでさ。レイジ・アケンスト・ザ・マシーンはポリティカルな音楽をやってるわけだけど、ああいう雰囲気の中じゃどんなメッセージも頭の上を通りすぎちゃうよ。単なるマッチョなロック・ショウって感じでさ。でも、ロック・ショウなんてそんなもんだよ。ポリティカルなメッセージを伝える手段になんか、なりっこない。もちろんレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンの連中はすごく真面目だし、自分たちの信じることを一生懸命伝えようとしてることは、俺だってわかるよ。でもオーディエンスの側が、揃いも揃って頭の中身がカラッポの野郎ばかりだろ。殴り合い、ぶつかりあい、欲求不満をすっかり解消して家に帰って終わりだよ。それが何かを感じてくれれば結構だが、残念ながらそうではないらしい」
●ところで、アルバム・タイトルによればあなたは不安を抱えてるということですが。
「ああ、俺は年中心配ばかりしてるよ」
●ほう。
「そうさ。俺はけっこう……神経質な方だからさ。うん、不安は一杯ある」
●今はなにが不安なんですか。
「うーん……今はたぶんバンド絡みのことだよ。このレコードが出るってことで、いろいろビジネス面でやらなきゃいけないことが多くてさ。でも、ふだんは俺個人のことで思い悩んでるね。その方がずっと深刻だよ」
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