[映画評]「バニシング・ポイント 4Kデジタルリマスター版」(1971年 リチャード・C・サラフィアン監督)

シネマート新宿にて鑑賞。

 同作は中坊の時に見て以来、いついかなる時に選んでも生涯のベスト5映画に入るほど思い入れのある作品で、あれこれ語り出すとキリがない。レーザーディスク→DVD→Blu-rayと何十回となく見返しているので、今更見たところで何も新しい発見などないのはわかりきっているが、それでも劇場の大画面で見るのは久しぶりだし、もしかしたら人生最後の劇場での鑑賞になるかもしれない、と思って見た。

 なぜこの映画が好きなのかと言えばやっぱり主人公への思い入れというか感情移入でしょうね。セリフがほとんどなく、過去の回想場面みたいなのはあるが、今現在なにを考え、どんな行動原理で動いているのか、想像するしかない。その余白の多さが、観客の思い入れを可能にする。道中、主人公がまともに会話を交わすのは砂漠の老人とヒッピー(バイカー)のカップル、実際には一度も会ってないスーパー・ソウルだけ。みな70年代初頭のアメリカ社会では時代に乗り遅れ、あるいははみ出してしまった者たち。主人公と同じように群れからはぐれ孤立している。老人が蛇を交換するジーザスフリークの集団はかつて楽観的なユートピア幻想を振りまいていたヒッピーの成れの果てだ。白人しかいない保守的な街にいる唯一の黒人であるスーパーソウルは白人たちに叩きのめされ、主人公との繋がりを断たれてしまった。カウンターカルチャーの敗北が誰の目にも明らかとなった時代の空虚感と無力感。ラブ&ピースの華やかさも連帯と団結の熱気も去り、取り残された負け犬たちの寄る辺ない孤独の念と、追い詰められ行き場がなくなった心情に、なぜだか思春期のオレは同化してしまったのだ。主人公が自爆する場面はいつも息が詰まりそうになる。あの頃は主人公が死ぬ映画が多かったし、そういう映画ばかりみていたし、またそういう映画しか好きになれなかった。ハッピーエンドの映画なんて全部嘘っぱちだと思ってた。そんなガキの心を射抜いたのが「バニシング・ポイント」であり「青春の蹉跌」であり「仁義の墓場」なのだった。 だからこの映画が「カーアクション映画」と一言で片付けられがちなのには、ちょっと違和感がある。ボビー・ギレスピーあたりが熱中したのはまたそれとも違ってこの映画のドラッギーな部分だと思うけど。

 監督も、主演俳優も、「バニシング・ポイント」以外にこれといった代表作がない。脇のキャストもほぼ無名の人ばかり。なんだかこの作品だけがどことも繋がることなく映画史の中でポツンと孤立しているようで、それがまたオレの愛着を強めるのだった。

劇場で売っていたパンフ。異様に詳細で深掘りな内容に配給会社担当者の熱意を感じる。ボリュームがすごくてまだ全部読めてないが、これで1200円なら大オトク。映画見なくてもこれだけ買いに行ってもいいぐらい充実の内容ですね。

 ところで4Kリマスターと言いつつ、見たのは2K上映。ちょろっと調べたら4K版を上映できる劇場自体が少ないみたい。なので画質に関してはUHDブルーレイが出るまで評価保留にしておきます。音に関してはかなりの大音量で、非常に気持ちよかったです。たぶん当時の公開ではここまで大きく良い音で聴けなかったはず。

 「バニシング・ポイント」の映像を全編に使ったオーディオスレイヴのPV。

  ガンズ&ローゼズのメンバーが結成したキング・オブ・カオスのPVも「バニシング・ポイント」のオマージュ。


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