[オーディオ]2022 東京インターナショナル・オーディオショウ @ 東京国際フォーラム (10/29)

 2日目に行ってきました。純粋に客としてこういうオーディオショウのたぐいに足を運んだのはずいぶん久しぶりです。30社以上の内外のオーディオメイカーや輸入代理店が小さな個室ごとに分かれて機器のデモンストレーションをやる。発売中の現行製品はもちろん、輸入されたばかりでまだ市場に出回ってない機種、開発中の参考品などがずらりと並ぶ。いわゆるプロがスタジオで使うようなプロ用機器は対象外ですし、イヤフォンやヘッドフォンなどポータブル・オーディオは別の催しがある。ビギナー向けのエントリー商品なども取り扱っておらず、いわゆるハイエンドと言われる高級機種が中心の催しですが、ここに来ればふだんなら聴く機会もなかなかない高額オーディオを開発技術者の解説付きで触ったり聴いたりでき、現在のコンシューマー・オーディオの最前線が一通りわかる。しかも入場無料だからオーディオ・ファンにとってはこんなに楽しいイベントはない。とはいえ出店料もそれなりの額になるでしょうから、規模の小さなガレージメイカーなどは出店していません。

 オーディオは好きですし、それなりにオーディオセットにお金や手間暇をかけています。レコード評やライヴ評などで音質や音響について言及するのもいわゆる音楽ライター/音楽評論家としては多い方だと思いますが、特に耳に自信があるわけではありませんし、人より数多くの機器の音を聴いた経験があるわけでもありません。いわゆる音に関するプロの人は自分なりの音質の基準、物差しみたいなものをしっかり持っていて、音を聴けばその機器の音質やサウンドカラーについてしっかり判断・言及できるのだと思いますが、私の場合、初見のアンプなりスピーカーなりを単体でいきなり聴いても、その音質について的確に判断する自信はあまりない。その代わりいくつもの機器を横並べで聴き比べれば、その違いはかろうじてわかる、というぐらいの耳しか持ち合わせていません。よくマニアはスピーカーのセッティングをミリ単位で調整して音を追い込んでいく、なんて話を聴きますが、そんな繊細な耳は持ってませんw しかしこうしてさまざまなメーカーのさまざまな機種を立て続けに聴くと、それなりにメーカーごとの個性やキャラクターがだんだんわかってきて面白い。

以下印象に残ったもの

アイレックスのブースで聴いた総額5千万円のアナログ・オーディオのシステム。FB友達のオーディオ評論家・山本浩司さんの解説で聴く。アナログとは思えない解像度の高い音で、まさしくハイエンド中のハイエンド。ベルトドライブとアイドラードライブを切り替えられるというマニアックな趣向のレコードプレイヤーが面白かった。音はアイドラーの方が良かったですね。南佳孝の1982年作品なんてのも聴いて、そのゴージャスな音にイケイケだった80年代日本を実感したり。イタリア製のスピーカーのサイズが巨大で、お金にも住居スペースにも余裕のある富裕層向け。山本さんは石川さゆりの「天城越え」をかけていて、確かに凄みのある音だったけど、こういう曲は場末のカウンターだけの小さな居酒屋でラジオで聴くのがいいんじゃないのかなー、という昭和な気分も。

アッカのブースで聴いたYGアコースティックのスピーカー。とりわけ2日前に日本に入ってきたばかりでまだエージングも済んでないというCAIRNというコンパクト・サイズのブックシェルフ・スピーカーの印象は鮮烈だった。


 ウチの狭いデスクトップにもちんまりと収まりそうなサイズながら、スケールの大きな、切れ味のいいクリアな音で素晴らしい。ローもびっくりするぐらい出ている。思わず係の人に使いこなしなどあれこれ質問してしまった。でも価格はペアで168万円だってさ(笑)。こんな円安でなければもう少しリーズナブルな価格だったんだろうが、このためにお金を貯めようか、という気にはなった。その後に同社のSonja 2.2i というハイエンド・スピーカーを聴き、確かに素晴らしい音だったけど、1200万以上という価格を考えればまあこんなもんかという感じ。

  それにしてもたとえば首都圏に不動産を買えば数千万以上かかってもそんなものだと思ってしまうでしょうが、クルマでは1000万超えるだけでもものすごい高級車ですよね。不動産ならたとえ数千万でも一生に一度の大きな買い物として決断できても、クルマに1000万を出せる人はそんなに多いとは思えない。同様に、クルマの予算で168万とかいったらちょっと高級な軽自動車が買えるぐらいで、カローラですら買えない。全然贅沢でもなんでもないのに、オーディオで168万というと(普通の庶民には)ものすごい高額な買い物のような気がする。まして1200万のスピーカーなんて高嶺の花もいいところですが、しかしそういうものがある程度売れているからハイエンド・オーディオ業界は成り立っている。オーディオの場合不動産やクルマのような実用性も投機性もないただの趣味、道楽ですから、それにお金をさけるかどうかは、まさにその人の価値観、趣味嗜好による。人の金銭感覚とは面白いものです。

太陽インターナショナルのブースで聴いた超高額ネットワーク・オーディオ・システム。500万円超のウルトラハイエンドなネットワーク・トランスポートと、dCSの超高額DAC、AVALONの2000万円超のトップエンドスピーカーという鉄壁のシステムはさすがに立派な音だったが、そのシステムで聴いたThe Weekndは全然面白くなかった。色気も猥雑さも感じないし、四つ打ちのダンス・ナンバーなのに全然踊りたくならないのは致命的。クラシックや大人しい女性ヴォーカルならいいんじゃないでしょうか。

タイムロードのブースの選曲。こういうオーディオフェアで流れる曲はクラシックやジャズ、女性ヴォーカルが多く、たまに古いロック、というのが通り相場だが、タイムロードの担当者(社長?)が「向こうのオーディオフェアではEDMがガンガンかかる」と言って、EDMやヨーロッパのアバンギャルドなエレクトロニック・ミュージック、はてはYELLO(スイスのエレクトロ・デュオの)までかける暴走ぶりで大変面白かった。たぶんこの方が個人的にこういう電子音楽が好きなんでしょうね。曲の印象が強すぎて、機器の音は正直、印象に残ってないw

エレクトリのブースで聴いたマッキントッシュの真空管アンプ、MAGICOのスピーカーのシステム。アナログレコードは切れ味と色気がうまく同居していて、アイレックスのブースで聴いた音よりも、ことアナログらしさという点では上回っていたかも。

ゼファンのブースで聴いたAudiomachinaCRM-Xというコンパクト・スピーカー。実はこれを聴くのを一番楽しみにしていたんだけど、同サイズ/同タイプのYGアコースティックのCAIRNを聴いたあとだと印象が薄い。係の人のプレゼンも弱かったし、選曲もなんだかパッとしなかった。

ヨシノトレーディングのブースで聴いた音。ほんの短い間のリスニングで、どんな機器が鳴っているかもわからなかったけど、比較的小さな部屋ですごく親密で気持ちのいい音が聞けた。機器の力もさることながら、セッティングした担当者のセンスも良かったんじゃないか。

ユキムのブースで聴いたAIRPULSEのパワードスピーカー。EARMENのデスクトップサイズのコンパクトなアンプとDACで鳴らす音は非常に小気味が良くて、オーディオにそれほどお金をかけたくない、大げさなシステムにしたくない人にはちょうどいいと思った。

 試聴のソースはROON/TIDALがとにかく多い。そして配信であっても、総額数千万のハイエンド・システムで聴いても、音はアナログやハイレゾと遜色ない。アナログレコードを使っていたブースも多かったが、SACDやCDはなんとなく影が薄く、やはりハイエンドオーディオの世界でも配信全盛だと痛感した。今回のフェアに関してはいろいろ手厳しい意見も見たが、久々に行った私には例年と比べてどうの、というのはわからない。でも十分に楽しかったです。お客はやはりおっさん祭りでしたが、ポツポツと若い人や女性も。山本さんや和田博巳さんなど、ご無沙汰だった方々に久々にご挨拶できたのも良かった。和田さん、髪の毛がすっかり真っ白になってたけど、元気そうでした。

 食事をとらず会場に向かい、適当に立ち食いソバでもと思っていたら手頃な店が館内になく、飲まず食わずで広い会場を歩き回り、聴きまくっていたら、あっという間に7時間。本気で見て回るならあと1日は必要ですね。楽しい催しでした。

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