[ライヴ評]ビョーク(2023/3/20&31 東京・ガーデンシアター)

[ライヴ評]ビョーク(2023/3/20&31 東京・ガーデンシアター)『しんぶん赤旗』2023年4月18日付

『しんぶん赤旗』2023年4月18日付

 アイスランドの歌手、ビョークの来日公演を見た。デビュー以来30年目を迎え、メインストリームとは全く異なるオルタナティヴ(もうひとつの選択肢)で孤高なアートとしてのポップ音楽を作り続けている異才だ。

 今回はオーケストラのみをバックに歌をじっくり聴かせる「オーケストラル」と、電子楽器や管楽器、合唱等を組み合わせた斬新な音楽性と凝った演出で見せる「コーニュコピア」の2つのライヴを開催。最先端のアート・ポップ表現として完璧な世界を見せた後者はとりわけ圧巻だった。

 ビョークの強みは、単に曲を書き歌うだけでなく、ヴィジュアル、演出など自らのアート表現を構成するあらゆる要素を自分自身の手でコントロールできる技術とセンスと意志を持っていることだ。今回のライヴを貫くテーマは環境問題。生命のエネルギーや自然の脅威、破壊されていく地球の悲鳴が、先鋭的な音像と凝った映像、斬新な演出で目くるめく表現される。ビョークの思い描くイマジネーションの豊かさ、鋭さ、深さ、新しさが、鋭利で繊細な知性と卓抜した技術で完璧に具現化されていた。

 しかもその世界では、ビョーク自身でさえパーツのひとつに過ぎない。一座の中心として注目されるポップ・スターであるよりも、アーティストとして美しく完璧な表現世界を作りたいという欲望が勝っている。それこそがビョークの特異性であり強みであることがよくわかった。(小野島大・音楽評論家)

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