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一流の振る舞い

一流の選手は、全てにおいて一流なんだな。そう思わされる瞬間に出くわすことが、最近多い。縁あって、とあるラグビーチームの練習を撮影させてもらった時に、そう感じる出来事があった。

その日は試合前日だった。翌日の試合に出場しないメンバー(ノンゲームメンバーと呼んでいた)は壮絶な練習を繰り広げていた。グラウンドの端で見ているだけでも、その過酷さがヒシヒシと伝わってくる。「キツそう...」そんなチンケな言葉で表現するのが失礼だと思ってしまう程の、そんな過酷な練習だった。

その練習後、真っ先にタックルダミーを片付ける選手に目が行った。

マピンピ選手だった。

彼のことは、ラグビー好きな人なら知らない人はいないのではないだろうか。彼は、一昨年のRWCで、南アフリカ代表として、見事世界一になっている。対日本戦でもトライを決め、まさしく大きな壁となって、各国の代表の前に立ちはだかった。

その選手が、誰よりも先にタックルダミーを片付けていた。

もちろん、真っ先に片付けをしたから凄い、という訳ではない。世界一の選手は片付けをしない、と思っていた訳でもない。ただ、世界一になった選手でも、率先して片付けをする。そんな姿に何故か心を打たれ、思わず写真に残してしまった。


それから、日付が変わって、つい先日。昨年から撮影させてもらっている、立命館大学ラグビー部のHP用写真撮影に今年も呼んでもらう機会があった。HP用写真っていうのは、選手名鑑とかで見るような写真のことだ。選手はゲームジャージを着て、スタッフはジャケットを着て撮影をする。

その日は、昨年撮影をしていない選手と、1年生(新入部員)の撮影がほとんどだった。

チームのマネージャーが決めてくれたスケジュールに沿って、選手やスタッフが部屋にやって来る。「基本的に笑顔の写真で」と頼まれているので、なんとか笑顔になってもらえる様に、他愛のない会話をしながら撮影を進める。

午前中の撮影が終わり、休憩時間。撮影用に、とテーブルの上に置かれた様々なサイズのジャージに目が行く。皆が順番に着たからだろうか。簡単に畳まれてはいるものの、最初の様にピシッと並んではいなかった。でも、そんなジャージを見て感じることもあった。

このジャージを着て試合に出る為に、どれだけの努力を積み重ねているんだろうか。入部したからといって、誰もがそのジャージに袖を通して試合に出られる訳ではないんだよな。もしかしたら、HP用の写真撮影の時にしかジャージを着ることなく卒業を迎える選手もいるのかもしれないんだよな。

そんなことを思うと、やや乱れていようがなんだろうが、神聖なジャージに触ることはできなかった。

午後の撮影がスタート。午前中よりは人数が少ない。こちらも余裕をもって撮影に臨む。10人ほどのかたまりで来てくれることもあったし、昨年も撮影している2年生以上ということもあって、終始和やかな雰囲気で撮影を進めていた。

「失礼します」

やや時間が空いて、1人の選手が入ってきた。2021年度の立命館大学ラグビー部キャプテンを務める木田晴斗選手だった。昨年まで同大学のラグビー部でトレーナーをしていた弟からも、彼のプレーヤーとしての凄さは耳にしていた。

「宜しくお願いします」と礼儀正しく挨拶を済ませると、ジャージに着替えて椅子に着く。他の選手と同様に撮影を進める。1分ほどで撮影は終了。

撮影を終えた木田選手は、自分が着たジャージを畳み、机の上に戻す。退室するのかと思いきや、他のジャージを手にして畳み直す。1枚畳み終えると、次のジャージを手に取り、また畳む。これを繰り返し、置いてあったジャージを一通り畳み終えると、「ありがとうございました」と一言。部屋を後にしていった。

自分が着たジャージを畳んで戻す。ここまでは、どの選手もやっていた。当たり前のことだ。でも、彼は全てのジャージを畳んでいった。

マピンピ選手も木田選手も、彼らからすれば当然のことをしただけなのかもしれない。目の前にゴミが落ちていたら拾うのと同じくらい当たり前に、タックルダミーを片付け、ジャージを畳んだにすぎなかったのかもしれない。でも、全員がそれをできる訳ではない。だから、目についたし、気になったんだ。

彼らは一流のラグビープレーヤーだ。マピンピ選手は南アフリカ代表として世界一になっているし、木田選手は世代別の日本代表にも選ばれた実績がある。誰がどう見ても、トッププレーヤーだ。

でも、彼らは「ただラグビーが上手いだけ」ではなかった。彼らは一流の選手だった。彼らのことを「上手い選手」ではなく「一流の選手」だと感じたのは、プレー以外の部分も含めて尊敬できると感じたからではないだろうか。

今回目にしたことは、改めて大げさに取り上げることではないのかもしれない。彼らはきっと、今日も明日も当たり前の様にそれを繰り返しているはずだから。でも、そうやって当たり前にやっていることこそが、彼らの「一流の選手」たる所以なのかもしれない。


(写真・文:小野大介)

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