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【#107】源氏の小手は盗めない

平成。

それは「ポケットビスケッツ」がミリオンを達成するような時代。
この小説は、当時の事件・流行・ゲームを振り返りながら進む。

主人公・半蔵はんぞうは、7人の女性との出会いを通して成長する。
中学生になった半蔵が大地讃頌を歌うとき、何かが起こる!?

この記事は、連載小説『1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき』の一編です。

←前の話  第1話  目次



2001年(平成13年)12月21日【金】
半蔵はんぞう 中学校3年生 15歳

 

目の前にクリスマス給食(きなこ揚げパン、クリスマスチキン、ゆで野菜、ポテトスープ、クリスマスケーキ)が広がっている。


しかし、昨日の保護者懇談を思い出すと、食欲が減退していってしまう。

 

「今の学力では、志望校合格は難しいでしょう」


成績が伸び悩んでいた僕は、岩本先生にハッキリと言われてしまった。
このままでは、志望校の合格は難しいらしい。

 

「クリスマス給食も今年で最後よ。食べないともったいないんじゃない?」

「お、おぅ」

 

同じ班の花蓮に促されるが、どうしても受験のことが気になってしまう。
もし不合格になれば私立の学校に通うことになるが、そうなるとお金がかかる。


(母さんには迷惑かけたくないな)

 

夏休みに、アゼルパンツァードラグーンRPGを買ってしまったことを、強く後悔した。



【※】
 1998年1月29日にセガサターンで発売されたソフト。
 サターン末期に発売されてしまったがために、埋もれがちなってしまった悲劇の名作。
 少年は、ドラゴンに乗って帝国と戦う。
 特にドラゴン対ドラゴンの戦いがアツイ。 「ねらえ」は名言。


「なんか悩んでるの?」

「実はなぁ・・・・・・」

 

僕は花蓮に、勉強のことを相談した。

 

「だから言ったでしょ!定期テストは大切にしなさいって」

「いや、ドラゴンに乗って帝国と戦うのに忙しくて」

「何わけわかんないこと言ってんのよ。しょうがないわねぇ、あたしが勉強教えてあげるわ」



花蓮は、私立の女子高の推薦入試を受けることに決めていた。
しかも、『特待生』という授業料がかからない特別な待遇を受けるらしい。

 

「わるいな。じゃあ、久しぶりに花蓮の家に行っていいか?お好み焼きも食べたいし」

「えっ・・・・・・」

 

わざわざうちに来てもらうのは申し訳ない。

気を利かせて家に行くことを提案してみたのだが、反応は微妙だった。

 


「・・・・・・いいわよ。なら、学校終わったら勉強道具持ってうちにおいで」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「二酸化炭素は、水に溶けにくい。だから、集め方は・・・・・・」

「水上置換!!」

 

「アンモニアは、水に溶けやすく空気より軽い。だから・・・・・・」

「上方置換?」

「そうそう。ちなみに、上方置換で集める気体はアンモニアだけよ」

 

ふむふむ。

僕はけっこう理科は得意なのかもしれんな。


【※】
 中学校理科の定番問題。
 覚えてしまえば、貴重な得点源となる。

裸子植物の代表的なものは?」
「え・・・・・・チューリップ?」


「違うわよ・・・・・・マツやスギよ」
「植物なんて興味ないから、覚えられる気がしないな・・・・・・」
「花言葉なんて、覚えると楽しいわよ。貸してあげるわ」


なんだか乙女チックな表紙だし、読む時間なんてないが、一応借りておくか。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「次は数学を教えてくれ」

「いいけど、その算術ってなに・・・・・・?」

「数学をカッコよくいうと、『算術』になるだろ」



【※】
 1997年6月20日にスクウェアから発売された『ファイナルファンタジータクティクス』に登場する職業ジョブ
 
 『算術』という言葉に惹かれて、『数学』のノートに『算術』と書いていた黒歴史。(実話)

 ちなみに、このゲームの『源氏の小手』は絶対に盗めない。(わかる人には、わかる)


「あっそう・・・・・・。とりあえず、この例題を解いてみなさい」


そういって、花蓮は問題集を僕の方に向けた。


【例題】

AB=6cm, BC=8cmの長方形ABCDがあり、点PはAを出発して毎秒1cmの速さでA→B→C→Dと移動していく。

出発からx秒後の三角形APDの面積をyc㎡とする。


(1) 0 ≦ x ≦ 6 のとき、yをxの式で表せ。
(2) 6 ≦ x ≦ 14 のとき、yをxの式で表せ。
(3) 0 ≦ x ≦ 16 のときのグラフを描け。

 


「あのさ・・・・・・」

 

なに、と花蓮が聞き返してくる。

まつ毛が長いな、とどうでもいいことを思ってしまった。

 

「なんでこの点Pって移動するんだ?」

「そんなの、アタシに言われても知らないわよ!!黙って解きなさい!」

 

【※】
 考えても無駄。
 だが、当時は『じっとしてろ!』と思っていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

二次方程式や、三平方の定理の問題を繰り返し解く。

平日に2時間も勉強するという偉業を達成してしまった。

 


「数学って、だいたいパターンはおんなじなんだな」

「そうなのよ。やり方さえわかっちゃえば、得点源になるわ」


 
ふむ。
花蓮に勉強を教えてもらい続ければ、受験も何とかなる気がする。
そう考えると安心し、お腹が減ってきた。

 

「お好み焼き食べに行っていいか?あ、もちろんお金は払うから」

 「あのね、・・・・・・お店やってないの」

 

言葉の意味は簡単だった。

が、理解できない。

 

「やってないってのは?」

「お好み焼き屋は、閉店したの。アタシが東京に引っ越したのを機にね。設備の老朽化もあったから・・・・・・」

 


『夕焼け小焼け』が外から、聞こえた。

僕はもう中学3年生だ。そんなものが鳴ったからと言って帰る必要はない。

 


「そうなのか・・・・・・。ごめん、無神経なこと言って」
「アタシが言わなかったんだから、知らなくて当然よ。お腹が空いたんなら、何か作ってあげるわ」


花蓮は焼きそばを作ってくれた。
さすがだ、僕の好物を知っている。


花蓮と過ごす何気ない日常。
それが壊れる日が来るなんて――この時は考えるはずもなかった。




(つづく)

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見出し画像は『ファイナルファンタジータクティクス』(1997年6月20日/スクウェア)です。



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