つみのかじつは夢をみせる【編集版⑦】

 アルバイトをしているのだが、4年間続いた勤務も残すところあと少しになった。今日は最後の日曜日の出勤で、来週から日曜に早起きする必要がないと思うと晴れ晴れした気持ちになった。

 今日は「女の子は誰でも」そして「ちちんぷいぷい」「いろはにほへと」がテーマ。これは歌詞を分析していて「!!!」となった3曲である。これ、繋がってるとまではいかないけれど同じ系統の楽曲なんじゃない?となったのである。我ながら天才かと思った。(何度も書いているが個人の独断と偏見がたくさん詰まった解釈なのでそうじゃないとか言わないで…)

 「女の子は誰でも」だけ東京事変の楽曲なので、これで1篇、後者の2曲で1篇と分けて書いた。なので今回は2篇続けて掲載しようと思う。

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魔法使いになれる話~「女の子は誰でも」~

 椎名林檎のキャリアを語る上で外せないのが、東京事変というバンドである。ジャニス・イアンも、カート・コバーンもコートニー・ラブも大事かも知れないけれど、やっぱり東京事変は何よりも大事なのではないだろうか。
 東京事変は、二〇〇三年の実演・雙六エクスタシーで椎名林檎のバックバンドとして結成され、その後バンドとして活動することを宣言。翌二〇〇四年にシングル「群青日和」でメジャーデビューする。その後一枚目のアルバム『教育』をリリースしたのち、メンバーチェンジを経て今の形となり『大人』『娯楽』『スポーツ』『大発見』と四枚のアルバムを発表し人気絶頂の中2012年の閏日に武道館での実演を最後に解散。その後2016年に椎名の曲「ジユーダム」「マ・シェリ」を収録したりその年の紅白に「青春の瞬き」を歌う椎名のバックバンドとして登場したりして愛好家を沸かせた。そして2020年元旦、再生を報せる。真夜中なのに叫んだ。多分全国各地の愛好家が住んでいる家が全体的に叫び声で揺れたと思う。だって今この時代で一番の音楽集団ともとれる5人組が帰ってくるのである。それぞれ個々で音を鳴らしていたとは言え5人が揃うとそれはもうなんというか至高なのである。語彙力の無さを晒してしまった。彼らのことは簡単に言葉には言い表せないのである。
 東京事変として活動する中でも、椎名は自分が作詞作曲している曲はもちろん、作詞だけしている曲も、ソロの時に感じる「女の子のための」というのを感じることがある。それがタイトルにも表れているのが『大発見』に収録の「女の子は誰でも」(作詞作曲:椎名林檎)である。
 この曲があって勇気づけられたり救われたりしている女の子は多いと思う。
〈女の子は誰でも魔法使いに向いている 言葉を介さずとも肌で感じてるから〉
〈女の子は何時でも現在が初恋でしょ 惚れた貴方だけには魔法使いも形無し〉
〈この胸は甘く満ちてはち切れるほどに 願い事焦がされて何処までも苦いの〉
 何この若い女の子に寄り添いまくりな歌詞は。メロディーだってときめくくらいに可愛いくて、これがキュンキュンするってやつかと、私はそんなことを思いながら聴いていた。
 MVもそれはもう可愛くて、いつもは「このバンド、誰がフロントマン何ですか?」
みたいな、テレビ朝日の音楽番組、ミュージックステーションで「緑酒」を披露した際にフワちゃんが「5人でひとつ!東京事変!」なんて言っていたけれど、まさにそんな感じのバンドで、ステージに並ぶときは基本一直線、ボーカルの椎名ではなくベースの亀田誠治が真ん中に来る。よくあるボーカルだけがメインでスポットライトを浴びるのではなく、メンバー全員がスポットライトを浴びるのだ。しかしこのMVだけは、椎名がまるでお姫様のようで、男性陣は彼女を引き立てるジェントルメンなのだ。椎名は次々と衣装を変え、男性陣はそれをエスコートする。このMVを観るたびに、「ああ、こんなに可愛い洋服が着られたら最高だなワクワクするな」とか「何処か出かけるのも楽しくなるな」なんて思うのだ。どこか出かける準備をするとき、女性は服を選んだりお化粧したりして着飾る。その時間は楽しいけれど少し面倒だなと思う気持ちの方が勝ってしまう。でもこの曲を聴きながら準備をすると、自然と鼻歌まじりで準備をし始める。そうしたらさっきまで「私なんかお化粧したって綺麗な服を着たって可愛くないし似合わない」なんて気持ちは封印出来てしまうきがする。ちょっとしたライフハック。
 この曲やMVに限らず、実演も、地上波への出演もそうだが、椎名を観ると〈魔法使いに向いている〉というこの歌詞が体現されているような気がしてならない。自らのことを「自作自演屋です」なんて言うけれど、この自作自演屋は誰にも迷惑をかけないどころか月並みな言葉ではあるけれど、ワクワクする気持ちだとか、希望とか、そういうのを世の中にいる全ての女の子たちに与えてくれている気がする。だから私は今日もこの曲を聴きながら自分の好きな服を選び、自分の顔にメイクをする。それが楽しい。

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女の武器は~「ちちんぷいぷい」「いろはにほへと」~

 東京事変の「女の子は誰でも」を聴いたら、その物語の延長として椎名林檎4枚目のアルバム『日出処』に収録されている「ちちんぷいぷい」と「いろはにほへと」を聴くべきだ、と思う。そしてこの2曲はこのアルバムの中でも中心になる楽曲「今」を境に対になっているものである。タイトルの文字数も、歌詞の内容も、曲調も、全てが綺麗なシンメトリーを描いている。
「女の子は誰でも」では、女の子は皆魔法使いであると、弾むようなメロディーで、女の子が持ち合わせている【可愛い】が全面に出ている様が描かれていてキュンキュンする気持ちが止まらない。〈Would you fly me to Heaven??〉(天国へ連れて行ってくださる?)なんてトドメに言われたら、そりゃあもう喜んでエスコートさせていただきますお嬢さん足元お気をつけて、なんて紳士気取って浮足立ってしまうのが目に見えている。
しかし、いつまでも若いというわけではない。人は成長する。気になる人へのアプローチも、当然方法が変わってくる。【女の子】が【女性】と呼ばれるまでに成長した時、魔法なんてもう使わない。代わりに用いるのは【色仕掛け】である。それを使わずにどうやって意中の人をこの手に仕留めようか。
 しかし、【色仕掛け】は最終任務であり最終手段なのである。
〈そう確かに何でも持っているこの世はおよそわたしのもの じゃあ如何して こんな欲を抱く必要があるのよ? 封じていたわ色仕掛けなど最終任務〉
〈そう最初はフェイクでいいのよ 最後にモノホンにしてしまえば 従来の青臭い欲を凌ぐ性急な想い きっとこれは命懸けなの最終手段〉
だから歌詞にもあるように、普段は封じられているのだ。
〈箒や呪文などもう使わないのよ さあ此処からは止め!ご覚悟〉
【色仕掛け】はここぞと一撃お見舞いしてハートを捕えたい時に繰り出すのであって、それがつかえる女性に箒や呪文といった【魔法使い】的な要素はもう必要ない。なんてかっこいいのだ。こういう大人の女性に憧れてしまう。
 そして「ちちんぷいぷい」のその先を思う。【色仕掛け】も【魔法使い】同様に賞味期限は短いのだ。では賞味期限が過ぎてしまったらそこで終わりなのか、と問われればそうではない。その先が存在しているのだ。それが「いろはにほへと」ではないだろうか。
ホーン隊やパーカッションも入ってメロディーも豪華なのが「ちちんぷいぷい」で在るのに対して、「いろはにほへと」は楽器数が少ない。不要なものは全部なくしました、みたいな感じである。
この楽曲の最大のポイントは、箒や呪文を必要としなくなった女性が次に必要とした【色仕掛け】をも捨ててしまうという点だろう。
〈おしえてよもう騙されないわ 仮初めの彩度だけぢゃ厭なの ‥色眼鏡割り捨てて‥〉
〈判るのよちゃんと見極めるわ モノクロの濃度だけで好いの ‥色仕掛け取りやめて‥〉
と歌っているのである。年齢を重ねたことによって解放したはずのテクニックを捨てる。〈最初はフェイクでいいのよ 最後にモノホンにしてしまえば〉と歌っていたのに、ちゃんと見極める、モノクロの濃度だけで好い、だから〈わたしに見せてよ今尚未開拓の根源〉、つまりまだ誰にも見せていないあなたを見せて、〈生きているあなたのいのちは無色透明〉なのだから、と。
この曲はフジテレビ制作のドラマ「鴨、京都へ行く。~老舗旅館の女将日記~」の主題歌でもあるのだが、楽曲制作にあたって脚本を読んだという椎名は、「脚本を拝読したとき、感じ取ったことがあります。土地、または血縁、つまりルーツと言えるものから、人は、どんなに強く意志をもってしても中々逃れられないと言うことです。とくに女にとっての母親というものは生きる哲学そのものと云えましょう。このたび、わたしはそのあたりを材料に、作曲していったように思います。」とコメントを寄せている。その言葉はメロディーだけではなく、歌詞に使われている〈根源〉だとか〈無為〉という言葉に現れていると思う。
 「いろはにほへと」はMVの世界観も美しい。竹林を和服姿の椎名が歩いていく。彼女とすれ違う人々は皆狐の面を身につけている。楽曲が進むにつれて、周囲にはお札が舞い煙に包まれていく。そうしているうちにやがて狐の面の一行は去っていく、という不思議な世界に迷い込んだような映像になっていて、言葉やメロディーだけでは伝わらない曲のニュアンスを感じることが出来る。
【魔法使い】の女の子から【色仕掛け】を手に入れた女性へ、更にそこから全てを手放して新たな境地へ行く女性にー此処から何処へ向かうのだろうか。行く先が気になる。

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 2篇載せたら長かった。当然だ。続きはまた。

知識をつけたり心を豊かにするために使います。家族に美味しいもの買って帰省するためにも使います。