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建築ビジュアライズ・動画編集①映画 「ゴジラ-1.0」編集技師 宮島 竜治氏

 こんにちは。STUDIO55 技術統括の入江です。
 建築ビジュアルにおける動画関連の話しをしたいと思いますが、今回は友人の映画編集技師の話しを交えてお話しします。

 先日、旧友の宮島竜治くんと会いました。
 約 35 年振りにもなります。白髪頭となったお互いの風貌からも年月をしみじみと感じます。

宮島氏(右)と筆者(左)。 昔ながらの ”喫茶店” で談笑。

 彼は、日本映画界を代表する編集者です。有名どころの映画を数多く手がけており、受賞歴もかなりな数に上ります。
 今話題の『ゴジラ-1.0』も彼が編集しており、先日の日本アカデミー賞で最優秀編集賞を受賞しました。

第47回日本アカデミー賞授賞式,日本テレビ,2024-3-8

 私も昨年、映画館で鑑賞しましたが、まさかゴジラで泣くとは思ってもいませんでした。
 子供の頃から観てきたゴジラの完全復活。VFXに偏って人間離れした映画が多くなる一方、人間ドラマをベースに描いた山崎監督のすばらしさは、かつてのスティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』を彷彿とします。単なるモンスタームービーではないドラマの描き方が、昭和の人間としては、言葉を超えて “うれしい” の一言です。

 映画のエンドロールで必ず関係者スタッフの内容を凝視するのですが、VFX担当の人数が極端に少ないのには驚きました。ハリウッド映画等ではVFXスタッフのテロップはこの何倍も名前が連なってロールするので正直言って見逃したかとさえ思ったほどです。たったこれだけの人数でやったというのは驚異的としか言いようがなく、鑑賞後にも「本当かな~」としばらく漏らしていました。
 山崎監督は 映画 『三丁目の夕日』で、Esri CityEngine(現ArcGIS CityEngine)を使って昔の東京の街並みをCG再現し、『ALWAYS続・三丁目の夕日』 ではゴジラまで登場させました。また、西武園ゆうえんち 『ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦』 でゴジラのアトラクションを制作されていたりと、本作の前哨戦ともいえるこれらの経験値やCGアセットのストックが功を奏したのでしょうか。
 いずれにしても、日本のVFXの歴史を変えた名作であると言えます。

 (西武園ゆうえんち 『ゴジラ』・ザ・ライド大怪獣頂上決戦)
https://www.seibu-leisure.co.jp/amusementpark/attraction/godzilla_detail.html

 映画と比較するまでもありませんが、建築の動画制作には特徴があります。
 いわゆる “ウォークスルー” が一般的です。
 人の見た目で空間を歩き回り、完成予想図を確認して見て回るといった主旨で、説明的な動画になります。ご依頼いただく際には、カメラのルート確認、その際にどこを見せたい (見たい) 等を確認して制作を進めます。
 建築ビジュアル制作は図面ありきといった特徴もあり、オペレーション的要素が強いのがそもそもの特徴です。動画制作においても指示ありきの同様のスタイルが根強くあるため、制作者は元より、お客様側でも、“それ以外の動画” における指示出しに慣れていないケースはよく見受けられます。
 “それ以外の動画” というのは、いわゆる魅せる動画の事で、CM的要素の動画のことを指しています。
 つまり説明が主ではなく、あくまで見る人の印象に残るエモーショナルな動画作りになります。
 近年、LUMION(建築3次元用プレゼンテーションソフト)に続き、建築動画制作のワークフロー変革をもたらすソフトが登場し、動画制作がかなり身近なものに変化してきたことに付随する形でエモーショナルな動画制作の相談も増えており、”お任せ対応” に困惑する現場ケースが見られるのは、こういった元からの制作スタイルの違いによるところがあるためです。

 LUMION、D5 Render、Unreal Engine、Twinmotion、ENSCAPE etc…これらのソフト群によって建築における動画制作のワークフローが変革され、フッテージ(未編集の素材の事)書き出しそのものは早くなりましたが、仕上げに関する “編集” にこだわりのあるケースはまだ遠い印象があります。
 筆者は、建築は元より、プロダクト、カタログ等のCGクリエイターを経てきた経歴もあり、どちらかというとほぼ ”お任せ” 制作に慣れ親しんできたところがあるため(比較的珍しいタイプのようですが)、建築の動画制作におけるやりとりに少し驚かされる事があります。
 静止画制作もそうですが、動画制作ともなると、より個人のセンスによるところが大となります。そのため、教える、教えられるといったものではありません。ただ、今は物事が確立された時代ですので、センスは伝えられなくても、それらの確立された基準とする見方、やり方に関する知識があるだけで、やりとりそのものはスムーズになるかと思います。
 何て言って伝えればよいのか分からない状態では、ますます指示内容が抽象的になり、伝言ゲームになる可能性があります。
 実践で知っておくと便利な動画関連の専門用語を、次の回でお話ししようかと思います。それだけでも知っておけば、とりあえずは仕事におけるやりとりがスムーズになりますので、興味ある方は楽しみに見てください。

 宮島くんと、時間(とき)を忘れて多岐にわたる話しをしました。
 彼の代表作の一つである映画 『三丁目の夕日』 は、私個人としては、特に編集のすごみを感じるものの一つです。
 オムニバス的な複数の視点からなる物語を一本にまとめてエンディングへ向けて全体を昇華させる力は、まさに編集の妙。無駄なカットがなく、わずかに短い尺でつなげられる小気味よいテンポの行間が、更に作品を奥深くし、観る人の想像にとどまる余韻を残す作品にしているといった印象です。

 筆者は20代の頃、その当時の日本映画編集界の巨匠であられた故・浦岡敬一先生に付いて映画フィルムの編集助手をさせていただいた経験があります。浦岡先生は、『東京裁判』や『愛のコリーダ』、『人間の条件』など、往年の名作を手掛けておられた方です。
 その当時はフィルムでしたから、白い手袋でフィルムを触り、あれはどこ、このカットはここ、といったように、フィルムをあちこちに置いては持ってくるといった力仕事であった印象があります。
 浦岡先生からは、映画『愛のコリーダ』の編集は俳優の呼吸でつないだと伺いました。「呼吸がつながらないと苦しくなる」と語られていたのが印象的でした。本物の編集者はそこまで見て、感じて編集を行うものとの驚きがあります。先生は目をつむってカットし、それが何秒で何コマあるかも言い当てたほどでした。※ゲーム的に遊びでやったものです。

 時代はデジタルに移行し、今では映画編集の仕事もフィルムからデジタルとなり、完全に力仕事ではなくなりました。また、徹夜があっておかしくなかったのも今では必ず週休もとれる仕事になったと、宮島くんが笑いながら語っていたのも印象的でした。彼の編集助手も女性の方ですが、女性が主役の現代の時代背景からも、勤務スタイルの変化は例外ないようです。
 「編集者もホワイトになってきた」
 建築CG制作の業界も、この10年の大きな変化の中で、長く続けられる仕事に変化してきた感想とかぶさります。
 コンプライアンス厳守でなにかと効率化を求められる現代にあって、デジタルの進化は日進月歩に便利にはなるものの、これまでのアナログにはなかった、デジタルソフトに人が使われる時間というのは定番で存在します。フィルムの時代では完全に自分の集中したペースで作業を進行できたものが、デジタルでは思わぬところでマシーンがクラッシュしたり、ソフトが落ちたり、データ過多になると操作の動きが悪くなって反応待ちする時間が生じる等、”人間がデジタルに使われている” 時間が出てきます。
 「なんでお前に使われているんだ」
 使うソフトは違っても、同感で笑えます。至極名言です。(笑)
 ゴジラ-1.0のAvidの編集画面も見せてもらいましたが、あそこまでデータが詰め込まれているスタディーはさすがに私にはないため、相当の重さであろうかと思います。

■『ゴジラ-1.0』で日本アカデミー賞受賞エディターにインタビュー。Avid Media Composer使った編集手法とワークフロー

https://jp.pronews.com/column/202404051720476006.html

 宮島くんは、山崎監督の映画作品の編集を長年にわたり専属的に手掛けていますので、今や日本のVFX界を代表する白組についても話しを伺いました。今回のゴジラ制作におけるAI活用のエピソード等、大変興味深いものがありました。白組の制作体制は、ハリウッド映画は元より、とても他で実現し難しいところがあります。デジタルの裏にある、アナログな人間が作り上げる手作りの制作体制にこそ、デジタル制作の本命ともいえる生命線があるのだと思います。

 あれこれ話しは尽きませんが、いずれにしても、若かりし頃の友との再会は、仕事を超えた楽しさを想起させてくれます。


第47回日本アカデミー賞授賞式,日本テレビ,2024-3-8
※日本アカデミー優秀編集賞のトロフィーと宮島竜治氏
(最優秀賞のトロフィーは飾っていないとの事です)
※宮島竜治氏と筆者

■【映画編集・宮島竜治1/4】
「編集」の魔術師が映画の魔法をご紹介します!

https://www.youtube.com/watch?v=cYNQ2vq-3Do