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フードテック革命 ―世界700兆円の新産業「食」の進化と再定義―【ONE JAPAN CONFERENCE 2020レポート:VALUE⑤】

2025年までに世界700兆円に達すると言われる超巨大市場「フードテック」。私たちの食体験はどう変わり、どんなビジネスチャンスが生まれているのか。日本のフードテックにおける4人のトップランナーに、日本の現状とグローバルの変化、より良い食の近未来について話していただいた。

【登壇者】
■グローバル・ブレイン パートナー 木塚健太さん
■ニチレイ 経営企画部 事業開発グループ 関屋英理子さん
■CAN EAT 社長 田ヶ原絵里さん
■シグマクシス ディレクター 田中宏隆さん

【モデレーター】
■日本テレビ アナウンサー 畑下由佳さん

■何十年も前からフードテックは存在していた

【畑下】最初にフードテックの定義についてうかがいます。スマートキッチンサミットジャパンを立ち上げ、国内外のフードテック事情に詳しいシグマクシスの田中さんはどうお考えですか?

【田中】フードテックとは、狭義では科学技術を活用して食品改質や販売方法を革新すること。実は今に始まったことではなく、何十年も前からフードテックは存在したと言われています。ですので、大前提として食品産業自体がフードテックというテクノロジーや科学で進化してきたといえます。汎用化されたデジタルテクノロジーやサイエンステクノロジーを使って、地球規模の課題を解決したり、人々の生活をよりよくできるのがフードテックなのです。

【畑下】ベンチャー・キャピタル(VC)業務に従事し、フードテック企業に積極的に投資しているグローバル・ブレインの木塚さんはいかがでしょう。

【木塚】VC業界では少し前まで”テック”というとITやスマホ向けのサービスをそう呼んでいたと思います。皆様ご存知の企業でいえばメルカリやクックパッドなどです。この領域のトレンドは問題解決型で、フードロスや栄養問題、健康問題をITを含めて科学技術を用いて解決するものをフードテックと呼んでいます。

■食品で人々にどのような満足や幸せを届けられるのか

【畑下】大企業の中でフードテックのプロジェクトを進めているニチレイの関屋さんはどのように定義しますか?

【関屋】ニチレイの創業は75年前。終戦直後なので、最初のミッションは日本国内に海から獲ってきた食材をいかにして鮮度を落とさずに届けるかということでした。今や世界屈指となった冷凍技術はその延長線上にあります。ですので、これまで食品関連のテクノロジーは、不足したものを満たすために、いかに効率的に低コストで広く多くの人に食を届けるかという挑戦の中で進化してきました。

ゆえにフードテックとは、すでに食が充足された今、食品で人々にどのような満足や幸せを届けられるのか、そのためにテクノロジーはどうあるべきか、どんな技術が必要なのかを考えて実践することだと思います。ですから私はフードテックという言葉を初めて聞いた時、食品産業に未来があると感じました。

【畑下】大手食品関連企業から独立、起業し、どんな食物アレルギーをもっていても外食を快適に楽しめる食事嗜好のプラットフォームサービスを開発・提供しているCAN EATの田ヶ原さんはいかがですか?

【田ヶ原】私がフードテックを最初に知ったのは田中さんが主催しているスマートキッチンサミットでした。その中で、海外には3Dプリンタで食品を作る会社があることを知りました。その時、個人の体調や味覚や好みを全部インプットすると、それをすべて反映したおいしい食べ物が自動的に出てくる3Dプリンタのようなものをフードテックと呼びたいと思いました。私もそういう未来を目指そうと、どんな食物アレルギーをもっていても外食を快適に楽しめるように、食事嗜好のプラットフォームサービスを開発・提供しています。

■フードテック業界は過去最高に盛り上がっている

【畑下】そのフードテックは今どのくらいの盛り上がりを見せているのですか?

【田中】フードテックの世界が最初に盛り上がりの兆しを見せたのが、2014、15年。その頃から、世界中でスマートキッチン、ワイフード、フューチャーフードテックのような「食×テクノロジー」のカンファレンスがたくさん立ち上がりました。昨年はこのようなカンファレンスが50ほど開催されて、私たちも参加するものが多すぎて困ったほどです。

各カンファレンスでは家の中や外、購買や調理、革新的な技術など、ありとあらゆるテーマを取り入れています。食事は世界中の人たちが毎日する行為なので、関連するテーマは無限にあるんですよね。日々いろいろなプロダクトやサービスがリリースされていて、膨大な熱量を感じます。

こうした動向により、フードテックやクッキングテックへの投資がものすごく伸びてるんです。特に今年はコロナの影響でネットショッピングやデリバリー、クラウドキッチン、ゴーストキッチンなどが着目され、大量の資金が動いたり、グローバル企業による買収が起きています。

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■時価総額1兆円を超えた植物性代替肉メーカー

【木塚】投資家の視点で言うと、田中さんのおっしゃる通り、我々は5年ほど前からフードテックの領域に注目していました。それから投資金額やディールの数が急激に伸びてわずか5年で4倍に増えています。これはVC業界でも出色の伸びです。

主な理由の一つは資金提供者が増えたからです。その中でも食品大手のコーポレート・ベンチャーキャピタル(Corporate Venture Capital)が存在感を増してきています。2015年あたりから多くのアメリカの食品大手企業がCVCを作っています。この時期オープンイノベーションというワードも流行り始めました。

また、去年は象徴的な出来事がありました。植物性代替肉メーカーのビヨンド・ミートがフードテックの会社としては初めてナスダックに上場したことです。一時は時価総額が1兆円を超え、現在でも数千億円以上を維持しています。売り上げもすごく伸びていて、当初アイデアが先行した植物性代替肉が、今は現実の生活に浸透しています。実体をともなっているので、この盛り上がりはバブルではなく本物だと思います。

このアメリカでの動きを受けて、ここ2、3年、日本でも盛り上がりを見せています。先ほどの問題解決という意味では、日本でも同じような問題が発生しているので、フード系ロボットや完全栄養食、ECなどの領域で投資が活発化しています。

【田ヶ原】確かにここ最近、私もフードテックという文脈でいろいろな方々からお声掛けいただく機会は増えました。例えばニュースリリースを出した際、大企業やオープンイノベーションをやりたいという人からの問い合わせが増えたり。それをきっかけに実証実験につながった例もあります。

■これからの地球と人のあり方を決める

【畑下】なぜ今、フードテックは世界で急激に盛り上がっているのでしょうか。

【田中】今日、私が最も伝えたかったのはこのテーマです。今、様々な業界、分野で食の進化やフードテックが話題になっていますが、それらは一過性のバズワードではなく、これから数十年にわたって地球と人のあり方を決めるものです。

その原動力になっているものは大きく2つあり、1つは「社会課題と食」です。みなさんご存知の通り、今、世界では食が大きな社会課題になっています。代表的なものは、フードロスやプロテインクライシス、食べすぎによる健康被害などです。最近ではフードデザートという所得格差が生み出す健康被害が問題視されていて、さらにコロナの影響もあり致死率にまで影響しているのではと懸念されています。

昨年、食に関して次のような衝撃的なレポートが発表されました。「食品産業はグローバルで1,000兆円もの価値を生み出しているかもしれないが、実は裏側では1,200兆円もの隠れたコストを生み出している。価値を生み出している人とコストを負担している主体者が異なるため、このような課題が見えにくく解決されないまま放置されている」というものです。世界のビジネスリーダーや政治リーダーがこの問題を重視し「だからこそ我々は、手を取り合って解決しなければならない」と食のカンファレンスで訴え、大観衆による賛同のスタンディングオベーションが起きました。このようなシーンを間近に見ると、「社会課題と食」と単に言葉で言うよりも、世界全体がもっと本質的に動こうとしていると感じます。

2つ目は「食の多様な価値」です。人々は、食が持つ多様な価値の可能性に気づき、求め始めています。これまでの食品産業は、業界のたゆまぬ努力によって、時短、安全、栄養という点で非常に優れたサービスを提供し、世界中どこでもおいしいものが食べられるようになりました。しかし、食の価値はこれだけではなく、実に多様です。例えば、もっと自分の体に合ったものを食べたい、料理に時間を使いたい、孤食を減らしたい、最近はビーガンやフレキシタリアンなど、いろいろな食べ物がそれぞれの人生や生き様を表すようにもなっています。

そう考えると、果たして我々は本当にこのようなニーズに対して、サービスを提供してきたのかと思わざるをえませんが、実はここにビジネスの可能性があります。特に日本が打ち出す価値の1つと思うのです。というのは、日本は経済成長したものの幸福度が上がっていないという調査結果があります。昔なら国民1人あたりのGDPが伸びたら人は幸せになっていたのに、それでは幸せを感じなくなっているのです。今、人はモノではなくコト、コトに加えてトキに幸せを求めています。それを実現するのが食だと思うんです。

このようにフードテックは「食の社会課題」と「食の多様な価値」の2つのドライバーにより盛り上がっており、このムーブメントにどう取り組むかによって日本のチャンスになると考えています。

■D2Cの台頭によりバリューチェーンのコストが激減

【木塚】フードテックの分野でスタートアップが起業しやすくなったことも大きな要因です。元々、研究→開発→生産→配達→店頭で販売というバリューチェーンは大企業しか構築できなかったのですが、今はそれぞれ分散化して外注できるようになっています。例えば製造はOEMでできるし、配達もアウトソースできるし、管理ツールもかなり充実しています。販売も、今まではスーパーやコンビニの棚をいかに確保するかが重要でしたが、アマゾンや楽天に個人でも出店できるようになりました。その結果、元々構築に数千万円かかっていたバリューチェーンが、数百万円で可能となっています。別の言葉で言うとDtoC(D2C)が盛り上がっているのと同様、かなり起業しやすくなっているということです。

さらに起業家やアイデア、事業の筋がよいものが多いので、VCからの資金の供給量が圧倒的に増えました。日本でも同じで、特にフードテックは注目されていて、すごく資金が集めやすくなったことも起業しやすくなっている大きな理由の1つです。

あとは田中さんがおっしゃった通り、課題があるということは、市場があるということです。なので、そこにうまくミートする時代がきて、今、フードテックがすごく盛り上がっているんじゃないかと見ています。

【田中】確かにフードテックに必要不可欠な科学技術は、元々は大手食品メーカーしか使えなかったのですが、例えば腸内細菌や遺伝子検査、可視化サービスなどのサイエンスサービスが汎用化されたことによって、大手メーカー以外のいろいろな人たちが多様なサービスを作れるようになったことも大きいですね。

【田ヶ原】田中さんのおっしゃる「食と社会課題を結びつける」というお話はすごくたくさん聞きます。私も食品表示の問題やベジタリアンや食事制限のある人を支援するサービスを手掛けていますが、まだ社会課題として意識されていないので、私たちで話題性を作らなければと思っています。

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■自分自身で体験してみるのが一番

【畑下】今後、フードテックの盛り上がりに乗りたい人はどうすればいいでしょうか。

【関屋】食で社会の役に立つのは企業の使命だし、誰もが役に立ちたいと思っているのは間違いありません。何十年もの長い時間と大勢の人たちの血と汗と涙で築き上げられたおいしいものを作る技術は、そう簡単に真似できるものではありません。そんな大手食品メーカーに勤める私たちがこの使命から逃げてはいけない。何かひらめいたら少しでも声を挙げるべき。そうすれば大企業でも動くと思います。

【田ヶ原】フードテックを盛り上げたいという熱い思いをもっている人と連携したいと思っています。今後ベンチャー企業の幹部採用も行う予定なので、興味のある人はぜひ連絡ください。

【木塚】消費者として実際にいろいろなフードテックのサービスを試してもらいたいです。やはり実体験にまさるものはないので。世界のフードテックのトレンドは日本にいて日常生活をしていてもなかなかつかめないので、今は難しいかもしれませんが、例えばアメリカに行ってビヨンド・ミートのハンバーガーを食べてみるということをしてみてはいかがでしょう。

【田中】ぜひ私が共著として書いた『フードテック革命』(日経BP)を読んでいただきたいです。また、昨年「フードテックアイズ」というニューズレターをはじめまして、月1、2回発行しています。世界中のフードテック関連のニュースを網羅していますのでぜひ活用してください。12月17日から19日、スマートキッチンサミットをオンラインで開催します。世界中のフードイノベーターが登壇してくれますので、今のフードテック業界を詳しく知りたい方は必見です。


構成:山下 猛久
デザイン:McCANN MILLENNIALS
グラレコ:糸賀しえり

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