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ONE JAPAN×地域―日本版シリコンバレーの都市戦略【ONE JAPAN CONFERENCE 2020 レポート:CULTURE④】

日本の国際競争力を高めるために、地域はどうすれば新しい価値を生み出せるか。産官学連携はどうあるべきか。各地・各分野で日本のイノベーション創出に取り組むキーパーソンたちが、地域の今とこれからについて話した。

【登壇者】
■日本総合研究所 プリンシパル 東 博暢さん
■内閣府 企画官 石井芳明さん
■なごのキャンパス 企画運営プロデューサー/LEO 代表 粟生万琴さん
■福岡地域戦略推進協議会 事務局長 石丸修平さん
■Human Hub Japan 代表 吉川正晃さん
【モデレーター】
■ONE JAPAN TOKAI代表/トヨタ自動車(アルファドライブ出向中) 土井雄介

OJC2020グラレコ-CULTURE4-山内

■日本にも世界と伍するスタートアップ都市を

【土井】最初に各都市の具体的な取り組みや苦労を教えてください。まずは「スタートアップ・エコシステム拠点都市」構想を推進してきた内閣府の石井さんはどのような思いで取り組んでこられたのですか?

【石井】「スタートアップ・エコシステム拠点都市の形成」は内閣府がいろいろな省庁と連携して進めている政策です。世界的に見ても、成長するスタートアップの6~7割は様々な人々が共生しているダイバーシティあふれる大都市から生まれています。世界各都市でイノベーション、スタートアップ創出競争が激化しているので、日本としても世界と伍する都市を選んで、官民の支援を集中していこうと考えたわけです。

それで募集したら20を越える自治体から応募があり、喧々諤々と議論して、最後は大臣が各地を回りました。そうやって最終的に決めた「グローバル拠点都市」が東京、名古屋、関西、福岡などの13都市。すごく期待しています。

■シアトルをベンチマークにした福岡市


【土井】そのグローバル拠点都市の中でも特に先進的な取り組みをしている福岡地域戦略推進協議会(FDC)の石丸さん、現状の取り組みや苦悩などについてお願いします。

【石丸】我々福岡市は先進的ではなく、むしろ弱者の選択として取り組んできたというのが正直なところです。というのは、我々は大都市圏とは異なる中規模都市として、いかにして産業を際立たせていくかということを考えてきました。福岡市はいわゆる第3次産業、サービス系の企業が非常に多いという点が大きな特徴です。そんな中、経済の新しい担い手として福岡発の有望な企業をたくさん作ることを都市戦略の1つとして定め、その一環として、スタートアップを増やそうとしたという経緯があります。

そのためにベンチマークにしたのがシアトルです。福岡の半分ほどの規模の都市なのに、世界を変えるような企業が出ているからです。シアトルを参考に、QOLを含めて総合的に有望なスタートアップが生まれる環境を作ることができれば、福岡でも戦っていけるのではないかと考え必至に取り組んできました。

【土井】福岡市は「イノベーション都市」と言い切っていますよね。全国規模でスタートアップ支援や都市計画を行っている東さんはどう見ていますか?

【東】今回、石井さんが「都市」と明言したことが重要で、これまでは産業支援としてスタートアップ支援に取り組む自治体ばかりだったのですが、福岡市が初めて都市戦略の一環としてスタートアップ戦略を組みました。都市経営を円滑に行う際の代表的な弊害として縦割り行政が挙げられます。それを排除して福岡市と石丸さんのFDCがスタートアップを伴走支援することで、スタートアップが急成長しているという点が素晴らしいと思います。

【土井】なるほど。石丸さんはおそらく役所のセクショナリズムを突破するために苦労していると思います。今、東さんが言った問題はどのように解決したのですか?

【石丸】その意味では本当にいろいろとあります(笑)。1つは、FDCが福岡都市圏の横軸になっていることが挙げられます。福岡市の行政が縦割りになっていても、外部から見ると我々が横軸なので福岡市の中で解決できない問題にも相談に乗ることができるんですね。さらに言えばセクターも横断で民間も大学も他都市もつなげる。つまり、FDCがすべてのハブになっているという構造が大きなポイントだと思います。

■イノベーション·エコシスムは街づくりと一体

【東】実は関西経営連合会や同友会など、大阪もずっとFDCを視察していたんですよ。石丸さんが対応していたと思いますが。

【土井】大阪イノベーション・ハブを立ち上げた吉川さん、そのあたりいかがですか? 

【吉川】行政は縦割りで仕事を進めてますよね。だからいかに横串を刺す機能を実装するかが重要なのですが、イノベーション・ハブも有効な横串の1つです。その時、首長が号令することが大事で、その意味ではFDCさんを見本として、とにかくイノベーション・エコシステムは街づくりなんだ、スタートアップ支援は経済政策や都市計画政策、観光政策などと一体で推進しなきゃいけないんだとしょっちゅう言っていました。

いずれにしても今回の「スタートアップ・エコシステム拠点都市形成プラン」がそういう形で関西圏全体を巻き込め、形だけでもとりあえず1つになる体制ができました。これは非常に大きな1つのステップだと思っています。

■名古屋が保守的で閉鎖的というのは昔の話


【土井】名古屋市で産官学をつないで活動している粟生さんにも、具体的な活動や苦悩などをうかがいたいと思います。

【粟生】去年「なごのキャンパス」がオープンしました。なごの小学校をリノベーションして立ち上げたインキュベーション施設です。なごの小学校は少子化で廃校になったのですが、小学校が建っていたのは、豊田家ゆかりの100年の歴史をもつ由緒ある土地なんです。名古屋市の住宅都市局がこの小学校を15年間の賃貸借契約で公募を出したので、3英傑が生まれた東海圏、豊田家の創業の地である名古屋から次の100年を担うような人材を育てていこうと活動しています。

おかげさまで、もともと教室だったところはすべて満室になっていて、スタートアップ・ベンチャーだけではなく、「Tongali(とんがり)」のような産官学連携の東海地区5大学による起業家育成プロジェクトも入っています。

私は去年、名古屋に帰ってきたんですが、実は名古屋が保守的で閉鎖的だというのは昔の話だなと感じているんです。というのは、10~30代の若手が非常にフラットで、ONE JAPAN Tokaiのように会社を越えてつながっているチームもあれば、大学生はTongariプロジェクトで東海の5大学が本当につながっているんですよ。さらに、高校生も滝高校の起業部の子たちがこのコロナ禍で東海の30校を集めて「コロナに負けるな」という熱い想いをオンライン上でシェアしたんです。このようにデジタルネイティブの若い世代はすごく元気で多方面の人とつながっているんです。この彼らのコミュニケーション能力の高さは非常に期待が持てます。

だから閉鎖的でつながっていないとか縦割りもセクショナリズムも40~50代の人の話であって、私たちは小さなおじさんをたくさんつくらないようにと心掛けて活動しています。

【土井】東さんにもご意見を伺いたいですが、今の「実は若い世代は広くつながっている」という粟生さんの話ですが、愛知県だけじゃなくて日本全国でも同じ状況なのでしょうか。

【東】私も高校生の活動を支援しているんですが、コロナ禍で全国の20から30の高校の生徒会長が自分たちでビジネスプランコンテストをやりたいって相談に来たんですよ。また、彼らは国の政策にも興味をもっていて、「大学入試制度が変わるのに、なぜ当事者である自分たちの意見が反映されていないんだ」と自分たちで政策提言書を書いて官邸と文部科学副大臣に提出しました。そのくらい、若い世代は変わってきています。

■企業の若手ビジネスパーソンを自治体に

【土井】僕らのような20~40代の世代は何をすればいいのでしょうか。

【東】これは首長さんにも提案しているんですが、企業でバリバリ働いているビジネスパーソンを首長のアドバイザーにして、都市経営をやらせたらどうかと。実際にいろんな自治体が民間企業とスポット契約をしています。

【石丸】福岡の場合はまさにFDCがそれをやっています。FDCはスタートアップ支援だけではなく、都市のいろいろな戦略推進も手掛けているので、都市開発や観光、スマートシティー構築で各企業に委嘱する際、各企業の若手が入って政策を立案しています。

これを10年間やっているので、彼らがチャレンジしたことが実際に目に見える形になっているケースも多々あります。そういう人たちが今、少しずつ企業の中でもステップアップして幹部になっています。うちの協議会も各社から来ている幹事の人のほとんどは、その後社長になっています。地域の理解が深まるので、その効果は大きいんです。スタートアップ・エコシステムの小さなベースのようなものが少しずつ出来はじめていると感じています。

【粟生】東さんがおっしゃった民間企業の人を役所に入れて首長の補佐をやらせるという提言は非常にいいと思います。実は名古屋市の副市長や市長の秘書は民間企業から来た人で、都市局とか経済局とか関係なく役所内調整もうまくやっているんです。そのおかげで、スタートアップ支援に関しても愛知県と名古屋市が組んでくれていい担い手になったので、企業の若手が早い段階から行政でチャレンジするのは有益だと思います。

【土井】そのような募集は一般からするんですか? それとも選抜するんですか?

【東】首長がパッと思いついて選抜したり、公募したりしています。特にコロナ以降は公務員に転職する若い人たちが増えているんです。なぜなら、一番スタートアップの社長っぽいのが自治体の首長だから。コロナ禍で足元の経済がものすごいスピードで崩れているので、素早くどんどん政策を打たなければならない。なので縦割りなんてとうになくなっています。

■一番重要なのはゼロイチの経験


【吉川】今日の登壇者の中には大企業のイントラプレナー(社内起業家)がたくさんいらっしゃいますが、一番重要なのは、リーダーになってゼロからイチを作るってことなんですよね。これが戦略の中での一番の核で、ビジネスパーソンとしては経験しなければならないこと。その機会を提供するのが我々の仕事だと思っているんです。

松下幸之助さんも「物をつくる前に人をつくれ」と言ったように、基本的にはイノベーションを起こそうと思ったらその人材が必要なんです。イノベーションとは発明×商業化。発明の部分にはテクノロジーがあるんですが、そのテクノロジーにコマーシャリゼーションをかけ算しないとイノベーションとは言えないんです。

そう思って私は2年前から大阪で「T-CEP」というテクノロジー・コマーシャリゼーション&アントレプレナーシップ・プログラムを運営しています。大阪大学の技術を大阪の大企業のイントラプレナーたちに見せて、大学の技術をビジネスにするようなプログラムです。これによって大阪大学発ベンチャーが生まれていますがその後も阪大とコミュニケーションしなければならないので、大阪に残るんです。

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■行動はすべてに勝る


【土井】最後にお1人ずつ、これから個人はどんなことをするべきか、メッセージをお願いします。

【石井】先日、デジタル担当大臣がみなさんにデジタル庁に物申してくださいというメッセージを送りましたよね。だからONE JAPANのみなさんもしっかり物申してください。意見をしっかり言うことが大事です。それからもうひとつ、行動してください。失敗してもいいじゃないですか。「最近、大きい失敗をしましたか?」と聞かれて答えられるかどうかで、普段からチャレンジしているかどうかがわかります。私も失敗ばかりしていますが、どんどん失敗してください。チャレンジで前に出ることが大事だと思っています。

【東】グローバルとの戦いにおいて、これまで日本は何もしてこなかったので、今すごくチャンスで伸び代しかないんです。逆に危険なのが海外の方が日本をチャンスの場と見ていて、シンガポールの投資家などがどんどん来ています。だからせめて自分の国のことは自分で考えて行動しましょう。もし何をすればいいかわからなかったら、できるだけ異業界、異分野の人たちと会うことです。やっぱり自分の見ている領域が狭ければ、飛び抜けた発想も出てこないので。かなりアンテナを高くして、いろいろな人と幅広く付き合っていただきたいと思います。

【粟生】私もベンチャーカフェの言葉を借りて、“ActionTrumps Everything!(行動はすべてに勝る=まず行動しよう!)”と言いたいです。出会いを求めて、外とつながりながら、失敗を多く経験して、チャレンジしていきましょう。キーワードは「N」です。「なごの」「名古屋」「日本」。そして世界を元気にしていきます。

【吉川】テクノロジー・コマーシャリゼーション&アントレプレナーシップ・プログラム「T-CEP」をぜひ検索してください。大学の面白い技術を使ってビジネス化する経験をしてみてはいかがでしょう。

【石丸】志と心意気を持っていただきたいです。何か新しいことをやろうとした時は、必ず対立や抵抗が起こりますが、すごい力で跳ね除けられることができる国にしたい。新しい時代は第90回帝国議会で日本国憲法が承認されたことで始まりました。つまりレガシーが意思決定して新しい時代が始まるということをぜひ認識してほしいと思います。

【土井】みなさんのお話通り、各地域行政は様々な施策をやっているので、企業のビジネスパーソンはぜひ外に出てほしい。別に転職しろという話じゃなくて、会社に所属しながらも十分できます。私も会社の中にいながら、粟生さんといろいろな活動で連携して、その中でゼロイチの経験もさせてもらっています。私の所属するトヨタも「やってみなよ。君が行ったらポジティブになるから」と言ってくれるんです。だから会社の外に出て、他流試合を経験することが大事。例えば行政へ提言をすることで、もしかしたら幹部になって、町を大きく成長させることが経験できるかもしれない。会社も変わってきているし、みなさんの一歩踏み出したいというチャレンジがしやすいムードになっていると感じます。ぜひ、みなさんもこれから一歩踏み出してください。

構成=山下猛久
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ:山内健

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