見出し画像

東京装甲少女 EPISODE 0  第17話  【  その男凶暴につき  】



今年は粒が揃っているなと、



霜月は、講義に向かう廊下で呟いた。


嶋田、山本、灰間、河合、掘、山口、そしてあたらしく入ったフランス人、あれも中々、筋が良い。



まあ、なんといっても、昨年からの
塩沢の加入は大きい。
被験体として実に、興味深い存在だ。


彼の名は幸村霜月(ユキムラ ソウゲツ)

日本の大学の頂点と言われる帝都大学。


その卒業生の中でも、霜月は群を抜いた存在
あった。


帝都大
が誇る歴代の「奇才」と呼ばれる名だたる
卒業生の面々の中でも「100年に1人の鬼才」

また、同時に現在の日本の機械化工学
分野においても霜月の右に出るものは
いないと言われていた

彼は帝都大学在学中、
機械化工学科を専攻。


当時、在学中の彼の面倒をみていた
仙田という教授がいた。

仙田は、帝都大学の教授という立場ではあったが
極秘裏に、今後政府より本採択されるであろう
防衛プロトタイプシステム雛形構想
依頼されていた。


また、仙田はそのため、優秀な若い人材
関連付け出来そうな新着研究レポート
常々、目を配っていた。


そんなある日、自身の研究に転用できそうな
人工マイクロ太陽による永久機関の構築に着目したレポートをネット上にあげている学生が自分の大学に居る事に気づいた。

それも、自分が教鞭を揮う科の中に、、、、。


仙田の外見は、一見、温和で人畜無害な
風貌であったが、
実際心の内は相当な野心家であり。

彼が政府から案件の依頼が来るまでの道程、
様々な研究者の努力の結晶の屍の上に
自分の牙城を築いてきたことで
現在の地位に繋がっていた。

仙田は老獪で巧みな話術を用い、世間を知らない
夢多き、若き才能を集め、子飼いにし
【 活かさず殺さず 】をモットーに懐柔し、
努力した彼らの結晶を食い物にして
自分の研究の功績に結び付けていた。

彼は研究者として
【 有 】生みすことは出来なかった
自分よりも能力が高いものに寄生し、
生み出した何かを繋ぎ合わせ、
短期的に
結果を出せる【有】から【有】
組み合わせ様々なものに変換する能力
長けていた。

研究という創造する世界において
【無】から【有】を生み出すことが最も至高では
あったが、そのような人間は、
ほんの一握りの存在であり、

カリスマに憧れる才能ある凡人は多くいるが、
莫大な研究時間と潤沢な資金を要する為、
現実問題、多くの研究者は花開く事はな
凡人のまま、【無】から【有】を生み出すことに
挑戦も出来ず、夢半ばで諦めこの世界を
去っていくものが大半であった。

仙田も等しく、若かりし頃に荒波にもまれるうちに、いつしか自分が、後世に名を残すような圧倒的なカリスマを発する研究者ではなく、
凡庸な研究者であるのを認識するようにはなったのだが、仙田が他者と違い夢半ばで辞めずに、
今の地位に上り詰めたのは、間違いなく
コーディネーション能力に長けた存在だった
からだ。

そして、自分は愚直な研究者らしからず、
とても器用で他者を巧みに利用し操る
世渡りの上手い人間であるとも
自覚していた事が要因だったのであろう。


そんな才能を欲する仙田は、
霜月に【 搾取できる才能 】があるのを
感じ歩み寄った。


仙田が初めて霜月に話しかけた時、
彼はとても穏やかな笑みを浮かべていた。


当初の彼の印象は
とても寡黙な人間ではあったが、
親しみやすい印象でもあった。


金銭的な面でも様々なバックアップをするので
研究を手伝わないかと誘った時も
彼は静かに微笑み頷くばかりだった。


仙田の研究を手伝う若き研究者は複数人いた。


特に古参の斉木という人物は、
長い事、仙田に従い、彼の腹心のような
存在であった。


仙田は、斉木に優秀な人材なので
霜月の面倒を見てやれと言われ
彼を渋々、自分の近くに置き様々な事を
教えていった。


2人は日を追うごとに仲良くなり、
傍から見ると、まるで少し年の離れた
兄弟のように仲良くなっていった。


もちろん、このラボで2番目の実力者の斉木と
懇意にしているという事もあり霜月の存在感も増していったのだが、何よりも霜月自身が、
実績を着実に上げていた優秀
さが
注目を浴びていったという方が
言葉的には正しいのかもしれない。


このラボには様々な人間が居た。

教育者や、博士号を取得した者、学生など、
国からの援助もあり、給金は支給され、
研究意欲に燃え、やる気のある者であれば、
研究費用は無尽蔵に使える天国のような場所
でもあったが、唯一このラボの不遇な点としては、
自分が汗水たらした研究成果
仙田が、自分の成果の様に消費していく事。
そして一切、自分の実績にはならない点だ。



その構図に気づいた者は、いつしか
この徒労に終わる好待遇なラボを辞めていくので
あった。


しかし、そんな中でも霜月は違った、
ラボの研究員が成果を1つあげる度に、
10成果をあげるような、そんな人間だった。

仙田が追い付けない程、成果をあげるので、
仙田も彼に任せておけば間違いないと思い、
彼に斉木と同等の権限を与えるように
次第になっていった。

斉木は、仙田の腹心という事もあり、
ほぼすべての、仙田の業務や調整、今までの
事象も把握していた。

仙田という存在自体の半分以上が
斉木無くしては成り立たない程であった。


信頼できる腹心の負担を少しは、軽くしてやろうという、親心もあり霜月を付けたのもあった。


霜月
も、いつしか大学院に入り博士号を取得し、様々な成果を上げていたのでマスコミにも知られる存在になり始めた。


彼の名声
が増えれば増えるほど、
秀才を育んだラボという事で、
仙田の元に多くの若き才能が更に集まった。


そんな仙田もマスコミに広く知られる存在
なってきたある日、、。


斉木が自室の部屋をノックして話があると
言い出した。


聞けば、実家の青森に戻り農家になると言う。


仙田は自分の全てを知っている
腹心の突然の裏切りに正直戸惑った。


何とか彼を引き留めるために交渉をしたが
斉木の決意は固かった。


彼は終始

斉木 
【自分は恐ろしいんです、、あいつが、、、
 恐ろしい、、、。】


という、何の事か、皆目検討が付かなかったが
錯乱した状態で取りつく島もない状況だったので、
泣く泣く、暇を斉木に言い渡し

ある程度、勝手を知っていた
霜月に順次斉木の仕事を引き継ぐように指示を出した。


斉木
【幸村君、という事で、急だがよろしく頼むよ】

と伝えると彼は静かに微笑み頷くばかりだった。


仙田は、幸村の育成含め、斉木にほぼ、全てを委ねていた。
仙田=斉木という程一蓮托生の存在であり、その分、
斉木にも、何かと甘い汁を吸わせてきてやっていたのに
という憤りもあったが、それより何より、
明日から斉木が稼働しないという事で、
物凄い多忙な日々が来るのであろうと思い、
とても気が滅入った。


だが、斉木の抜けた次の日も、その次の日も、
なぜか、平穏ないつも通りの日々は続いた。


学会での提出レポート、国との折衝に必要な資料や構成、研究費の算出、マスメディアへの取材対応
など多岐に渡る業務が、斉木が居た時よりも、
何故か円滑に回った。

斉木は、忠実な腹心ではあったが、
【カバン持ち】と揶揄されるほど仙田のにいた。


しかし、それに相反するように引き継いだ、
霜月は、朝に顔を出し、
スケジュール表や資料、台本をピッチリ揃え、
あとは、その通りに行えば問題ないというスタイルであったが、


実際、何カ月も何の不備も不満もない状態であったので、仙田も、霜月の緻密に計算されたスタイルで動く事により、その通り動く事で間違いない結果を生むことに慣れていった。


仙田は、いつしか、ラボへの優秀な人員の人選や、研究成果等、国との折衝や全て煩雑な物は、霜月に任せるようになっていった。


また、優秀な研究成果を組み合わせて、
新たな成果をあげるのにも、同時に取り組ませた。


もちろん彼はとても穏やかな笑みを浮かべるだけで頷き、黙々と成果を出す事を遂行していった。

いつしか、仙田は霜月に全てを任せる事で、
メディア取材と講義しかない、平穏な日々ばかりで自分のラボに赴く機会が次第に遠退いていった。


霜月もいつの間にか史上最年少の教授になったという事で、育ての親の仙田の名声も前にも増して轟いていた。


ある朝の日、その日は、仙田の誕生日であった。


いつもと同じように霜月がスケジュール表を
仙田に渡す際に


霜月
【 教授、本日午後16時にラボにお越し頂けないでしょうか? 】


というので、どうせ、サプライズで自分の誕生日を祝ってくれるのだなと思い、愛い奴めと思いながらも素知らぬ顔で了承した。


仙田は、16時前に、一通りのスケジュールが
終わり、自分のデスクに一度戻り、
メールをチェックしたところ、


霜月から
【 教授ご英断おめでとうございます!! 】
とのメールが来ていたので、不可解だと思ったが、何かの悪戯だろうと思っていたが、
メールを開いたところ、

大量のフォルダーに資料や画像が入っていたので見た所、驚愕した、、、、。


そこには、なんと、仙田が、今まで功績を上げた
成果は、他者の功績を掛け合わせた物だという理論的根拠を用いた資料や、役人への裏金を渡す写真や、証言音声、研究費名目で私的に公金を使っていた裏帳簿や、賄賂の記録、またパワハラやセクハラの写真や証言など様々な不正行為がフォルダーに閉じられていた。


そして、文末の最後には 


【 教授!! 本日、 16時ラボ
  是非、お越しください 】


と記載されていた。


仙田は顔を真っ赤にして、自室から走り出し!
怒り心頭という様子で、タクシーを拾い、
行き先を伝え、


霜月め!!今か今かという思いで、車内で現地に
到着するのを待ちわびた。

仙田は、現地につき、タクシーを降りラボのドアに
ものすごい勢いで向かった。


入室の際、違和感を少し覚えたが、
怒りの方が勝り、注視はせず、
そのまま、自分のラボへ
入室した。

すると突然


パーン!! パーン!! 

パーン!!パーン!!


というとてつもない発砲音に圧倒され足を止めた。




少し、経つと、若い見たこともない男女が仙田に向け


【 サプラーーイズ  】



とクラッカーを鳴らし、誕生日の音楽を流しながら、
蠟燭のついたケーキを賑やかに持ってきた。


仙田は、状況が呑み込めなかったが、少々狼狽しつつも、自分の誕生日を祝ってくれているだけかと思い、ほくそ笑みながら、
蝋燭の火を消した。


イェーイ、フゥーなどと喜んでいる者の中に、
自分が知るメンバーは一人もいず
辺りを見渡せばラボの中は
全く違うレイアウトになり、研究機材も
全く見慣れない目新しいモノばかり
で、
ここは本当に自分のラボなのか
見紛う程でもあった。


終始、大きな音や状況に圧倒されていると、
ある一人の若者が

【教授!!お誕生日&ご勇退
 おめでとうございます!!】



と言った。

それにつられて、周りの若者も再度

イェーイ、フゥーなどの奇声を発した。


仙田は、勇退というワードに首を傾げると、
リズムに合わせ盛り上がる人を掻き分け、
霜月が目の前に現れた。



一瞬、顔見知りが居たので、安心しそうになったが、メールの一件がある事を思い出し、
仙田は、霜月に詰め寄った。



仙田 
【 博士 あれは何だね一体!!!あれは!!】



と仙田がすごい剣幕で近づくと、
霜月はとても穏やかな笑みを
浮かべながら



霜月 
【 どうですか教授? 私のサプラーーイズ 】



と言った。



仙田も、何だ冗談かと思い、
少し安心し笑顔を見せた。



仙田 
【 幸村博士 

  君!!冗談もほどほどに、、、、】 



と言おうとした所に、更に霜月は、
とても穏やかな笑みを浮かべながら、
仙田に、こう言いながら
何かを、渡してきた、、、。



霜月 
【  サプラーーイズ  】



仙田は普段寡黙な人物が突然燥ぐ姿に
不気味さを感じつつ         
霜月が突き付けてきた物を見ると封筒だったので       それを渋々受け取った。


仙田 
【 幸村君 これは一体なんの、、、、】 



と言おうとした所に、更に霜月は、とても穏やかな笑みを浮かべながら、
仙田に向かい、首のあたりを掻っ切るような仕草で舌を出しながら


霜月 
【  サプラーーイズ  】


と言った




仙田

 【 幸村君 私は、これは、なんだ、、、、】 



と言いそうなところに再度同じ仕草で      
同じ言葉を述べてきたので、不快極まりない態度を取られ
激高しながらも、これでは埒があかないと思い   
封筒の中身を見る事にした。





封筒の中には、
何か譲渡書や推薦状などの文書類があった。



そして、その中にも、自分の娘の不正受験の証拠や、嫁の不倫現場の写真や様々な、
仙田が世に出てはいけない証拠が
閉じられていた。


そして、一番最後の文面に


【 教授!!                

  ご勇退おめでとうございます!! 】 

  幸村LABO    代表  幸村霜月  


と記載されていた。



仙田は、霜月の変貌と目論見をすべてをこれにて悟ったが、
海の者かも山の者かも判らぬものを重用した自分の
落ち度を責めつつ、腹心であった斉木の言葉を軽んじた
自分の報いでもあるなと痛感はしたが、

最後に自分の全てを譲るにあたり、分け前をよこせという意味で、
霜月に話しかけようと思ったが、

霜月が仙田が話しかける前に、
これでどうでしょう?
といいながら、
3という数字を指で仙田の眼前に出してきたので、

初め、この数字が何の数字かは解らなかったが、
彼が今まで一度も、自分に対して不利益を生じさせた事はないので、
もうこれ以上何も交わす言葉は持たぬかと、
彼の言う通り、これからも動けば私は安泰だなと思いつつ、
老兵は只去るのみと、無言で、もう戻ることのない、
祭りのような賑わいの自分のラボであった場所の扉を
一人閉め外に出た。



仙田は、

自分は名残惜し気に最後に自身のラボの看板を見ると驚いた

フッ!と笑みをこぼし、そのまま、その場を去った。



彼の見た入り口の看板には

【 幸村LABO 】


と書かれていた。



仙田の電撃引退は世間を一時騒然とさせたが、後任の霜月は、その後、人工マイクロ太陽による永久機関の構築、人体に影響のないワイヤレス電力伝送、AI学習をベースとした自動防衛システムの雛形が、
国家戦略に組み込まれるなどの躍進を遂げ世間を驚かせた。


その後の霜月はというと


【 幸村LABO   】の生え抜きの


メンバーと共に数年後、


【YUKIMURA Heavy Industries 幸村重工】

という会社を設立し


様々な功績を、後世に更に残すと思われたが、立上げ間もなく若くして他界してしまうのであった、、、、、、。



東京装甲少女 EPISODE0  第18話へ続く、、、、、。




⇒ひとつ前のEPISODEへ戻る

こちらで小説を展開している
東京装甲少女EPISODE-0という作品ですが
物語の初まりのOpening Part から
現在のストーリーまで今の所

【無料公開中】です。


是非、東京装甲少女
という世界観の伝わる
始まりから
お読み頂ければ幸いです。

今後は有料化も予定しておりますので
期間限定の今のうちに
お読みい頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。


ここから、初めのストーリーを読む



※お知らせ👼

現在こちらで小説を展開している
東京装甲少女という作品ですが、
こちらにはお話の基になるデジタルアートNFT
作品があります。

そしてその作品が
2024年4月に行われましたNYCで大規模開催された
https://www.nft.nyc/という展覧会で
展示されました🎊

皆様のご協力を頂きこの度展示して頂く事が叶いましたので
また来年も展示されるのを目指してまいりますのでご協力
よろしくお願いいたします。
ありがとうございました🙇



NFT NYC2024 展示作品


NFT NYC2024 デザイン採用チケット


↑ここからTOPへ戻る




↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

各話へのlinkはこちら

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑




この記事が参加している募集

404美術館

SF小説が好き

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?