東京装甲少女 EPISODE 0 第2話 【 まささま 】
あやめ
【 またあんたは、4街区なんて !! 】
と少し大きめの声で話すと、
つかさ
【 し~っ!!ダメダメ 】
と人差し指を口元にあて、困った顔で、
あやめの言葉を慌てて制した。
あやめは、つかさを怪訝な顔で見つめた後、
観念して、分かったという意味でコクリと頷いた。
つかさは、周りをキョロキョロ見渡し、
2人に向けて、また小さな声で話し出した。
つかさ
【 ねえ!! 一生のお願い!!今日どうしても、
行かないとダメなんだよ4街区~ 】
と必死に懇願するつかさに対して
あやめ
【 どうせ、あんた、KANDAの闇市でまた変な
情報仕入れたんでしょ? 】
いつもの病気が始まったと言わんばかりに、
あやめが呆れた表情と声でつかさに問いかけた。
つかさは「よし喰いついた」というような
ニヤリとした表情を浮かべた。
つかさ
【 そうなのよ~!よ~く聞いてくださいました。
さすが!あやめお姉様 】
【 そう!!昨日~いつも行ってる酔っぱらいの
おじちゃんの所でさ!
すごいのもらっちゃってさ~ 】
と誇らしげに、誰も望んでもいないのに、
つかさは昨日の夜のストーリーをつらつらと
話し出した。
昨日の夜、つかさはKANDAを訪れていた。
「KANDA」とは、Re TOKYO1街区に位置する政府が作った居住街区である。
つかさや、あやめ、友花里も、幼いころから一緒にこの街区で育ってきた。
「KANDA」は労働者階級の中流層が多く住んでいる街区であり、 大きな商業施設などはあまり
なく、どちらかといえば個人の商店が軒を
並べている。
肌の色や国籍も問わず、多くの人々が雑多に
生活している、 言うなれば、現在の下町の風情を感じられる場所だ。
つかさは、そのKANDAで昨日行われた、
月に数回、予告なしに開催される闇市に
参加していた。
※KANDA闇市とは KANDA1街区の集落の外れには、彼女たちが生まれる前から、
「不思議な小屋」があり、その周辺には
「大きな空き地」がある。
この「不思議な小屋」は、 一応政府の管理下に
あったが、誰が管理するわけでもなく、
いつも鍵が掛けられていた。
誰もが「不思議」を感じていたが、その「不思議」はいつしか神秘性も持ち、訪れる人は多くなった。
そして、小屋を訪れる人には
「手を合わせ願いを祈る」という奇異な風習が
根付き、 いつしか、信仰の無い世界で、
風習は信仰に変化し、小屋は【 まささま 】と
呼ばれるようになった。
余談ではあるが、 【 まささま 】の中を、
幼い頃に3人は見たことがある。
かくれんぼをして遊んでいた時、外から覗ける
隙間を発見したからだ。
怖いもの見たさで、隙間から中を覗くと、
小屋の中央には、焼け焦げた大きな木の板に
「寛永寺・神田明神」という文字が刻まれた古びた看板のようなものが見えた。
また、その横には紫の風呂敷に包まれた少し大きめの箱もあった。
小屋の中にはそれ以外は見当たらず、覗いてはいけない物を見たような薄気味悪さだけを3人は感じ、 その後、その話は誰一人したことは無い。
【 まささま 】の周辺は空き地になっており、人の集まりやすい環境でもあった。
そのため、KANDAで暮らす人々の待ち合わせ場所や寄合所となり、憩いの場として利用されるようになった。
さらには、人が集まることで、そこには商いの
需要が産まれ、 催し物や、多くの多目的な
広場として活用されるようにもなっていった。
KANDAの闇市は、 下流及び中流層の労働者が
生活の糧とするため、この場所で開催された
「ノミ市」が発祥になっている。
当初は、生活品や家にある物を売るだけであったが、 いつしか、盗品やドラッグ、酒など、政府に禁止されている嗜好品が多く売られるようになり、 政府の勧告及び摘発が続出し、
強制介入する形で人気のあった「ノミ市」は
中止となった。
だが、消えた「ノミ市」は、数年前から
【 SSS 】という団体が主催を務め、
不定期で「KANDA闇市」として復活した。
もちろん、政府の認可など降りてはいない、
非合法の市ではあったが、 KANDAに住まう人々は、唯一の娯楽を突然中止した政府に一抹の
不満を抱いていた為、 誰一人、この
「KANDA闇市」というイベントへの不満や、
政府への密告などを行うことはなかった。
次第に団体が主催する闇市は、多くの人で賑わう
催しとなっていた。
まさにコモンセンスという領域でいつしか
それは広まっていった。
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