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あれは猫に甘噛みされたようなものだったのだろう

また、夏が終わる。

アラサーになった私の淡い片思いはソーダ水みたいにしゅわしゅわ弾けてよく分からないまま何にもならずに消えてなくなった。

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コロナが流行った。
引きこもり需要が高まった。
私は首都圏に住んでいるのだが、緊急事態宣言が発令された東京は、オシャレをして街を歩こうものならTVのインタビューに合う。
そんな、とんでもない街だった。

そんな中、私は仕事以外の時間を家で過ごさざるを得なくなった。
コロナ前の私は友達と旅行に行ったり飲みに行ったり。
夏は友達集めて海へいったり、ナイトプールで気取ってみたり、花火をしたり、、それなりに満喫していた。

でも、それは全て出来なくなった。
暇で暇でヒマだった。
そんな中、始めたのがありきたりかもしれないが<オンラインゲーム>だ。

オンラインゲームをすることによって誰かと会話するということに飢えていた私の心は満たされた。

一人暮らし、仕事も自粛。
そんな日は誰とも会話しない。
そんなことが当たり前におきるのだ。

私は会話の多い仕事をしていた。
販売である。
働いてるメンバーはおしゃべりが好きで人懐こい子が多い。
それに加えてお店にお客が来れば接客をする。
話す。会話する。
接客なんて気をつかうし大変だ。なんていっちょ前に思っていたけどいざ誰とも話さない日々が続くとこうもストレスが溜まるものなのか。
お客さんとの会話。
私は自分が売る商品以外の会話もすることが多い。
何処に着ていくのか?とかオフィスには着ていけそうか?から始まっておすすめのランチのお店とか、飼ってる猫の話とか。

今まで、私の人生に関わってこなかった人から教えてもらった話の数々は私の人生にこんなにも彩を与えてくれていたのか。
会話という行為は私のストレス発散の1つだったんだ。と家に引きこもりながら強く感じた。

そんな中、ゲームで出会った大学生の男の子。
私は、アラサーである。
5個以上、年下の男の子。
正直、普通に生きていたら会うことも話すこともなかったであろうそんな存在。

始めはグループで遊ぶ仲だった。
でもあるとき2人で遊んでからずっと2人で遊ぶようになった。
本当に毎日、毎日。

なんで大学生の男の子と毎日ゲームしてるか、、そう、とても楽しかったのである。
彼も大学がオンライン講義になり、バイト先も休業になり暇で暇でヒマだったというのもあったと思う。
毎日毎日、遊んでくれたのだ。
きっと彼もこんな、歳の離れた私ではあるが、一緒に遊んで楽しいと思ってくれていたんだと思いたい。

そうこうしているうちに、私はこの年の離れた男の子に恋心を抱いてしまったのである。

かと言ってどうこうするつもりは微塵もなかった。
考えてみよう、私が学生の頃にネット上で知り合った顔も知らないとても年上の異性から急に「君のことが好きになっちゃったんだ」なんて言われたらどうだろう。
きっと困ったと思う。

年下の男の子を困らせる、オバハン。
そんな存在には決してなりたくなかったから私は何もしない。
そう、こうやって毎晩、遊んでもらえる。
それだけで充分じゃないか。
一緒に出掛けたり、手を繋いだり、、そんなことは私たちには一生おこらない。
炭酸の抜けたソーダみたいな刺激の少ない淡い淡い片思い。
この恋は一生、報われない。
いや。むしろ、報われない方がいいまである。

傷つかない、傷つけない。
猫に甘噛みされたみたいな恋心。

なんて思い出すだけでもこっぱずかしいことをあの頃の私は真剣に考えていた。

恋愛は色んな意味で本当に怖い。

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そんな日々の中で緊急事態宣言が緩和され1回目の出歩いてもいいよ的な宣言が出されたとき、いつも一緒に遊んでるゲームのイベントに一緒に行かないかと誘われた。

もう、私は有頂天だった。
一緒に出掛けられるなんて夢か妄想でしかあり得ないことだったから、信じられない。
でも、会ってしまったら、、オバハン歯止めが利かなくなってしまうんじゃないか。
今はお互いの声しか知らないから「ああ、淡い恋。微炭酸」なんて言ってられるけれど、会ってしまって気持ちが高ぶってしまったら痛いオバハン待ったナシになってしまうかもしれない。

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ウダウダ言っていた私は結局、好奇心と恋心に負けて会うことになった。

会ったときの感想はありきたりな男女のお出掛けレポートみたいになってしまうから端折るけれど、初めて会った彼は通話していた通りの人だった。

会ってからも私たちは毎日、遊んだ。

私の恋心はどんどん膨らんでいく。

返信を待ってしまうようになってしまったときにこのままでは私はダメになってしまうと思ってゲームを辞めた。

いつも決まった時間のログインして合流。
そこから眠くなるまで通話しながら遊ぶ。
そんな生活を半年以上していた私たちの日常を私自ら、ぶち壊した。

そう、これでいいのだ。

彼が就職が決まってこれからというときに私は30過ぎているのだ。
そんな恋にダイブする勇気も覚悟も私には備わってなかった。

何にもならなかった。
この恋は猫に甘噛みされたみたいなものだったのだろう。


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