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お前が好きだから生きていけるの❗️

ひろちゃんへ

忘れていくことに救いを見出していたかもしれなません。あなたを忘れて、忘れて、忘れて、ぜんぶ思い出せなくなったときそれでもあなたのことを愛していた記憶がどこかに残っているかもしれません。

そうですよね?ねえ、ひろちゃん。あなたの少し盛り上がった鼻梁の下から流れ出るわたしの愛を、それでもあなたは軽薄そうに、「うーん、喉奥発射するやつ、全員バカです!w」って、笑い飛ばしてくれましたね。あの夜の美しさ。涙と体液でぐしゃぐしゃになったあなたの顔の、それでも艶かしい唇と挑発的な目つきが今でもわたしを悩ませます。愛おしくて、忘れがたくて、ずっと切ないアバンチュールの記憶。

あるいはあなたと二人で汚れた川の欄干によりかかり、蠢く都市の光を眺めていたとき、酔っ払いの男が絡んできましたね。

「オイオイ、すべてのものには終わりがあるんだぜ。お前ら二人が一緒にいたって、そのきらめきはぜーんぶ、意味なんかねぇんだ。バカどもが」

恐れをなした近くのカラスが一斉に飛び立っていき、都市のデッドスポットは恐ろしいほどの静寂に包まれました。酔っ払いの男は、今思えば少し泣いていたような気がします。わたしが身の危険を感じて震えていたそのとき、あなたは一歩踏み出し、いつもの軽薄気な顔で男に痛烈な一撃を浴びせたのでした。

「それって、あなたの感想ですよね?」

酔っ払いの男は虚に突かれた顔になりました。あなたは続けて、

「意味って、何ですか?」

と問うたはずです。あの言葉のほんとうの意味が、いまなら分かるような気がします。意味のあるなしではなく、わたしとあなたが歩んだこの歳月は、それだけで全てなのだと。ちょうど夜は終わり、ビル街の隙間から暁が覗いていました。回転する世界に、わたしたちをそっと賭け続けること、滑らかに解けた痛みはそれでもわたしたちの中にあり続けてくれること。それが救いだったのでしょう。酔っ払いも破顔一笑して、次の瞬間にはどこかにかき消えてしまいました。ふふ、あれも、わたしとあなただけの心霊体験なのかもしれませんね。

あなたとの仲がギクシャクし始めたのは、いつ頃からでしょうか?それは、ボタンのかけ違いといえば大げさすぎるほどの小さなわだかまりから始まったような気がします。今思えば、わたしは心が狭くて、ひろちゃんが沢山の人と仲良くしている姿に耐えられなかったのだと思います。それはあるいは独占欲だったのかもしれないし、あんなに人付き合いを煩わしそうにしていても、それでも人気者なあなたへの嫉妬心だったのかもしれません。わたしはあなたと違って不器用だから、他の人と関係をうまく築くことができないのです。あなたがわたしの代わりを見つけてからの日々の記憶を、わたしはまだ愛でることができません。

「うちの彼女というか妻というか細君がタカと飲みたいって言ってるんですけど、どすか?」

この言葉が最後の決定打だったように思います。たまらずビンタしたときのあなたの呆然とした顔。あなたの眼に映るわたしの呆然とした顔。関係の崩れる音がしました。それでもあなたはいつものように、

「オイラのほんとうの心を知っているのは、オイラと、あなただけですからね。

あなたと初めて会ったとき、オイラは人生であれほど嬉しかったことはなかったんですよ。
時にはあなたへの愛が暴走してしまって、傷つけたこともあったかもしれませんね。許してくれると幸いというか嬉しいというかありがたいです。
と、今話せるのはここまでです。もうすぐすべてを知るときが来ます。
そのときまでに、心の準備をしておいてください。w」

そう軽薄そうに告げ、振り返って、片手をあげて去っていきました。その後ろ姿があまりにかわいそうで、わたしは抱きつきそうな気持ちを必死に抑えていました。だってそれは、ひろちゃんの覚悟を鈍らせるということだから。最後の痛みの欠片をひろちゃんが背負ってくれたから。

あれから、「すべてを知る」ような日はまだ来ていません。いや、もしかしたら、「すべてを知る」とは、そんな日は一生来ないということを知るということなのかもしれません。ねえ、ひろちゃん。今日もあなたは誰かの救いになっているのですか?細君、あなたの村の村民、それとももっと普遍的な救い?あるいは、あなたはすべてを失って消えてしまったのでしょうか?

どちらでも良いのです。だって、わたしがあなたを愛していて、あなたがわたしを愛していたこと、それは消えようがないのですから。今こそわたしは確信を持って言えます。子供の時代は終わったのだと。

ひろちゃん、ひろちゃん、あなたは、いまもわたしのなかにいるよ!あなたは、どうかな?

タカより

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