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【第十六回】ちょっと小腹がすいたんで。

高田馬場/渡なべ

高田馬場。
なにやらいろいろなモノの激戦区である。
昼はランチ。
夜は飲み屋と行った具合に、サラリーマンから学生までが入り交じるバトル・ロワイヤルタウン高田馬場。

その端っこ。
そうだな、明治通りを少し入ったところにあるのがこの一見ラーメン屋とは思えぬ佇まいの渡なべだ。
数多くの優秀な職人を輩出していることでも知られ、その店主は根っからのラーメン食いでありマニアであり地方ラーメンなどをかなりの数食い歩き、そして再現したりしている渡辺樹庵氏だ。

話は逸れるが、リスペクト/オマージュとは一体どういったことか。
「敬意を払う」といった日本語が宛行われる。

ではインスパイアとは一体どういったことか。
「思想を吹き込む」といった日本語が宛行われる。
尊敬する作品に影響を受けて同じテーマの作品を作る。
そんな様相の言葉である。

ではパロディとは?

いや、言の葉の勉強がしたい訳ではない。

自分の思想の遷り変わりを辿っていくと、やはり大まかに消すには消せないリスペクトの宛先がある。
それは十年過ぎようが対して形は変わっていない。
自分が文章やモノを作るにあたって影響を受けたモノは包み隠さずダイレクトに出すタイプである。
その端、自分なりの個性をどう活かそうか。
自分の個性は何なのだろうかという独立した精神へ脱していk━━━━

なんの話だ。
閑話休題。

なんの話だ。
なんの話だっけ?
そうそう、ラーメンの話だ。
ボク自身の精神の変遷などチラシの裏にでも書いておけ。

この渡なべで今回出された「札幌ブラック」
自分なりにかなりの影響を受けてきた人の背中を追っていたところここに至ったわけで。

そしてこの「札幌ブラック」も地方ラーメンのいいとこ取りをしたインスパイア作品なわけであって。

「食券先買い」

通されるがままにカウンターに腰掛けスタッフのおねいさんの機敏な動きに見惚れる。
開店11時。
11時15分に店へ到着。
既にカウンターは埋まっている。
人気のほどが伺える。

となりの初老の男性がこの店のデフォルトのラーメンを頼んでいた。
そして「いつも通りメンマ抜きでね」とオーダーしていた。

おい、ここは極太メンマがウリの店ではないのか。

否、個人がどう食おうがそう。
自由なのである。

そんなどうでもいいやり取りを詩的に頭で思い描いていると━━━━

札幌ブラック
¥830

※限定商品ですので悪しからず。

札幌ラーメンと富山ブラックのいいところ取りな限定ラーメンである。
焦げたラードと醤油の香りが店内に充満している。

森住製麺のちぢれ麺がモノを言っている。
ゴワゴワでいて水分量高く瑞々しい麺は他の製麺所ではあまり味わえないモノだ。
そこにラードで煽った札幌スタイルのもやしも玉ねぎだ。
どっさりと刻んだ長ネギも札幌ぽい風貌。
ラードがスープに蓋をして長時間アツアツを継続する。
スープは動物主体、そこに真っ黒な醤油の層。
富山のように塩っ辛くない。
恰度良い塩分である。

脂っこ美味い。
ラーメンたるモノのジャンク感を程よく身に着けている。

恰度いい、実に恰度いい。
野菜がスープに浸って恰度いい塩加減なのだ。
醤油の風味も甘く、スープを次々と口へ運んでしまう。

ザックリと切られた肩あたりの肉を使ったチャーシューもゴロゴロと入っているどーぞお腹いっぱい食べて下さい感。

メンマの風合いもオールド・スクールな感じでいい。

スープ完飲は色がそれを止めさせてくれる。
インスパイアされた2つのモノを見事に融和させている。
これこそ「敬意を払った作品に影響を受けて自らの思想を吹き込んでいる」か。
こういう言葉の意を紐解いて自分の心の框にあてこんでみてそれを礎にモノを考えて見るのも面白い。
実に氏の思考がまとまったラーメンを食わせてくれた。
こういう食い物を探し出すチカラをもっと養いたいモノだ。

自的に経緯を称する、偉大なる先駆者はまだまだずーっと先の方。
道なき道を掻き分け進んでいるわけだけれども、その茨を掻き分けた跡を進むだけで美味いモノにありつける。
そこからどう出るか、どうそれを活かすかは自分次第なわけであって、自分にしか成し得ないことにも繋がっている気がする。

敬意を払ったその背中から見える足跡は妙に自分の少年のような心を擽るのでそれだけでなんだか心が透く。
それを辿るだけで孤独でありたいねえ、こういうときばかりは思うわけで。

なんの話か大概わからないだろうけどそれでいい。
心にポッと浮き出たものを救って繋げているに過ぎないから。
店を出たらアジフライ屋があった。

なんか気になる今度小腹がすいたならば、ここにでも来てみようか。
そんな気軽な話がしたくてコレを書いているわけだから。
こういうやり方、こういう気軽が自分のやりたいことなのかも知れないね、と。

営業時間

11:00〜20:00くらいまで

定休日

無休

座席

カウンター8席

行列

昼飯時や夕飯時は行列する。
回転が早いのでそこまで心配の必要はなし。