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【コラム】キズナアイ、スリープの明日を見つめて①――すべては分人から繋がるために

2016年以降、バーチャルYouTuber・キズナアイは私たちに少なくない衝撃をもたらした。
彼女が名乗った「バーチャルYouTuber」は「VTuber」と語を変え、模倣され、世界中に広まり、今や日本発の新たな巨大カルチャーへと変貌している。

しかし、パイオニアであるキズナアイは2022年2月に眠りに入った(無期限活動休止)。しかし、現在までその長い眠りから目覚めていない

彼女が深い眠りにある中、キズナアイの産み親であるActiv8株式会社、傘下であるキズナアイの運営・キズナアイ株式会社は様々な施策を行ってきた。
特に”キズナアイのアニメ化”と発表された「絆のアリル」は、発表時話題になったが、その内容まで把握している人物はそう多くない。

そして、見方によってはネガティブにも受け取れるニュースが2024年連続して起こった。ひとつはキズナアイのアドバイザー/ボイス提供者の春日望さんがアドバイザーを退任した件、ふたつ目はloveちゃんが独立する件だろう。

昨今VTuber業界では独立という道が段々と確立されてきており、後者はもちろん企業から離れる≒引退という構図を保ってきたこの業界において、喜ばしい一件と取れる。しかし、果たして本当に手放しで喜べる話なのか筆者は疑問に思う。

本稿は、そうしたActiv8への自らの疑問を整理するために筆を執った。
そもそもキズナアイが分人したその後の動向について詳しく知らない者も多い。Activ8が何をしてきたかご存じない読者も多いだろう。
そのため、本コラムシリーズ「キズナアイ、スリープの明日を見つめて」では、キズナアイの分人前後からActiv8株式会社、Kizuna AI株式会社の動向を振り返る。

そして、第1回は「前日譚:分人」。キズナアイの分人について抜粋して振り返る。

キズナアイの分人

2022年2月のラストライブの中で、キズナアイはスリープについて、こう明かしている。

スリープの時期って迷ってました。なんだかんだ言って2年前だったかもしれません。

Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022”
キズナアイ

2019年5月、キズナアイは『キズナアイな日々』と題した動画シリーズをアップロードした。
初回となる「キズナアイが4人いるって言ったら信じますか?」では、普段動画の舞台である白い空間にはキズナアイが4人いることが明かされる。
以降、キズナアイたちはさらに人間と繋がるために試行錯誤し、声や容姿を変えるなど表現方法の探求を行い、個々の多様性の確保のために声をインストールすることにした。

これにより生まれたのが、後にloveちゃん(#)、あいぴー(*)、爱哥と呼ばれる新たなキズナアイたちだった。3人は個々にキズナアイと共に活動をしていくことになる。

1人は今まで通りではあるのだが、一部のモデルの「声を変える」ことが「オリジナルが消えるのではないか」といった不安が出る要因となり、VTuberコミュニティ内外から大きな反発を受けた。
これが賛否両論の議論になり、さらに中国で運営されている爱哥に諸問題を抱えたことがさらなる火種になるなど大きな騒動になった。爱哥は中国bilibiliで活動を継続している。

体制変更、チーム・Project A.Iへ――判別がつきやすいように変更

2019年11月にキズナアイのプロデュース/サポート体制を刷新し、Activ8は「Project A.I」を組織し直す。

この頃から、キズナアイの新規モデルの2人は、頭に飾りをつけるようになるなど、各々の判別がつきやすい取り組みを行っていくようになる。

Kizuna AI株式会社設立

こうした炎上を乗り越え、2020年になると新型コロナウイルスが流行。社会的に塞ぎ込まれた空気が漂う中、Activ8は全従業員を対象に在宅勤務を行わせるなど類に洩れず、その影響を受けていた。
そんな一方で、同社は2020年4月にキズナアイたちバーチャルタレントの運営事業を分社化し、Kizuna AI株式会社を設立する。

キズナアイは、発表した生放送の中で体制をさらに変更することで前向きに歩くために変更するということを強調しており、この数年後、スリープ直前の話と重なるような語りぶりのように今では聞こえる。

代表取締役社長は、「えりこ」こと、松本恵利子氏。アドバイザーにはキズナアイのボイスを提供している春日望さんが就任。その声から「中の人」といわれることもあった春日さんがはじめて、表舞台でキズナアイに携わっていることを明らかにした重要な出来事だった。

なお、Activ8はこれ以降はXRライブなどXRコンテンツ事業に注力していくことになる。
この当時からキズナアイなどのファンである者にとっては記憶があることと思うが、Activ8は2019年8月期(4Q)の最終損益で6億7500万円の赤字、続く2020年8月期決算で最終損益5億1100万円の連続赤字を記録していた。

この報道に各業界関係者がActiv8に対して「なぜそんなにも赤字が出るのか」「本当にパイオニアのキズナアイを抱える企業なのか?」といった疑問の声が聞こえた。

しかし、これは以前にあるCG業界の知人とも話した結論であるが、これはスタジオへの設備投資の結果ではないかという話でまとまった。
確証性のある情報は出せないため、話半分に受け取っていただきたいが、この赤字額がVICONスタジオへの設備投資費用に必要額と同等程度になると当時彼は語っており、同様に他のブログでも同じように設備投資なのではないかと意見する記事が少数ながらみられる。

Kizuna AI株式会社設立の目論見は、まずキズナアイの事業を傘下の子会社におくことでタレントマネジメント事業を一局に集中させ、本体であるActiv8は新設したスタジオを基にXRコンテンツ事業を拡大させたいと思っていたのではないだろうか。

love-pii channel 設立――キズナアイから”個”に

2020年5月にはYouTubeチャンネル「love-pii channel」が設立。
この時には、#の髪飾りを付けているのが「loveちゃん」、*の髪飾りは「あいぴー」と呼ぶようになっており、この2人の専用チャンネルとして運用されるようになった。

また、翌月6月には2人固有の姿が公開。「キズナアイ」として生まれたが、だんだんと”個”として活動を始めていくことになる。

あいぴー、独立2ヶ月で活動停止へ

しかし、活動頻度も序盤に比べ、少し時間が経つと更新頻度が下がっていた「love-pii channel」。当日になって配信が中止になるなど、2人の独自チャンネル設立後も完全には落ち着かない日々が続いていたように思う、
そんな最中に発表されたのは、あいぴーの活動停止事実上の活動終了である

ファンと一緒に楽曲を作るプロジェクト「ういなつ」を実行していた2人。このプロジェクトの完了をもって活動が終わることが明らかになったのだ。

楽曲は9月に公開され、これをもって活動停止配信などの催しもなく、活動は停止となった。

また、8月にloveちゃんは活動を休止し、9月に活動を再開。チャンネル名は「loveちゃんねる」に改め、彼女の個人チャンネルとして扱われるようになった。

upd8終了(次回をお楽しみに)

記事が長くなったので、第1回はここまで。
ここまでキズナアイ分人事件があった2019年から2020年のloveちゃんの活動再開までを記した。

分人が結果的によかったのか、悪かったのか――そういった私見は今回出来る限り省いている。筆者の考えは恐らく大衆には合致しておらず、今回の動向を述べるうえでノイズになると思ったからだ。
最終回の総括にて述べようと考えている。

次回はAZKiさんなどが所属したActive8のMCN、upd8終了などより様々な出来事を扱う。

(サムネイル: 「キズナアイが4人いるのに効率が悪い訳がない!? #2」より)


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