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⑱中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠

 情けなさを噛みしめながら歩いた。風が正面から強く吹いていて、視界の先には丘陵地帯が私を待ち構えている。これまでそういった場面は沢山あったはずだった。普通の人間なら慣れて強くなっていき、何とも思わなくなるのかも知れない。しかし私は違った。沙漠に入ってここまで47日間、900km以上歩いた。その経験は私を分厚くするのでは無く少しずつ削っていった。

明日一日歩いて遊牧民が見つからなかったとしても、そこから引き返す距離を含めたら1000km踏破に届く。もうそれで終わりでいいんじゃないか。これ以上どうしてリスクを冒してまで前に進む必要があるのか。いや、だって言い訳がたたないだろう。周りの人間にも、自分にも。まだ時間も食糧もある。前進しない理由が無いじゃないか。いや、でも、もういいんだ。私はこの先の「無」がこわい。父の声が聞きたい。早く安心させてあげたい。頼む。遊牧民よ。今日、明日いっぱいは身を潜めていてくれ。私に見つかるな。頼む。それでも気が付くと私は無意識にゲルらしきものが無いか、家畜はいないか、景色を注視しながら歩いていた。一体私はどうしたいのだろう。

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