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⑨中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠

 遠くに見つけたそのゲルは、現れたり消えたりした。そこに向かうまでの地形が、波打つ様な勾配になっているせいで、こちらが浮いたり沈んだりしているのだ。その内、そのゲルは完全に消えてしまった。正確に言うと見失った。その時点で日が暮れていたので、その場にテントを張って眠った。

 朝、昨日の消えてしまったゲルには見切りをつけ、以前訪ねた時に無人だったゲルに向かって歩き始めた。あの時、ゲルの中には水があった。もしまた無人なら大変申し訳無いが少し水を拝借させて貰おう。命には代えられない。

少しすると、また北側4km先位にゲルがあるのが見えた。昨日見失ったゲルだろうか?迷ったが、また私は帆先を変えそちらに行ってみることにした。近付いて行くと、やがてゲル周辺の様子が鮮明に見えて来た。しかし嫌な感じがした。ゲルのそばにある家畜の柵が遠目に見てもぼろぼろなのだ。家畜の姿は周囲に見当たらない。さらに近付いて行くと、ゲルの扉の前に何かが置いてあるのが見えた。さらに嫌な予感がした。はやる気持ちでゲルに向かった。

扉の前に置いてあるのはラジエーターだった。私はそれをどかして扉を開けた。ゲルの中は、がらんとしていた。もし現在ここで生活をしているならある筈のものが幾つも無い。今現在ここには誰も住んでいないことは明白だった。当然水も無い。

私はここに来て初めて人が住んでいない、放置されている廃墟ゲルが存在していることを知った。遠目にゲルをチェックして「いざとなれば、あそこで水を頂こう」という考えが、いかに危険かも。戻らねば。一刻も早く。確実に人がいたゲルまで。彼らが移動してしまう前に。

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