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「NotFound404からの脱出」の全てをお話します。

2023年1月21日、22日の2日間にかけて、大阪梅田にあるHEPFIVEにて「NotFound404からの脱出」という謎解きイベントを開催いたしました。
そのイベントの企画や脚本、演出など大体の部分を担当した沖健汰です。

本イベントはご参加頂いた皆様に大いなるご迷惑と、大変不快な想いをさせてしまうイベントとなりました。誠に申し訳ございませんでした。
様々な要因がございますが、第一に運営面での不手際があります。スタッフ同士の連携や管理が上手くいっておらず、完璧な状態で作品を提供することができませんでした。
次に広報の問題です。プロモーションの段階で、所謂「ベタな謎解きゲームではない。」ということを担当者に正確に周知できずにおりました。そのため、Twitterのプレゼントキャンペーンとして謎解きの問題を出すなど、誤解を招くような広報活動も一部ありました。
アンケートやお問い合わせフォームでも様々な意見を拝見させていただき、全て真摯に受け止め反省しております。また、謎解き界隈では、参加者もまた制作者であるという風に、相互に支えあっているという業界構造があるんだなことを学び、大変ありがたいご意見も沢山頂戴し、助けられた部分もあります。誠にありがとうございました。

さて、本文で扱いたいのは、本イベントが「なぜこのような作品になったのか」という企画内容に対する説明です。
「NotFound404からの脱出」に至るまで、過去に僕が作ってきた脱出イベントでの経験を織り交ぜて書くことで、立体的な作品解説を目指しています。

過去の謎解きイベントで確立した「演劇×謎解き」のスタイル

2018年、高校3年生の頃に「パラノイドからの脱出」という謎解きイベントを開催しました。これが僕の処女作となります。

元々謎解きは好きだったのですが、当時SCRAPなどの脱出ゲームに参加した際に、物語が極めて弱く、謎の添え物だなあと感じていました。もう少し骨太のシナリオで体験できればもっと面白いだろう、自分がやるのであればホンがちゃんとしている作品にしようと決め、構成を練り始めました。僕が元々演劇畑の出身であることも相まって、ドラマパートは本格的に演劇を取り入れた脱出ゲームになりました。

結果として一般的な謎解きより演劇のパートが長くなりましたが、謎もわりと収まりよく作ることができ、比較的安定した作品が完成。次回以降も「演劇×謎解き」を掛け合わせて作ることを決めました。
この方式は3作目の「2022-未来教室からの脱出」まで続くこととなります。

「パラノイドからの脱出」

「パラノイドからの脱出」
この村では何が行われているのかー
”パラノイド”妄想・幻想に取り憑かれる病。また、患者は通称・パラノイアと呼ばれる。
ある日、大学教授の越野に寄せられた一通の手紙、
それは「夢想村で恐ろしい人体実験が行われている」という告発文であった。差出人は越野の生徒である真野。彼はしばらく行方不明になっていた。
真野の行方と手紙の真相を追うべく、
越野の助手・古野と研究員らを引き連れ、夢想村へ足を踏み入れた。
そこで彼が見たもの、パラノイドの女、白い施設、全てを知る村長。
全ての謎が明らかになったとき、あなたは衝撃の事実を知ることになる。

「パラノイドからの脱出」あらすじより
「パラノイドからの脱出」公演風景
ナゾトキプロジェクトvol.1「僕たちのための交響曲(シンフォニー)」

現在ー。忘れられた音楽。何故なのかは誰にも分からない。
偶然、たまたま、移り変わる流行、多様化する社会、溢れる情報。
目まぐるしく変わる時代ならば、忘れてしまっても誰も気づかないかもしれない。
過去ー。奪われた音楽。遠く遠くこの世界牛耳るその表現のために、私たちの音楽は奪われてしまった。
ただ、音楽を愛する者の思いはこの世界に続いていく。
とある小学校の一室、
私たちは過去に隠された音楽を見つけ出し、再び鳴らさなくてはならない。
過去、現在のため?もしくは未来のため?
わからない、でも今は僕たち私たちのためだ。
鳴らせ、僕たちのための交響曲を。

ナゾトキプロジェクトvol.1「僕たちのための交響曲(シンフォニー)」あらすじより


脱「謎解き」を目指して。

3作目の「2022-未来教室からの脱出」を終え、謎解きが持っている機能を脱したいという気持ちが表れてきていました。
謎解きの性質というのは謎が解けたときの快感と物語が次のフェーズに展開していく快感をリンクさせて、想像力で補うことで楽しむ遊びだと認識しています。だから、爆発も墜落も逃走劇もデスゲームも“その状況を再現する”必要はありません。「今○○ということになっていて、謎を解けばその問題は解決したということになる。」のが脱出ゲームのお約束です。
でも、僕はこのシステムに頼ることを避けたかった。その時に気づきました。結局僕は物語を作りたい人です。だから「謎解き」を物語の奴隷として使っている。僕にとっては「謎解き」は演劇や映像制作においてしんどいところや難しいところをショートカットすることが出来る便利なツールであって、そういうものだとしか考えていなかったのです。それは結局のところ逃げですし、単純に謎解きが好きな人にも失礼だろうということで、謎解きに頼るのはやめ、もっとリアルな方向へシフトチェンジすることを決めました。

ナゾトキプロジェクトVol.2「2022未来教室からの脱出」

ナゾトキプロジェクトVol.2「2022-未来教室からの脱出-」
教育改革を目標に掲げ、あらゆる事業に取り組む教育サービス企業「ウキウキスタディーノーツ」
そんな彼らが次に世の中に放つのは「教育×デジタル
」。学校内の監視や教育サポートなどを行うAIロボット/ウェンバーをはじめとした最新技術を仕掛けた小学校を会場に、新作展示発表会が行われることになっていた。
当日、あなたは展示会に観客として参加するが…展示発表会の最中、不審者対策用の「学校内緊急時対策プログラム」が発動し、ウェンバーによる排除攻撃システムが起動してしまう。
ウェンバーの攻撃を防ぐ方法はただ一つ、”カードキーによる生徒登録を完了させ、ウェンバーに不審者ではないと認識させること”しかし、登録を行うためには、複雑な謎や暗号を解く必要があった…

ナゾトキプロジェクトVol.2「2022未来教室からの脱出」あらすじより
「2022未来教室からの脱出」練習風景

Her StoryやReplicaとの出会い

2020年頭からSteamでゲームをし始めるようになり、大手やインディーズを問わず、プレイする回数が増えていきました。
とくにハマったタイトルは「Inside」「HerStory」「Replica」「428-封鎖された渋谷で」。その中でも影響を受けたのは「HerStory」というアドベンチャーゲームでした。

このゲーム、短い映像を見て得た断片的な情報をもとに考えたり判断したり検索したりしながら、パズルを組み合わせるかのように物語の真実に向かっていく。という構造になっていて、はじめてプレイしたときに、なんて魅力的なシステムなんだと感銘を受けました。
なにより面白いのは、動画を見たからと言ってゲームの方から何らかの道筋を示してくれることはありません。全てはプレイヤーが主体的に動くしかないという点です。
「HerStory」のゲーム体験を活かしつつ、新作の脱出ゲームを企画しはじめました。

2021年、「HerStory」を活かして新作脱出ゲームの制作へ

このゲームは契約関係上タイトルやあらすじを明かせませんが、会社をテーマにした脱出ゲームで、オフィスのセットを模したステージの中に設置されているパソコンで映像を見て、情報を取得することで脱出に繋がるアイテムを獲得できるというゲームでした。

パソコンについてもう少し詳細に書くと、
以下の写真のようにデスクトップ上に短い動画が何本か並んでいて、それぞれ再生していくと、その動画の会話の内容から断片的だが情報を獲得できるという、もうほとんど「Herstroy」のようなシステムです。

「Herstroy」プレイ画面

また今回は脱謎解きが一つの目的であったので、「無線機で連絡を取る」「敵にばれないように段ボールをかぶって移動する」「ブラックライトで照らす」などのアクションの要素を絡めて、チームで協力する脱出ゲームを構築していきました。
こうして、「Herstroyにリアル空間を掛け合わせた」脱出ゲームで、これまでのような「謎解き」から解放されたリアルな体験を実現することができたなという達成感がありました。

ただし「Herstroy」の最も魅力的な部分である、ゲームの方からプレイヤーの次のアクションを導くのではなくプレイヤーが主体的に動くという点は活かすことはできず、これは次回以降の課題となります。

脱「RTA」を目指して。

その後、相変わらずSteamでゲームをプレイしていた僕は、「ドキドキ文芸部」というゲームと出会います。

「ドキドキ文芸部」にはある秘密があるのですが、それが明らかになるまでが本当に長い。僕はこのゲームで、主人公たちの会話に全く興味を持つことが出来ませんでした。他の人たちもそんなものじゃないかと思っていたのですが、とある友人が登場人物同士の会話や掛け合いを主として楽しんでいました。その様子を見て、僕が好きなのはストーリーや登場人物ではなく、作品自体の仕掛けや構造の面白さであると気づき、同時にそのことについて考えるようになりました。

僕の発想でゲームをプレイするのであれば、極端な話、動画やストーリーを味わうのではなく、オチに辿り着くための作業をこなすだけの、言わば”RTA”をやっているという風にも受け取ることができます。
Herstroyも同じです。途中で真相に辿りついてしまえば、後の動画はノイズになってしまう。
この考え方は作品に対する姿勢として、あまり健全ではないのではないかと反省し、その”RTA”的な振る舞いを脱するために仕掛けではない部分を重要視してみようと次回作への構想を練り始めます。

選挙の体験や政治のシステムから考えた「マッピング」

次回作の構想を練り始めた時、丁度なにかの選挙の時期でした。そこで考えた経験も影響しています。選挙では様々な党が多種多様な公約を出している。我々はそれらの情報を見て投票します。ただ「同じ言葉」でも鵜呑みにできません。なぜならば有権者の解釈はそれぞれ異なる。「この公約は別の意図があり、それを達成するための布石だ」など別の読みも可能になる。ベースとなる思想や価値観も異なる可能性もある。
「同じ言葉」でも、それがもつ意味は複数あり様々な解釈が可能になります。突き詰めれば、それぞれの立場が浮き彫りになり相関図ができるはずです。この分類・マッピングの作業は「HerStory」「428-封鎖された渋谷で」で体験したような極めてゲーム的な行為で、僕はそこに共通項を見出しました。ただ当たり前ですが、政治ではこのゲームのような利用のされ方はしません。「428」や「HerStory」は全てが作られているので、マッピングはあくまでも答えを出すための方法として利用されます。ただ、現実社会では、複数の解答(思想)を持つ小さなクラスタ―がいて、それが細かく分岐している状態をマッピングによって分析したり、別の可能性を考察したりするために利用されています。逆に答えの部分は、権力が一時的に決定を下しているだけです。最近ではAV新法やLGBT法のようなものが施行されましたが、これらが運動などによって訂正・変更される可能性はあるでしょう。
そういう意味で、現実での答えにあたる部分は、訂正・改正可能な余地を残す仮のものでもあるといえます。
マリオでは「クッパは悪なので倒して、ピ―チは被害者なので助ける」という絶対的な二項対立が成立しますが、現実では成立しない。
この構造に気が付き、もしこの関係性をうまく脱出ゲームに落とし込むことが出来れば、課題であった「RTA的な振る舞い」を脱する可能性があるのではないだろうか。と考えました。
その場合、絶対的な二項対立の関係を作るのではなく、本来ツールとして利用されるマッピングの行為こそを主軸にもってくる必要があります。
それによって複数の可能性を考えたり、ノイズを味わうことが出来る。余地も見いだせるだろう。次の作品の方向性が見えてきました。

「マッピング」を意識する展示会「ふつうの小学校」

2021年11月新作展示会「ふつうの小学校」を開催しました。
「マッピングを主軸にする」をテーマに作ったものです。ただ、やはりこの段階では従来の公演型の脱出ゲームをするわけにはいかず、結果として展示型になってしまいました。

舞台は町長選挙が近づいている小さな町の小学校の教室。そこで一人の小学生が失踪したことでクラス内に衝撃が走り…という物語です。

この展示会は展示会場にふらっと立ち入り、並んでいる資料を見ることができます。それらは一見何の関連性もないトピックを扱った資料なのですが、よくよく文面に目を通すと共通項が見えてきて、その後で一つの物語を読み解くことが出来ます。
参加者が出来ることは最後の町長のどちらかに投票することだけです。

今回は、オチへの期待・真実の解明へによる達成感を放棄させるということも重要でした。マッピング自体の重要性を主張するには、一つの正しい真実に辿り着きたいという欲望(報酬)を放棄することが必要な条件だと考えたからです。答えへ向かっていき、どんでん返しや構造に納得するよりも、その過程での対話やそのフィードバックをもって自分の考えを深め更新し訂正していくことが、”RTA”を防ぎ、前述した「ドキドキ文芸部」や「HerStory」のノイズ部分をより引き出すことに繋がるだろうと思ったからです。

この試みは自分の中では、納得感をもって終わらせることが出来たのですが、それは展示会として成功したということであって、エンターテイメントやゲームとして、一つの形を作ることには成功していませんでした。
脱出ゲームには、脱出成功/失敗という二項対立も、報酬の提示もあります。「マッピング」を採用するのであれば、二項対立はあくまで仮のものだと言えるようにする必要があります。なにかを開発する必要があるだろうと思いました。

「迷家ーマヨイガー」に見た別の可能性

方法を探っていた矢先、「迷家」というテレビアニメと出会います。

この作品はミステリーやホラーの体をなしていながらも、極端な話、謎解きや真実はどうでもよく、その状況下でのキャラクターの心情の変化や、関わり合いだけを書きたいという意思を感じました。
シナリオが向かってほしい方向にはいかないのですが「そうそうこれが人間だよな」と思わせてくれる魅力的な作品でした。
この「迷家」という作品は、(僕がインターネットで見る限りは)非常に評判の悪いアニメです。その感覚はよく理解できます。話の展開もとっ散らかっているし上手くないとも思います。
しかし僕は「迷家」に特段不快感も嫌悪感ももつことなく、むしろ素晴らしい作品だと評価しています。その理由としては「迷家」を自然のように楽しんだからということがあるのではないかと思います。
動物園で猿の動きを見るように、天気に自分の行動を制限されるように、そういう自然の一環として楽しむことが出来ました。

こんなことは今更言うまでもない一般にも共有されている感覚ですが、
アニメのような自由度の高いものであっても、設計図を書いて作る人工物である以上、もっときれいに(あるいはもっと面白くなるように)おさめるところにおさめてほしい。という欲望があり、その期待に応えられたか否かというジャッジがあるはずです。
エンターテイメントやゲームのフォーマットでプレイするということはそういうことだと思います。構造や変化の匠さを見られてしまう。
「迷家」はその"ゲーム"には負けて評価はされなかった。ただ、表現というのはそれ以上にもう少し無意識レベルの感覚にアクセスできる可能性もあり、僕はそちらでは素晴らしい力を発揮していたのではないかなと思います。暗い村で何が起こるか分からないような不安・恐怖感、交感神経が高まる感覚。そこで人間たちが緊張感もなくうだうだと話し、彼らの厚かましさや危機意識のなさに苛立つリアリティ…など。自分の記憶にこびりついている超越的な感覚を掘り起こす表現は巧みだったのではないかと思います。僕はそれを自然や風景といった言葉で表現しています。ノスタルジーやエモいみたいな表現が分かりやすいかもしれません。
別の作品で言えば、山下達郎の「SPAKLE」や「クリスマスイブ」が音だけで季節を捉えることが出来るのも、宮崎駿の脚本はほとんど意味が分からなくても作品に惹かれるのも、僕たちが美しい自然や景色を見て感じるときのような超越的なものをしっかりと捉えることが出来ているからだと思います。

その意味では、NotFound404からの脱出のプロモーションはここの表現を外さなかったのだと自負しています。よく「こんな無名の団体がここまで売れたのはなぜ?」と聞かれますが、予算も少なく広告費も従来のイベントより少ないですし、公式のトレーラーが出たのは開催日の2週間ほど前です。
SNSのプレゼントキャンペーンやHEPが会場だったなどもあるでしょうが、それらだけがこの売上に直結したかは怪しい。結局、要因として一番大きいのは、ビジュアルのディレクションやロゴマーク、フォント、音楽、エフェクトのチョイスを外さず、見た者のドパミンを分泌するような超越的な感覚を掘り起こした広告の表現だったのではないかと考えています。

さて話を戻します。「マッピング重視」である限り「絶対的な解=報酬の不在」はセットです。その上で、エンターテイメントのラインに載せるには「超越的なものを捉える表現」もしっかり固めなくてはならないのではないか、ということを考えていました。

そして、「NotFound404からの脱出」へ

2022年夏「NotFound404からの脱出」の企画が始まりました。
ここでの大きな目標は、展示会「ふつうの小学校」を従来の脱出イベントのフォーマットに落とし込めるかということでした。

「NotFound404からの脱出」のストーリーはざっくりと言えば、
他国との争いの抑止力として、軍事開発兵器「イエルピス」を開発しなければならないと考えている国家と、抑止力は建前で他国の支配に利用するのだろうと開発に反対し、スパイを忍ばせて対抗する「レッドオーシャン」との対立です。
参加者は労働者としてイエルピスを作るために単純な労働をさせられ、いつしか「イエルピス」という悪の兵器の開発に巻き込まれていきます。
話を進めるたびに、自身が置かれている状況が、軍事兵器を作らされている被害者でもあるが、兵器の開発に加担する加害者でもあることに気が付いて、開発に賛成か反対かで未来が分かれるという展開をまず考えました。

これをベースとしながら、「マッピング」が成立するように情報を分散させ分かりづらくする必要がありました。
そこで、1.会場内に貼られている紙 2.アプリ 3.演劇 4.ゲームを進めて得るアイテムの 4つに分散させ、これらの集合体でマッピングが可能になるようシステムを固めました。
またイエルピスやセレスなどの専門用語を使うことで、単語とその意味を結び付けるようなアクションをしてもらうという工夫も随所にばらしました。

これらを突き詰めれば「ふつうの小学校」で志向したことは達成可能だったはずです。しかし、今回は従来の脱出ゲームのフォーマットに乗せなくてはならない。
まず、脱出成功/失敗とオチを作る必要があったこと、そのラインに載せながらゲームを作る必要があること、制限時間があることです。
僕はここで失敗しました。「マッピング重視のシステム」と「従来の脱出ゲーム」を組み合わせて、うまく落としどころを作ることが出来なかったのです。

今でこそ冷静な分析があり原因を解明できていますが、当時の僕にはそれを曖昧に捉えることしかできませんでした。
ただ性質の違うものを組み合わせないといけないということはわかっていました。
丁度その頃、僕は「バイオハザードre2」をプレイしており、ゾンビを打って倒すシューティングゲームの要素とキーを拾ってドアを開けるなどの謎解きの要素をうまく組み合わさてゲームが進んでいくさまを見て、このようなやり方を活かして、なんとか成立させることが出来ないだろうかと考えました。
特に「バイオハザードre2」の好きなところは、後半にタイラントとの鬼ごっこという別のゲームが始まるのに備えて、一度様々なミッションを与えて迷路のような洋館を一旦攻略させて、配置や進路を覚えさせるというアイデアです。洋館という一つのフィールドを使いまわししながら、ルールの違うゲームを何個も提供して飽きさせないというのは、一つの劇場で何とかしないといけないという公演型の条件と同じでしたし、使えるなとも思いました。
このように性質の違うゲームを上手くハイブリッドさせるというところに可能性をみていました。

しかし、ここまで読めば分かるように、実際には組み合わせ自体に無理があります。
脱出ゲームのように、なんらかのゴールに向かってレールを敷き、そこに導いていくゲームと、オチへの期待・真実の解明へによる達成感を放棄させ、マッピング自体を中心としてみていくゲームでは目的が異なります。まずそのことを理解していませんでした。
結果的に、脱出ゲームのフォーマットに中途半端に「マッピングの機能」を混ぜるという結果になってしまい、不安定な作品になってしまったのだろうと考えています。

そもそも脱出ゲームであったとしても失敗している。

僕はもう一つ失敗をしています。
僕は「2022未来教室からの脱出」の次作から脱謎解きを志向し、「謎解き問題」を「情報集め」に変更して、脱出ゲームのシステムだけを利用してゲームを作るようになっていました。
「謎解き問題」はそれそのものが面白いですが、そもそも「情報集め」はただの作業・おつかいだというのが基本です。前者はストーリーと切り離しても単独で面白いけども、後者は「情報集め」に見えないようななんらかのカバーが必要なはずです。
今冷静になればそんなことはよくわかるのですが、性質の違うゲームを上手くハイブリッドさせるということに気を取られ、僕はこれを全く考慮していませんでした。
ですから、チュートリアルとして導入した「温度や湿度を調整するようなミッション」は失敗であった(面白くなかった)かもしれません。
ちゃんとやれば回避できたはずだとも思っています。
ではなぜダメだったのか。それは404で志したものが、『面白い脱出ゲームを作りたい!』のではなく『脱出ゲームのフォーマットに「マッピング重視のシステム」を組み合わせたい』だったからでしょう。そういう点でいえば脱出ゲームのことも中途半端に考えており、その中途半端さもこの結果を招いた理由だと思います。

つまりこのゲームにおいて面白いのは「マッピング重視」したゲームシステムであって、脱出ゲームの要素は今回ほとんど面白くなかった。にも関わらず、脱出ゲームのやり方で構成したので、例えば時間制限や二項対立に落ち着かせるなどで「マッピング重視」の面白さも最大限に活かせず、とても歪な作品に仕上がってしまったということが僕の総括です。それはひとえに僕の実力不足であると言わざるを得ません。

どのフォーマットにも乗っかれない現状を考える。

「脱出ゲームのやり方」に乗っかって失敗したという書き方をしましたが、特に前衛的なことをやろうというモチベーションで融合を目指して失敗をしたわけではないということは重要なポイントです。この「マッピング重視」のシステムがどのフォーマットにも当てはまらないという問題を考えて、突破口を見出さないとならないと思っています。

「リアル空間」「エンタメ」「マッピング重視のシステムを活かす」の3つを満たしてなんらかの形にすることがとても難しいというのが実情です。

一番近いのは、「Us」や「NOPE」のジョーダンピールや「LAMB/ラム」「ヘレディタリー」をつくるA24のホラー映画なのですが、それをリアル空間にもちより、ある程度エンターテイメントのゲームとして成立させるにはもっと頭をひねる必要があるなと思います。

監視の目が張り巡らされた薄暗い工場で、巨大な■■■の開発が進められていた。

「世の中に希望を取り戻すには■■■の力が必要である。」あなたは開発者として■■■を開発する任務が与えられていた。

目の前にあるのは複雑なマニュアル・バラバラの部品。

—— その頃、開発責任者が失踪したという情報が流れ、捜索が行われていたのだった。

同時に進む物語が一つになるとき隠された真実が明らかになる。

「NotFound404からの脱出」あらすじより

あとがき

2018年からコツコツと脱出ゲームを作り、毎回発見と修正を繰り返してきました。内容会場キャパや収容人数などスケールも大きくなり、その度、作るものの難易度も上がり続けています。そして失敗の数も多いです。
いつも器用に謎解きを作り、名作ゲームを作る同業のインディーズの団体様・作家様は尊敬の念に堪えません。今回この記事を書いて思いましたが、自分一人ではなく、様々な作品の影響を受けてここまで作って来ることができました。クリエイティブというのは相互の連環とその作用によってうまれていることを身に持って感じています。
僕は数々の失敗体験を書き連ねることしかできない非常に情けない状態ですが、これもまた誰かの糧となり、同じ轍を踏まないということで有効に機能すれば幸いに思います。

僕もまた今回の分析を活かしながら、地に足を着けて様々な実践を繰り返していきたい。非常に駆け足ですが、これが僕の作家としての5年間であり、「NotFound404からの脱出」の振り返りとさせていただきます。

maane Twitterアカウント
https://twitter.com/maane_jp

NotFound404からの脱出 Twtterアカウント
https://twitter.com/NotFound404hep

沖 健汰 Twitterアカウント
https://twitter.com/oki_kenta

今後のイベント・展示会の広報は、maaneアカウントより行います。


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