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わさびの香り~日本のスパイス~

お香の原料はすべて海外で産出される動植物で、
その原料はスパイスの歴史と深く関わっています。
今回は、海外のスパイスではなく、日本のスパイスの一つである“わさび”の香りについて見ていきたいと思います。

わさびは古来より使われてきた、数少ない日本原産のスパイスです。
お刺身やお寿司、そばの薬味など和食に欠かせないものになっています。
わさびの歴史を遡ると、飛鳥時代の遺跡にわさびを扱っていた痕跡が見つかっていることや、平安時代に書かれた薬草辞典『本草和名(ほんぞうわみょう)』にわさびの記述があることからも、古くから日本の生活に関わりのある植物であることが分かります。
さらに、江戸時代になると養殖が盛んになり、刺身にも使用されるようになりました。
今では、わさび味のポテトチップスや、ステーキに付けるスパイスやソースの材料として洋食などにも、いろいろと使われるようになってきました。

わさびは、口に含むとツーンとした清涼感のある辛味があり、その鼻から抜ける香味が特徴的です。
新鮮で上質なわさびであれば、爽やかな青い香りと甘味を感じることができます。
辞書でわさびを引くと「山葵」と出てきます。
これは、わさびが銭葵(ぜにあおい)の葉っぱに似ており、山の奥深くに自生したため、山の葵と書いて山葵となったそうですが、なぜ読み方が“わさび”となったのかは諸説あり、
はっきりとは分からないそうです。

わさびは根茎をかじっても全く辛くなく、苦味があると言われています。ただ、そのまま噛み続ければわさびの細胞が壊れツーンと辛味がこみ上げてきます。
従って、わさびは爽やかな香味を出すために、おろし器で細かくおろして使われるのです。
わさびは鮮度が大事で、おろした直後の10分くらいが一番香りや味がよく出ていますが、1時間程度で著しく香りが飛んでしまいます。
すりおろした瞬間に生まれる香りは揮発性が高いため強い辛味がツーンと鼻にきます。

わさび特有のあの香りは、わさびと同じカラシや大根などのアブラナ科の植物に含まれるからし油(イソチオシアネート)類によるものです。
からし油はわさびそのものには含まれず、シニグリンという苦味のある成分です。
おろしてすり潰すことで、わさび内にあるミロシナーゼという成分が酸素に触れ、シニグリンと水分が加水分解されます。それによって辛味の主成分のアリルからし油や香りの主成分の6-メチルチオへキシルからし油など数種類の香り成分であるからし油類が生成されるそうです。

これらの香りがわさびの特有の爽やかで微かに甘く、すがすがしい青く新緑を思わせる香りを作り出しているのです。

補足
アリルからし油には細菌の増殖抑制があり、さらには魚介類の生臭さの成分であるメチルアミンなどのアミン類と反応して他の化合物に変わることで生臭さを消し去ることが分かっています。
昔の人はわさびに消臭抗菌効果があることに気付き、早くから刺身などの薬味として利用していたのでしょう。


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